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ホンダと日産自動車が経営統合するとの報道
ホンダと日産自動車が経営統合するとの報道
右がホンダの三部敏宏社長、左が日産自動車の内田誠社長。このまま内田社長体制で日産自動車の業績は回復するのか。(写真:日経クロステック)
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 ホンダと日産自動車が経営統合の協議に入ると日本経済新聞が報じた。持ち株会社方式で経営資源を統合し、経営を一体化する方式のようだ。従って、それぞれの会社およびブランドは残す方向と見られる。

 これまで進めてきた協業よりも踏み込んだ形となる。両社は主に(1)SDVプラットフォーム、(2)電気自動車(EV)用電池、(3)電動アクスル、(4)商品の相互補完、(5)国内でのエネルギーサービスと資源循環(サーキュラーエコノミー)──の5つの領域で協業の検討を進めてきた。開発費などを両社が持ち寄って効率化し、コスト削減とスピードの向上を実現する計画だった。

 これを経営統合まで進めるというのだが、それだけで両社の業績は回復に向かうのか。

 特に心配なのは日産自動車だ。2019年に内田誠社長が社長に就任して以降、同社の販売台数は約180万台も減っている。社長就任時に掲げたリストラ計画「日産ネクスト」では、2018年度に約500万台だった損益分岐点を2021年度以降に約440万台にまで引き下げると宣言した。これを、2024年度中間決算時に発表した「ターンアラウンド(リストラ)」では、さらに350万台まで引き下げると説明した。ところが、損益分岐点を下げて利益を確保するはずが、想定以上に販売台数が落ちているため、利益につながらない。

 リーマン・ショックと大規模リコールを機に「足場固め」と呼ぶリストラを行い、高収益体質に変えたトヨタ自動車とは大違いだ。同社はこのリストラでモジュラー設計を導入し、生産技術に磨きを掛けて固定費を削減して、損益分岐点を大幅に引き下げた。その結果、新型コロナウイルス禍の影響を受けた2020年度の販売台数(765万台)はリーマン・ショックが起きた2008年度のそれ(757万台)近くまで落ち込んだものの、約2兆2000億円の営業利益をたたき出すことに成功した。

 一方の日産自動車は、内田社長の下で2019年度と2020年度の2年連続で営業赤字に沈んだ。利益体質に変えられないリストラは縮小均衡を招くだけだ。

 1998年10月にカルロス・ゴーン氏が「日産リバイバルプラン」を発表して以来、日産自動車はリストラの歴史を歩んできた。だが、肝心の営業利益率はリバイバルプラン直後の2003年度をピークに、ほぼ右肩下がりだ。つまり、内田社長はリストラに失敗したのである。かといって、成長路線も描けていない。なにしろ販売計画は未達ばかりで、「計画の体を成していない」(自動車系アナリスト)。

 日産自動車は今年度(2024年度)の中間決算において、営業利益が前年同期と比べて9割も減った。最大の理由が米国市場における販売不振にあることは、多くの人が知るところとなっている。新車不足で古いモデルの在庫が積み上がっており、インセンティブ(販売奨励金)が増加。要は、在庫処分的に割引き販売しているために、利益が大幅に悪化しているというわけだ。これではブランド価値が毀損していく一方だ。

 なぜ、こんなことになったのか。耳を疑ったのは、先の中間決算発表における内田社長のこの発言だ。「去年の今ごろ(2023年11月ごろ)まで、我々はハイブリッド車(HEV)がここまで急速に上がってくる状況というのを読めていなかった」と。

 米国市場は日産自動車にとって「生命線」だ。その極めて重要な市場において、新型車の投入計画をまともに立てていないばかりか、トヨタ自動車やホンダの好調なHEVの販売状況を見ていなかったというのである。