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Q.ITエンジニアです。今手掛けているシステムが安定稼働するまで、開発後も運用保守サービスの目的で顧客先の別室(プロジェクトルーム)に常駐しています。常駐メンバーでQA(品質保証)や不具合の対応日、変更設計書と対応区分(対応済み/未対応)を作業一覧にして、修正パラメーターやプログラムを都度リリースしています。

 顧客側の上司は、別室に来て、直接指示・叱責してくることが多いのでつらいです。自社の上司は、SES(システム・エンジニアリング・サービス)による実績工数の契約だと言いましたが、契約書そのものを見たことがないそうです。このSES契約は、派遣エンジニアの契約なのでしょうか。

 IT企業に勤める筆者の複数の知人(管理職)に聞いたところ、質問者の上司と同じようにプロジェクトの契約書を見たことがないという人が多いらしく驚きました。契約書の構成や条文は分からないと言います。

 知人の会社では、受注・発注業務を行う営業や調達部門で契約書を作成しています。契約書作成に必要な納期や納品物、報酬などの情報は、エンジニア部門が提供します。同社では契約書の完成後、エンジニア部門にフィードバックして共有する運用になっていないようです。他のIT企業では、エンジニアに契約書を理解させているという会社はあるのかもしれません。

 開発現場の会社(顧客とIT企業)は、双方とも常駐エンジニアのために、プロジェクトの契約内容と実態の整合性を確保しなければなりません。そのため、契約書をいつでも確認できるビジネス環境に置くべきだと筆者は考えます。

 エンジニアにとっては、契約書を見ることで、構成を含めて法令的な条文を読めるスキルが身につきます。特にプロジェクトリーダーや管理職クラスのエンジニアには、契約書全体を理解しておくことをお勧めします。質問者の上司も同じです。

 プロジェクト態様、派遣あるいは業務委託の種類によって契約書は異なります。例えば、業務委託契約では、記載するのはシステム開発の概要、期間、報酬や検収関係といった項目です。ほか、普段はエンジニアがあまり意識しない項目も含みます。例えば納品した成果物の知的財産権、不具合発生時の補償や責任外の項目、再委託の可否、秘密保持、損害賠償、紛争における管轄となる裁判所、その他もろもろです。