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 建設費の高騰で施設計画の見直しを迫られている、東京都中野区における「中野サンプラザ」跡地の再開発が迷走し始めた。野村不動産を代表企業とする施行予定者のグループは、当初計画していた高層棟の建設を1棟から2棟に変更する驚きの「ツインタワー案」を新たに提示した。

 ツインタワーに変更するが、1棟当たりの高さは計画していた262mの高層棟よりも低くするという提案だ。延べ面積も従来案より縮小する。高さを抑えて施工の難易度や工事費を抑える狙いがある。中野区が2025年1月29日の区議会建設委員会などで明らかにした。

施行予定者が中野区に示した新たな「ツインタワー案」(出所:中野区)
施行予定者が中野区に示した新たな「ツインタワー案」(出所:中野区)
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施行予定者が中野区に示した施設配置計画の変更案(出所:中野区)
施行予定者が中野区に示した施設配置計画の変更案(出所:中野区)
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 変更案ではツインタワー(A棟とB棟)のうち、A棟の低層階に商業施設、中層階にオフィスと住宅を配置する。高層階にはホテルと展望施設が入居し、民間事業者による一体的な運営を図る。

 B棟は下層から順に商業、交流施設、住宅を配置する。公益性の向上を目的とした広場空間の規模は維持する方針だ。音楽ライブなどを開催できる多目的ホールは、ツインタワーから切り離した低層の別棟に整備。最大収容人数7000人の規模も従来案から維持する。

 事業採算の観点から、施設用途の床面積割合も変更する。住宅の比率を全体の4割から6割に拡大し、逆にオフィスは同4割から2割に縮小する。残り2割は商業施設やホールなどに充てる。

 区は25年3月中旬までに変更案の方向で進めるかを判断。同年4月以降のスケジュールを示す予定だ。ツインタワー案が採用されれば、JR中野駅前の雰囲気は当初のイメージと大きく異なるものになる。

 中野サンプラザと旧中野区役所を解体して進める今回の再開発事業は、オフィスやマンション、商業施設が入る高層棟と、多目的ホールやホテルが入る低層棟で構成する計画だった。

当初計画の断面イメージ(出所:中野区)
当初計画の断面イメージ(出所:中野区)
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 区は21年5月に施行予定者と基本協定書を締結し、28年度中の施設完成を目指していた。ところが建築資材や人件費の高騰で、事業費が右肩上がりに膨れ上がっていった。当初1810億円としていた事業費は、24年9月に特定業務代行者である清水建設が提出した見積もりで3500億円を超える見通しになった。事業費がほぼ倍増することを受け、施行予定者は東京都に申請していた施行認可の手続きを24年10月に取り下げる事態となった。

 その後、施設用途の割合を変更し、住宅の比重を大きくする提案が出された。そして今回、建物をツインタワーに変更するという大胆な建物形状の転換案が打ち出された。変更案を採用すると工事費をどの程度抑えられるのか。また、延べ面積を縮小するかを含めて、今後の協議で詰める。

 区まちづくり推進部中野駅周辺まちづくり課の小幡一隆課長は、「現時点で決定事項はない」としつつ、「例えば工区分けをするなど、広く受注者を募れるような条件を考えることもあり得る」と話す。

 区の説明によると、施行予定者は特定業務代行者(清水建設)の変更まで踏み込んで再検討しているという。施行予定者は23年ごろに清水建設と特定業務代行に関する契約を結び、事業を進めてきた経緯がある。特定業務代行者の選定支援を行う全国市街地再開発協会によれば、「建設費の高騰などを理由に特定業務代行者を変更する例はゼロではないが、一般論として珍しいケースだ」と指摘する。

 野村不動産ホールディングスコーポレートコミュニケーション部は日経クロステックの取材に対し、「本件については中野区と協議中であり、現時点で決定事項はない」と回答した。

 清水建設コーポレート・コミュニケーション部も、「回答は控える」とした。清水建設は25年1月31日に社長交代人事を発表したばかりだ。同年4月1日付で社長に就任する新村達也副社長にとっては、この再開発の行方が大きな試練になる可能性がある。