公正取引委員会が2021年10月に、システム開発などを担う下請けITベンダー2万1000社に対する取引実態調査に乗り出した。良い機会なので、ユーザー企業がシステム開発を外注する際の問題点を、ESG(環境・社会・企業統治)の観点で考えてみたい。ただし「環境」ではない。「S」つまり「社会」の観点からである。
日本ではユーザー企業が基幹系など大規模システムを開発する際、システムインテグレーター(SIer)に発注する場合が多い。基本的に請負契約であるため、開発の実務はSIerに任せ、発注側はベンダーマネジメントと呼ばれる進捗などの管理業務に徹することになる。いわゆる「丸投げ」である。
丸投げされたSIerは、パートナー企業と呼ぶ下請けITベンダーに、システム開発の一部、場合によっては全てを再委託する。下請けITベンダーはさらに複数のITベンダーに委託し、委託されたベンダーも…といった具合に再委託を繰り返す。これが悪名高きIT業界の多重下請け構造である。
大規模開発ならば、多重下請けの末端が6次請け、7次請けといったことも珍しいことではない。「ピンハネ」も横行する。ユーザー企業が人月単価120万~150万円で発注したものが、末端では単価40万円台というひどいケースも、不況期には見受けられた。
しかも3次請け、4次請けなどでは、請負契約や準委任契約の一種であるSES(システム・エンジニアリング・サービス)契約であっても、実態的には労働者派遣と変わらないケースが多々ある。いわゆる「偽装請負」だ。納期を絶対視することから、極端な長時間労働が常態化することもある。
多重下請けの実態は、IT業界の関係者の間では半ば「常識」だ。だが、ユーザー企業は自社のシステム開発プロジェクトにおける実態を知るよしもなかった。というか、SIerに請負契約で任せきりにしている以上、知る必要はなかったのだ。SIerも我関せずだ。自らが直接関与しない3次請けより先の取引実態などについては、SIerがあずかり知らぬことでよかったからだ。