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 2023年6月14日にデンカ青海工場(新潟県糸魚川市)のクロロプレンモノマー製造設備の配管が破裂し、3人が死傷した事故の原因が明らかになった。原因は、配管内に堆積したスケール(付着物)。クロロプレンモノマーが化学反応を起こし、TNT(トリニトロトルエン)爆薬に匹敵する発熱量の爆発物質に変化していたのだ。2024年1月11日に公表された事故調査最終報告書(以下、報告書)を基に事故の概要を解説する1)

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 事故は、同工場田海地区工場のクロロプレンモノマー*1製造設備における配管の更新工事中に起こった(図1*2。合成したクロロプレンモノマーを貯蔵設備へ移送する配管を取り外すためにセーバーソー(電動のこぎり)で切断していたところ、切断部分から約2.9m先の配管が破裂し、作業していた協力会社の3人のうち、破裂箇所付近で配管を手で支えていた作業員が死亡し、切断作業に当たっていた作業員と作業を監督していた作業員がそれぞれ負傷した(図2)。

図1 デンカ青海工場
図1 デンカ青海工場
(写真:デンカ)
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図2 事故発生時における被災した作業員3人の位置状況
図2 事故発生時における被災した作業員3人の位置状況
写真は事故が起こった貯蔵設備の様子。作業員(B)はパイプラック梁上に乗り、8mほどの長さがある配管の中央辺りを切断しようとしていた。死亡した作業員(A)は、切断箇所から約3m離れた位置で上半身を写真右向きにして右手で配管を支えていた。作業員(C)は貯蔵設備内(写真奥側)のデッキ上にいた。(写真:事故調査委員会)
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*1 クロロプレンモノマー クロロプレンゴムの原料となる化学物質。クロロプレンゴムは、ベルトやホース、自動車部品など幅広い用途に使用される樹脂材料で、デンカの主力製品である。
*2 工事は、一部の配管内壁に付着しているスケール(付着物)を洗浄しやすくするために、デンカが建設会社に配管の更新工事を発注したものだった。実際の作業は、その建設会社から依頼を受けた施工会社が行った。被災者はいずれも施工会社の従業員。

体内から複数の金属片、半径25mに飛散

 新潟県警によると、死亡した作業員の死因は胸部の大動脈損傷。体内からは破裂した配管の破片とみられる金属片が複数見つかった。

 大きく湾曲したステンレス鋼製の配管が、破裂の威力の大きさを物語る(図3)。破裂箇所は、上流側に位置するフランジ付きエルボ部から下流側に向かって64.5cmの直管部分だった(図4)。配管の破片は半径約25mの範囲に飛散していた(図5)。

 これほどの威力の爆発を引き起こした原因は何か――。

図3 破裂した配管(上)と交換予定だった新しい配管(下)
図3 破裂した配管(上)と交換予定だった新しい配管(下)
破裂した配管は破裂部付近が大きく湾曲している。破裂した配管でピンク色のテープが巻いてある部分は切断箇所を示す。(写真:事故調査委員会)
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図4 破裂した配管の模式図
図4 破裂した配管の模式図
エルボ部からから2.9m下流側の位置でセーバーソーによる切断を行っていた。上流側のフランジから長さ64.5cmの配管が破裂・損失した。(出所:報告書を基に日経クロステックが作成)
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図5 破裂した配管の破片
図5 破裂した配管の破片
破裂により損失した配管の長さは64.5cm。破片は878.5g回収できた。一方、健全な配管の質量は64.5cmで1406gのため、回収できた破片は全体の62.5%で、残る37.5%は回収できなかった。(写真:事故調査委員会)
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