「海外のリソースプールを活用しないとITの伸び率に追いつかない」――。日本IBMの濱田弘之執行役員コンサルティング事業本部サービスデリバリー統括は、こう語る。富士通の齋藤伸一ジャパン・グローバルゲートウェイ本部長も「今後国内の人材が減っていく中で、今のやり方では無理だろう」と、同様の見方を示す。
経済産業省の予測では、日本のIT人材不足は2030年に最大約79万人に達する。国内での人材獲得競争が激しさを増す中で、システム開発ニーズに応え続けるための鍵となるのが海外の人材だ。大手ITベンダーによるオフショア開発の方針には、大きく2つの傾向が見て取れる。
富士通は日本にハブ拠点
1つ目は開発人材の供給体制をグローバルで見直すというものだ。富士通や日本IBMは、各国に設置したデリバリーセンターの最適化に力を注ぐ。
富士通は7カ国にデリバリーセンター(Global Delivery Center、GDC)を設けているが、課題を抱えていた。その1つが「オフショアの人材はプロジェクトごとに都度アサインしており、生産性が上がらない」(富士通の齋藤本部長)ことだった。
そこで2020年からデリバリー体制の標準化に着手。事業部門や顧客部門などとGDCのハブ組織となるJapan Global Gateway(JGG)を設置し、人材リソースの配分などを担わせる形にした。例えば日本の顧客から案件を受託して開発リソースが必要になった場合、事業部門などがJGGに相談。国内のSI系グループ会社を統合したJGGに所属する約9000人と、GDCが抱える9000人の日本向けリソースから、適した人材をアサインする。
最適なアサインを実現するための仕組みも構築済みだ。「ServiceNow」などのSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)製品を活用して構築したもので、人材アサインなどに活用している。将来見込まれる案件に向けた人材確保や需要予測を踏まえたアサインも可能にしているという。
日本IBMは(1)自社エンジニア(2)国内パートナー企業(3)「地域DXセンター」と呼ぶ国内8カ所のニアショア拠点(4)グローバルに展開するデリバリーセンター、の4つのリソースからシームレスに開発体制を構築する。新型コロナウイルス禍によるリモートワークの定着を機にニアショア・オフショア戦略を加速させ、2025年に向けて「ダイナミックにリソースを提供できる体制が整った」(日本アイ・ビー・エムデジタルサービス井上裕美社⾧)。
注目されるのは対日オフショア開発先のシフトだ。日本IBMのオフショア率は現在10%程度。主力としてきた中国での規模を半減させる一方で、フィリピンへのシフトを進めている。2022年、2023年に、同国のデリバリーセンターに日本案件を専門とする「ジャパン・イノベーション・ハブ」を2カ所設置。数百人が日本の開発案件を担当している。