企業の生成AI(人工知能)活用がいよいよ本格的な実用段階に入った。生成AIブームに最初に火が付いたのは2023年。当初は米Microsoft(マイクロソフト)の「Azure OpenAI Service」などの生成AIサービスを活用し、全社向けに生成AIのチャット環境を展開する企業が相次いだ。ブームに乗り遅れまいと、とりあえずは導入してみるという姿勢の企業が多かった。
それから2年。汎用的な用途だけでなく、マーケティングやコールセンターなど業務に特化した生成AIシステムの導入が広がってきた。生成AIが企業の業務プロセスに戦略的に組み込まれるようになった。キリンホールディングス(HD)や富士フイルムHDなど多くの企業が本格導入に乗り出している。本特集では先進20社の取り組みから、生成AIを活用した業務効率化・高度化のノウハウを探った。
「生成AIファーストを業務の大前提にする」――。セブン&アイHDの宮路敬志デジタルイノベーション部デジタルマーケティングオフィサーは業務プロセスに生成AIを組み込む秘訣をこう語る。業務効率化を見据えてマーケティングの業務を棚卸しし、業務プロセスごとのタスクを洗い出した。その中から生成AIを適用できるタスクを探し、生成AIを組み込んだ業務プロセスに再構築した。
一連の流れを経て、セブン&アイHDはメールマガジンにおける開封率の高い文章の作成に生成AIを使う方針を決定。外部委託費の84%削減を達成した。こうした生成AIを前提とした業務プロセスの再構築が業務効率化の鍵を握る。
セブン&アイHDではデジタルイノベーション部が中心となって、マーケティング以外の分野でも生成AIの活用が進む。カスタマーサービスや社内業務の効率化、店舗支援や顧客体験の向上、データ分析といったプロジェクトがある。定例会で事例を共有し、意見交換しながらプロジェクトを進めている。
損害保険ジャパンは代理店と営業店、本社間における保険の引き受けや規定に関する照会対応を支援する生成AIシステムを内製で開発した。マニュアルやQ&Aデータなど社内文書を参照して回答を生成する。2024年10月から営業店8部店、本社商品部に展開し、約40%の照会業務削減につなげた。2025年1月10日時点で利用回数は1万回を超え、2025年2月からは追加で8部店への展開も予定する。
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