福岡市営地下鉄を運営する福岡市交通局は、ICカード「はやかけん」を活用した派生サービスを強化している。はやかけんは2009年3月に地下鉄乗車券として商用化された。2009年9月中旬までの半年間で8万8000枚が発行。目標を上回るペースで普及が進んでいる。
福岡市交通局は公営鉄道だが、営業面では福岡市内にバス路線を持つ西日本鉄道などと激しい競合関係にある。西日本鉄道もICカード「nimoca(ニモカ)」を発行し、独自サービスで差異化を図っている(関連記事)。福岡市交通局は、サービスを追加しやすいはやかけんの特性を生かし、地下鉄やカードそのものの利用促進につなげる考えだ。
具体的には、小学生を対象としたサービス「見守りタッチ」を2009年4月から実施。9月までに福岡市内の小学校2校の児童約500人が利用している。はやかけんのICカードを駅や校内に設置したICカード読み取り端末に軽く触れさせると、保護者の携帯電話などに「通知メール」を配信し、子どもの居場所を把握しやすくする。現在は無料の試験サービスだが、2010年以降の有料化を目指す。
同様のICカードを利用した情報配信サービスは、関西地区の私鉄や首都圏の小田急電鉄などが「あんしんグーパス」の名称で提供中だ。見守りタッチサービスがこれらと異なる点は、駅以外の場所にも自由に端末を設置できることである。現在利用中の2校では、学校の昇降口や「留守家族子供会」(学童保育)の室内に端末を設置している。
20個の「フェリカポケット」領域を利用
はやかけんのICカードには、乗降・残金情報などを保管するデータ領域とは別に「フェリカポケット」という20個のデータ保存領域がある。つまり、1枚のカードで最大20個の機能を持たせることができる。見守りタッチではこのうちの1個の領域を使う。
福岡市交通局は見守りタッチと同様の仕組みを応用し、2009年9月18日から10月31日までの期間限定で「はやかけんタッチラリー」も実施している。地下鉄の駅と、駅から徒歩圏内にある「ホークスタウン」「キャナルシティ博多」などの観光施設に読み取り端末を設置し、ICカードで軽く触れるとポイントがたまる。この取り組みでは、ポイントを付与することによって地下鉄の利用を促進するとともに、利用者の回遊状況のデータを蓄積・分析して今後の観光施策立案に生かす狙いがある。カードから得られる行動履歴をマーケティングに生かす「ライフログ」の考え方だ。
JR東日本の「Suica(スイカ)」などのICカードもフェリカポケット領域を持つ場合があるが、多くの発行主体は利用制限を課している。これに対し福岡市交通局は、はやかけんの20個のフェリカポケット領域を福岡市のほかの部局や民間企業が自由に利用できるように開放する方針を打ち出している。例えば、福岡市が高齢者福祉のために磁気カードで配布している「高齢者乗車券」を、2010年秋をメドにはやかけんに全面移行する予定だ。これによって、はやかけんの利用者は一気に10万人程度増える。
福岡市交通局総務部主査(ICカード担当)の関岡勲氏は、「はやかけんをうまく活用すれば、住民票関連や高齢者福祉関連、民間の商店街活性化などの施策を、新たにカードを発行・管理するコストをかけずに実施できる。市役所内の様々な部署や民間企業と協業を進めて、はやかけんを『福岡市民カード』に育てたい」と説明する。
2009年9月中旬までの発行枚数を8万8000万枚としていましたが,正しくは8万8000枚です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2009/10/06 10:00]