写真1●「crab net」のログイン画面 |
福井県の魚である「越前ガニ」をデザインに利用した。 |
福井県は10月24日、庁内SNS「福井県職員政策フォーラム(crab net)」を本稼働させた。9月1日から庁内約40人のワーキンググループでテスト稼働を開始、実際に利用をしてもらいながらシステム調整をしていたが、この日から全庁での利用を始めた。
併せて、Webブラウザから簡単にWebページの発行・編集などが行なえるシステム「Wiki」を活用したナレッジマネジメントツール「crab wiki」を構築、SNSと二つのシステムを立ち上げて議論から情報の共有までをシームレスに行える仕組みを作り上げた。「SNSは議論やコミュニケーションの場であり、Wikiは暗黙知を形式知化する場。この二つをリンクなどを通してシームレスに活用できることを期待している」と、福井県総合政策部政策推進課の澤崎敏文 企画主査はコメントする。
写真2●ログイン後の画面 |
(1)SNSは基本的にOpenPNEのデフォルト画面で運用。(2)庁内基幹システム(グループウェア、財務会計システム、職員情報システム等)のログイン画面、(3)情報共有用のWIKI、(4)天気予報とニュース速報(RSS)は福井県独自でカスタマイズした。 * デモ画面のためニックネームを使用しているが実際は実名で登録する。 |
写真3●「crab wiki」でのwiki機能の活用例 |
庁舎管理者が一括管理している以外の会議室の情報を全員で共有。 |
SNSは「OpenPNE」、Wikiは「FSWiki」と、いずれもオープンソース・ソフトウエアを採用。システムは総合政策部政策推進課の職員が自ら構築した。「将来的に庁内にあるLDAPサーバーと連携してシングルサインオンが実現を考えており、そうなればメールや基幹業務関連ともスムーズに連携できるようになる。OpenPNEは、LDAPなどの他システム連携が考慮されており、その点も採用した理由の一つだ。FSWikiは、変更履歴が残ることと、役所で色濃く残る紙文化に対応できるPDF化機能があることから採用した」(澤崎企画主査)という。
「crab net」には全職員(約4000人)を事前に登録した。「政策を議論するためのツールとしてのSNS」という位置付けであるため、一般的なSNSのような招待制は採用しなかった。また、参加(閲覧・書き込み)は業務して位置付けている。ただし、利用は任意であり、政策以外の自由な議論をしてもよいことになっている。
定着していた電子掲示板をSNSにリニューアル
福井県ではこれまで、庁内の電子コミュニティとして、電子掲示板「職員政策フォーラム」を運営していた。所属単位で事業立案を行っていく従来型の政策形成では埋もれてしまう可能性のある大胆な発想や素朴なアイディアを、積極的に活用できる仕組みが必要であるという観点から設置したものだ。2006年7月5日から本格運用を開始し、2007年10月1日時点で累計約20万アクセスを達成。多い日には1日6000~7000アクセスを記録したこともあったという。
SNSへの移行に伴い、現在の電子掲示板は過去ログの参照のみで書き込みはできないが、それまでは並行して20以上のテーマが議論されていた。ここでの議論から具体的な成果も生まれている。例えば、福井の恐竜ブランドの発信に関するテーマでは、ここでの議論を元に、環境省と共同でのロゴ開発、セガのカードゲーム機「古代王者 恐竜キング」への採用などが実現した。
所属や役職に捉われることなく、アイデア本位で関心のある分野について自由に意見を提案・議論できる場として、職員間ですっかり定着したかに見えた電子掲示板だが、課題も浮上してきた。原則は記名での投稿だったが匿名での投稿も認めていたためか、「政策や事業として具体的にどうしていくべきという建設的な意見が少なくなってきた」(澤崎企画主査)のである。そうしたこともあり、今回、庁内SNS「crab net」としてリニューアルし、職員の身分や所属を明らかにした上で議論をする場として庁内の電子コミュニティを再設定した。SNSの特徴でもある庁内での人脈づくりや円滑な人間関係の形成も期待できる。
福井県では今後、SNSの構築・運用などについて他の自治体へノウハウの提供も行っていきたい意向だ。部局を超えたプロジェクトチームやワーキンググループを「制度」として根付かせる方法、そして、そこでの議論や成果の蓄積の場を作るためのシステム活用について、今回のノウハウを何らかの形でドキュメント化して他の自治体の方々と共有できないかと考えているという。