経済産業省は2010年8月16日、「クラウドコンピューティングと日本の競争力に関する研究会」報告書を公開した。報告書に基づきクラウドに関する(1)基盤整備、(2)制度整備、(3)イノベーション支援の3つを柱とする政策を進めるとしている。
同研究会は、慶應義塾大学 環境情報学部教授 村井純氏を委員長として、2009年7月よりクラウドコンピューティングにおける日本の競争力強化のために取り組むべき課題を検討していた。
「2020年までに累計40兆円超の新市場創出」
報告書では「クラウドコンピューティングを活用した新サービスの創造やグローバルマーケットの獲得は、2020年までに累計40兆円超の新市場創出につながるものと期待される」としている。センサー情報や行動履歴などを活用した需要発掘や新サービス創造などが寄与するという。またテレワークの拡大などによる生産性や労働参加率の向上は潜在GDP成長率を0.3%押し上げ、交通分野でのリアルタイムの実空間制御などによる社会のエネルギー効率改善によってCO2排出量の1990年度比約7%の削減が期待できるとしている。
このようなクラウドコンピューティングの効果を最大限に引き出すため、報告書では政府に対し以下のような政策の推進を提言している。
(1)基盤整備
データセンターの国内への立地を促進するため、自治体、電力会社、データセンター事業者、IT企業などの連携を複数の地域で構築する。また、データセンターの環境性能を示す省エネルギー指標(DPPE:Datacenter performance Per Energy)や、信頼性を高めるクラウド間連携手続き、信頼性指標の標準化を目指す。
(2)制度整備
データの外部保存やサービスの外部委託の障害となる規制の緩和、匿名化などプライバシーに配慮したデータ活用や流通のルール整備、デジタル教科書など著作物の二次利用を可能とする制度整備などを推進する。
(3)イノベーション創出の後押し
大量の情報をリアルタイムに処理することで新たな需要が喚起されるような分野について、ビジネスプラットフォームの構築や実証を推進、クラウドを通じたビジネスの国際展開を図る。
経産省では今後、報告書に基づき、クラウドコンピューティングの普及、促進を図るための政策を進める方針である。
日本OSS推進フォーラムがクラウド領域の活動を本格化
また経産省では報告書の公表と合わせ、日本OSS推進フォーラムがクラウドコンピューティング領域への活動を拡大すると発表した。日本OSS推進フォーラムはオープンソースソフトウエア(OSS)の活用や普及促進を目的とした、大手コンピュータメーカーや大手システムインテグレータを中心とする団体。政府のOSS推進施策と密接に連携して活動してきた。OSSに加え、クラウド推進政策でも経産省や総務省と連携して活動する。
日本OSS推進フォーラムでは2010年5月にクラウド部会を設置、クラウドコンピューティングを実現するOSSの検証や、社会インフラとしてのITを実現する「ソーシャルクラウド」を実現するための課題や技術についての検討を行っている(関連記事)。
今後、日本OSS推進フォーラムではこれまでの活動に加えて、技術者間の協力体制構築、信頼性やセキュリティの評価に関する標準化に向けた提案活動、クラウド環境における法制度整備に向けた提言活動、クラウドを安全に活用するための環境整備を行っていく。
これらの活動のため、現在の会員に加え、クラウドに関連する団体や企業に、フォーラムへの参加を働きかける。OSSに加え、クラウド領域の活動を本格化することで、組織名称を含めた体制の見直しも検討するとしている。
[経済産業省の発表資料]
[日本OSS推進フォーラムの発表資料]