「2010年にこういうことをするのか」。最近一番驚いたのは、ある日本メーカーが売り出した掃除機を新聞広告で見た時である。驚いた理由は書くまでもないと思う。もっとも、日本のメーカーは昔から似たような取り組みをしてきた。コンピュータ・メーカーもそうであった。

 「驚いた理由」が分かりにくい、と思われるかもしれない。「書くまでもない」のではなく、「驚いた理由は書きたくない」というのが本心である。

 ますます分かりにくくなったので、やむを得ず書く。その日本メーカーの新製品は、イギリスの掃除機メーカーの製品とそっくりに見えた。

黒船を研究する

 Webで検索してみると、そのメーカーの事業責任者は、イギリスのメーカーの製品を「黒船」に例えていた。これまた驚きであった。驚いた理由は書くまでもないと思う。

 「何を言いたいのか。お前は記者なのだから、そのメーカーにさっさと取材に行き、『こんな製品を出すのはいかがなものか』と聞けばよい」と感じた読者もおられよう。

 本来そうすべきなのかもしれないが取材はしていない。筆者の担当は情報システムであって、家電ではないからだ。これは言い訳であって、本音を書けば「『こんな製品を出すのはいかがなものか』などと質問したくなかった」となる。

 なぜなら、そのメーカーはそのメーカーなりに、掃除機ビジネスの今後を考え、あの新製品を出す決断をしたと想像できるからだ。あまりにも似ているのは、イギリスの「黒船」を研究し過ぎたからで、他意はないのかもしれない。

 ただ、あの製品を作った技術者はどんな気持ちなのだろう。「上司に命令されてこんなものを作らされた」と嘆いているかもしれない。たまたま会ったあるコンサルタントにこう話すと、「心配には及びません。案外、意気軒昂で『当社の掃除機は、ここが違う』と細かい特徴を熱心に説明してくれるのではないですか」という答えが返ってきた。

 なるほどそうかもしれない。似ているのは製品コンセプトと概観だけで、実際の中身については相当な工夫がこらしてあるのであろう。それでも、取材に行くのは気がひける。嘆きを聞くのは辛いし、相当な工夫を聞かされても辛い。

全部コピー作戦の顛末

 冒頭に「コンピュータ・メーカーもそうであった」と書いた。たまたま『ユニケージ原論』という本を読んでいたら、熊谷章タオベアーズ合同会社代表という方が「なぜ、閉塞状況に陥るようになったのか」と題した節で次のように書いていた。

 われわれ日本人は重大な選択を行った。汎用コンピュータ全盛の先駆け時に、日本の全メーカがアメリカのコンピュータ互換方針を打ち出し、その道を一目散に走ったのである。ハードウェアもソフトウェアも自らの頭と手で考えて作ることを止めてしまった。あるメーカでは「ZC作戦」という笑い話が後世に伝わっているほどである。

 ちなみに「ZC」とは「全部コピー」の略だそうだ。「デッドコピー」で「DC」が正しいのではないかとつまらないことに気付いたが、全部をZと略したあたりに何とも言えない、寂しい雰囲気が漂っている。まさかとは思うが、かの「Z旗」にあやかろうとしたのであろうか。