9月の自民党総裁選で勝利した石破茂首相が戦後最短となる早期解散に踏み切り、10月27日投開票の日程で行われた衆院選。「裏金問題」に加え、選挙途中に浮上した2千万円支給を巡る報道が、県内選挙区にも影響を与えた。
激戦となった2区は自民前職の岸信千世氏と立憲民主元職の平岡秀夫氏という昨年4月の補選と同じ構図の一騎打ち。元法相の平岡氏が新たに選挙区に加わった周南市を中心に活動を展開して手応えを感じる一方、33歳の岸氏は若さや未来への責任をアピールし、公明党の応援も得て優勢に選挙戦を運びたい考えだった。そんな中、裏金問題で非公認となった候補が代表を務める政党支部に自民党が2千万円の活動費を支給したことが報道されると、岸陣営は大逆風に。党の森山裕幹事長や小泉進次郎選対委員長(当時)ら大物が続々と応援に入った。
結果は岸氏が平岡氏を1724票差でかわして再選。落選した平岡氏は比例中国ブロックで復活当選し、12年ぶりに国政に返り咲いた。米軍岩国基地や上関原発計画を巡る対応などで主張が異なる両氏。支持が拮抗(きっこう)するだけに今後の動きから目が離せない。
1区には自民前職の高村正大氏と新人3人の計4人が立候補。高村氏は、旧徳山市長や衆院議員を務めた祖父の代から周南市という強固な地盤を引き継いできたが、今回の区割り変更で同市を2区へ明け渡した。その代わりに1区に加わったのが宇部市。宇部の自民党支持者も「よそ者だ。あの人は知らんという人が多い」と選挙中に公然と話すほどで、高村氏は同市での活動に注力し、過去あまりしてこなかったという個人演説会を積極的に開いた。
対する野党は、市民団体が候補の一本化を模索したが調整は難航し、結果的に候補の乱立を招いた。そのため自民への批判票が分散し、高村氏は次点とダブルスコアの差をつけて3選。一騎打ちだった前回選挙と単純比較はできないが、得票率は今回大きくダウンしており、課題を残した。
3区は自民前職の林芳正氏と新人2人の計3人による選挙戦となり、林氏が大勝で再選を果たした。林氏にとって「地元中の地元」の下関市が選挙区に加わり、父・義郎氏(故人)や自身の参院議員時代からの下関の後援会関係者は歓迎。一方で旧4区の下関、長門両市を地盤とした故安倍晋三元首相の支持者らの動向が注目された。ふたを開ければ、得票率は下関で7割近く、安倍家の墓所がある長門では8割近く。林氏の支持者らは「官房長官の次は“長州9人目の宰相”誕生だ」と期待を込める。
一方、安倍氏の“後継”として旧4区の地盤を受け継いだ自民前職の吉田真次氏は、転出先の比例中国ブロックで当選を決めた。
「政治とカネ」の問題に揺れた今年の衆院選。与党にとっては逆風の戦いだったが、県内では3選挙区全てで議席を死守した。「野党共闘には批判もあり、一筋縄ではいかない」と地元の野党幹部は振り返る。地方議員も含め、組織力のもろさが指摘される野党が有権者にどう浸透を図り、政治の刷新を訴えていくか。来年の夏には参院選が行われる。
(竹久祐樹、湊孝典、山田貴大、石田晋作)
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さまざまな出来事が相次いだ2024年。山口県のこの1年間のニュースを振り返る。
【メモ】小選挙区定数の「10増10減」を受けた新たな区割りで行われた今年の衆院選。山口県は1減の「3」となった。県全体の投票率は52・07%で前回を2・4ポイント上回ったが、戦後2番目の低さ。県内では全選挙区で自民候補が勝利したが、全国では自民党と公明党を合わせた与党の議席数が過半数割れした。