ここまでひどい記事は久しぶりだ。
渡辺明名人の疑問「将棋の初手でこれを指したら負けという“必敗”の手はありませんか?」 脳研究者の答えは…
https://number.bunshun.jp/articles/-/846635
この手の対談は、編集側が元の発言とは異なる意図で解釈して、誤った書き方にしてしまうことが多々あるので、誰が悪いのかということはここでは問題としないことにする。ただ、内容が間違いだらけではあるので、ここではそれを指摘するに留める。
14年前のAIは「奨励会1級とか初段ぐらいだった」
池谷 渡辺さんのすごいところは、転換期を迎えた時に「じゃあAIに学んでみるのも面白いかもしれない」と思ったことですね。柔軟な適応力で発想の着火点をスムーズに転換されています。渡辺さんはかなり早い時期からAIと対戦されていましたよね?
渡辺 あれは2007年ぐらいでしたが、まだAIが全然強くない時期でした(2005年に角落ちで「激指」と、2007年に平手で「Bonanza」と対局していずれも勝利)。
池谷 ディープラーニングを使ってない時ですからね。
「Deep Learningを使っていないから弱かった」かの言うのは間違っている。(この文脈で言うにはふさわしくない)
歴史上、名人に初めて勝利したPonanzaは、Deep Learningを使っていない。将棋電王戦に出場したソフトはすべてDeep Learningは用いていなかった。2017年時点において、将棋ソフトはDeep Learningを用いずに名人を破る強さに到達したのである。(それ以前にとっくに到達していただろうけども、公式の場で名人と対局する機会があったのは2017年である)
// Ponanzaは、2017年に出場した電王戦で佐藤天彦名人と対局を行い、第1局は71手、第2局は94手で勝利した。
渡辺 先手必勝の手順や初手でこれを指したら負けという“必敗”の手はありませんよね?
池谷 将棋では「ない」ことが数学的に証明されていますが、実はチェスではあるんです。絶対に負ける最初の一手というのが。AIと対戦してその初手を指すと、その時点で「あなたの負け」と表示される。一手詰(笑)。将棋は奥深いゲームで、そういう単純な解は存在しません。どの駒を最初に動かしても、なんとか逆転できることが分かっています。その点では個性を発揮する余地は残されている。
まず「将棋では「ない」ことが数学的に証明されています」とのことだが、そんなことは証明されていない。例えば、初手86歩(角頭歩)や58金左(居飛車放棄)はおそらく先手負け。それを証明するだけの計算力(+アルゴリズム)は現在のコンピューターに足りていないが…。
「実はチェスではあるんです。絶対に負ける最初の一手というのが。」は、なんだろう…。池谷先生は、何か別のゲームと勘違いされているのか、それとも、編集部がやらかしてしまったのか。チェスも探索空間は広大で、初手で最悪手を指したとしても、そこから後手勝ちまでを証明することは現在のコンピューターでは到底不可能。
「将棋は奥深いゲームで、そういう単純な解は存在しません。どの駒を最初に動かしても、なんとか逆転できることが分かっています。」は、完全に意味不明。そんなことは「分かってない」し、証明もされてないし、そんなことを信じている将棋指しも将棋ソフト開発者もいないと思う。相手がミスするなら話は別だが、だとしたら、先のチェスの話との整合性がとれない。
とにかくデタラメ三昧の対談記事であった。対談相手の渡辺明名人もなぜこんなデタラメをスルーしてるのかがよくわからない。対談時は普通の内容だったのが、編集でおかしくなってしまったのだろうか。
ちなみに、この記事のツイッターの反応がこうだ。
さながら、贋作の骨董品を掴まされたのに「安くでいい物が買えた」とほくほく顔の人のようである。
2021/01/15 18:00 追記
記事の内容が修正されたようです。
絶対に負ける一手が存在するのは「チェス」じゃなくて「チェッカー」かなーとか思いました。
似てるようで大違いですがなw
Checkmate for checkers : Nature News
https://www.nature.com/news/2007/070716/full/070716-13.html
ここをgoogle検索で読むと「チェッカーは完全解析されたよ。ただし500万手しか読んでないよ」みたいな雰囲気の事が書いてありました。
2007年の記事です。
> google検索で読むと
「Google翻訳で読むと」かな?
チェッカーの完全解析の手法は、後退解析でしょうから、1スレッド1Mnpsぐらいでそうなので、8スレ環境であれば1秒未満で解析できちゃう…。
チヌークの話 面白いのに……☆( =^ω^) すごい人間のチャンピオンが対局の途中で病気で亡くなってしまったが開発者たちには最後までやりたかった意欲が続いていて、 当時のPCで10年以上計算がかかるの見越してバグ取りに熱狂して 弱い証明で完全解析したんだぜ☆( =^ω^)
チヌークってなんすか?
https://webdocs.cs.ualberta.ca/~chinook/
この Chinook project のことですかね?
アメリカ英語らしくシヌークと発音されるのが通例なようですが
電王戦やガスパロフの前に 人間のチャンピオンと戦ったチェッカーのコンピューターソフトだぜ☆( =^ω^) ディスプレイが分厚い頃で、研究所はトロント☆( =^ω^) トロントのコンピューターの歴史も気になるぜ☆( =^ω^)
ほほー。チェッカーの歴史は知らなかった。
チェッカーの解析は,終盤データベースの構築には後退解析を使っていますが,そのデータベースに含まれた局面を終端としたアルファベータ探索,証明数探索を行っています.このあたりの詳しい話は,scienceの論文
https://science.sciencemag.org/content/317/5844/1518.abstract
にもありますが,著者の一人の岸本章宏さん(IS将棋の著者の一人,現IBM Research)が情報処理学会誌に書いた
https://ipsj.ixsq.nii.ac.jp/ej/?action=repository_uri&item_id=65815&file_id=1&file_no=1
が読みやすいと思います.なお,探索が5*10^{6}ノードというのは誤読だと思います.チェッカーの状態数5*10^{20}に対して,10^{14}ノード程度の探索で証明できたので,1/(5*10^6) 程度のノード数削減を実現したとscienceの論文には書かれています.しかも,この探索ノード数には終盤データベース作成のための探索は含んでいないので,現時点であっても追試には相当の計算機資源が必要だと認識しています.
あー、なるほど。大変勉強になりました。チェッカーの完全解析、現代においても(計算量的に)かなり手強いんですね。
// さすがに探索局面数が5Mってなんか少なすぎるでしょと思ってました。
// それはそうと、まさか、田中哲朗先生から直々にコメントがいただけるとは…。
量子コンピュータが2019年にアメリカで開発とかもビックリばなしです。
あと直感とひらめきの話もメチャクチャな気が。
その区別も納得できないけど、それを譲ったとしてAIの手の意味がわからなくなってるって名人が言ってるのに
「論理的に解析されることが増えている」って意味不明。
読みの射程が伸びているってのはノードの数の話では。
『2019年に、アメリカで世界最速のスーパーコンピューターの計算速度を超える、新しい原理で作動する「量子コンピューター」が開発されて世界中が驚きました』
は
『2019年10月23日、グーグルは世界最高速のスーパーコンピューターが1万年かかる計算問題を量子コンピューターは3分20秒で解くことに成功して量子超越性を世界で初めて実証したと発表』の事だと思う
はい、量子コンピューターは万能ではないのにあたかも万能であるかのように喧伝するのは間違っていますし、そして、万能でないがゆえに将棋に応用できるかどころか、ほとんどの問題に対しては無力であると考えられるのに、将棋に適用できる前提で話を進めること自体がおかしいと思います。
// これが編集部のやらかしなのか、池谷先生の勘違いなのかは気になるところ…。
で、誰が結局悪かったの??
たややんさんがこの雑誌でインタビューを受けた時は、
https://twitter.com/tayayan_ts/status/1349641370286190592
> 記事公開前に内容等のチェックの機会をいただけましたが
とのことらしいです…。
コンピュータ将棋の傍観者のわたしでさえ「え?初耳だけどほんとに?」と思った内容だったので、現場からの指摘を知ることができて安心しました。
仮に対談時に実際にこのような発言があったとすると、たぶん羽生さんや藤井くんであれば、その場でノリノリで突っ込んでくれたような気もしますね(笑)
東大で写真を取るならそのキャンパスにもっと良い適任者がいたでしょ、と思ってしまいます。
適任者は学術誌ではない週刊誌の取材に応じている暇がないのだったり(^^ゞ
将棋の話だけならワンちゃんスルーされたかもしれないのに、迂闊にチェスのことを持ち出したことで
エンジンとの付き合いが長いチェス界隈からツッコまれたりネタにされたりでいつもより盛り上がった印象もありますw。
COVID-19でどこもかしこも忙しいはずなのに、昼のテレビに出ていられるコロナウイルス専門家(
やねさんの言うように酷い記事ですね。『誌面に掲載しきれなかったのが、将棋とAIについて。』酷すぎて雑誌に載せれなかったんでしょう。多分。雑誌掲載は『東大白熱対談 渡辺明×池谷裕二「脳とAI、昼寝とラムネ」』らしいんですが、池谷裕二さんの酷さ見てしまうと金出して読もうと思えない・・・
> 「脳とAI、昼寝とラムネ」』らしいんですが
「寝言は寝てから(昼寝してから)言え」というツッコミ待ちなのかも…。
https://twitter.com/BigHopeClasic/status/1349710464318464001
> 池谷教授の読みは「いけがや」なのです……
これは大変失礼しました。(URLに埋め込んであるスラッグの件) 修正するとURLが変わるので、もはや修正できませんが…。
> 対談時は普通の内容だったのが、
ここだけ読むと対談を直接聞いてたように読めるのですが、どういう意味なのか気になりました。
え。そんな風に読めないと思うよ。
Twitterでちょっと勘違いして感想書いたらIDも隠されずに『さながら、贋作の骨董品を掴まされたのに「安くでいい物が買えた」とほくほく顔の人のようである。』とか言われるの可哀想過ぎる
まあ、こんなデタラメだらけの記事の拡散に協力した分のツケは何らかの形で支払っていただきませんとw
数学的に証明されているのは勝ち、負け、引き分けのいずれかの結果になるくらいですよね。
全体的に大変勉強になりました。ただ,
>「Deep Learningを使っていないから弱かった」かの言うのは誤り。
は修正されたほうがいいかと思います。
元記事は,「名人がAIと対局したのはディープラーニングが使われていない時」としか述べていません。
「文章が誤り」から主張を弱めて「文脈が誤解を招く」などのほうがいいかもしれません。
厳密性を大切になさっている記事と見受けられたので,少し気になりました。
文章が「誤り」なのではなく、この文脈的にその発言はそこで言うべきではないの意味です。
「誤り」→「間違っている」と変えておきます。
渡辺さんはおかしな事は言ってなくて、池谷さん側の回答がずれてるという感じですかね。
どこに書けばよいのかよくわからなかったのですが、こちらに書いておきます。私も、チェスの件は興味があって調べてみました。
自信はないのですが、
Losing Chess”というチェスの特殊ルール( https://en.wikipedia.org/wiki/Losing_chess )において、負ける初手が解析されているように思えます。
Mark Watkins, Losing Chess: 1. e3 wins for White
https://magma.maths.usyd.edu.au/~watkins/LOSING_CHESS/LCsolved.pdf
私は、素人なので、続きの調査は、詳しい方に委ねます。どうぞ宜しくお願いいたします。
渡辺さんって水匠2とふかうらおうの毛色の違うソフトある状態だって理解してないように見える。気のせいだろうか??
まあ、最新のソフトを追っかけていなければそのへんご存知なくとも仕方ないかと…。