スーパーテラショック定跡、先月からさらに150万局面掘れて、合計300万局面になり、定跡ファイルは4GB近くになった。ところが相掛かり系はあまり前回から掘り進んでいなかった。どこが掘れているのかを確認すると初手68玉周辺だった。なんだこれは?私は元奨励会三段のあらきっぺさんに解説をお願いした。
前回記事 : スーパーテラショック定跡、元奨励会三段に見てもらった
将棋の結論は千日手か?
今回、スーパーテラショック定跡は初期局面での結論が評価値0、すなわち千日手となってしまった。よって、なるべく千日手にならない枝を探す必要があった。どの戦型が千日手になりにくいのだろうか?
あらきっぺさんの考察
以下、あらきっぺさんの考察である。
今回は、なぜ初手▲68玉をこれほど深掘りしていたのか、という考察に話を絞ります。
【どうも相雁木と相腰掛け銀を嫌がっている】
昨今の相居飛車の主要戦法は、基本的に以下の四つです。
・相掛かり
・角換わり
・矢倉
・雁木
このうち、雁木は相雁木にされたときに千日手になりやすく、打開が難しい将棋になります。これは、前回に述べた通りですね。以下の図面が具体例です。
同じく、角換わりも相腰掛け銀にされたときに千日手になりやすい戦型です。これも2回目のときと同じ評価でした。以下の図面が具体例です。
そして、矢倉は後手からの急戦策が手強く、先手がマイナス評価になりやすい戦型です。これも前回同様です。
そうなると、残るは相掛かりにスポットが当たります。昨今の相掛かりでは先手が角道を開ける手を保留したり、(AlphaZero流がその代表例)7六の歩を取らせる指し方も盛んに指されていますが、スーパーテラショック定跡はそういった手法を評価しておりません。ゆえに、早めに▲76歩を突いたり、その歩を取らせないような駒組みを好む傾向があります。その結果、以下のような局面を迎えるケースが多いです。
ちなみに、こういった局面は入口は違えど、最終的にはこれと酷似した局面に合流する手順が多いですね。
そして、この局面を迎えると、どうも先述した相雁木や角換わり腰掛け銀と似たような状況になりつつあるのです。
先手は駒組みを発展させるために7九の銀を使う必要があるのですが、角交換をすると角換わり腰掛け銀のような配置になり、▲66歩→▲68銀というプランでは相雁木のような配置になってしまいます。ゆえに、こういった局面を迎えると評価値が0になってしまうようですね。
話をまとめると、スーパーテラショック定跡は昨今における相居飛車の主戦場で戦おうとすると、良さを求めることが出来ないと見ていることが読み取れます。
【相雁木と角換わり腰掛け銀を避けるために▲6八玉と指す】
いよいよ、本題に入ります。今回の定跡ファイルでは、初手▲68玉と指す変化の深堀りが際立ちました。
これはおそらく、既存の主要戦法では千日手濃厚なので先手は新たな作戦を見出す必要があり、そのために初手▲68玉を掘り下げたのではないか、と考えています。
なお、初手▲68玉に対しては△84歩と△34歩が有力ですが、いずれにせよ先手は以下の局面に誘導することが狙いです。
ここで後手は角換わりを志向するなら△42銀になります。以下、▲33角成△同銀▲88銀が一例ですね。
これも角換わり系の将棋ではあるのですが、先手はデフォルトの角換わりと比較すると、▲77銀と上がる手を保留できていることが相違点になります。定跡手順を見ると、この一手を省いたことを活かして一生懸命、打開を目指すようですね。今のところ、この変化になれば千日手にはならないと主張しています。
なので、後手は千日手にするために△44歩から雁木を目指すのですが、この配置から雁木を目指すと、先手は相雁木にする必然性がありません。すなわち、違う囲いを選択することが出来るのです。これは初手▲68玉を経由しないと生まれない恩恵ですね。具体的には、以下の局面になります。
こうして相手と異なる囲いを選べば、相雁木問題も相腰掛け銀問題も回避できるので、千日手になる可能性が大いに狭まります。「だから初手▲68玉は有力ですよ」。今回のスーパーテラショック定跡は、そう主張しているように感じますね。
なお、評価値が示すように、この変化も最終的には千日手になると主張しています。ただし、他の戦型では40~50手目付近で千日手模様になるのに対し、この変化は70手目付近で千日手模様になります。また、千日手ではないルートを踏んだ際に、先手側に触れる評価値の幅が大きい傾向もありました。
加えて、千日手になるルートが非常に少なく、他の戦型と比べてみると、相当に千日手になりにくい印象を受けます。これらの要素を考慮すると、初手▲68玉は大いに考えられる作戦だと感じました。
【雑感】
- 人間の感覚だと、将棋は先手番のほうが楽と感じているプレイヤーが多数派かと思われます。けれども、スーパーテラショック定跡を見ると、どう千日手の壁を打破するのかということに苦心惨憺しており、その乖離が面白かったですね。
なお、上記の通り、初手▲68玉から深堀りされている変化は相当に千日手になりにくいので、これがソフト同士の対戦で本当に千日手になるのかどうかは強く興味を惹かれます。そして、これだけ深掘りしても優劣に差が着かないので、将棋は本当に完成度の高いゲームだなと改めて実感しました。
- 電竜戦や今のプロ棋界で指されていた作戦をなぜ否定するのか、その理由が知れて非常に勉強になりました。
ちなみに、スーパーテラショック定跡が深掘りされている相掛かりの指し方は、(少なくともプロ棋界では)面白くないと見られている指し方でもあります。そこの評価もどちらが正しいのか、今後の定跡の進歩が楽しみであります。
以上になります。なお、余談ですが、初手から▲76歩△84歩▲66歩△85歩▲77角△34歩と進んだとき、▲58飛と回ると-274なのですが、▲98飛だと-192の被害で済みます笑
それでは、次回の定跡ファイルも楽しみにしております。ありがとうございました!
先日の電竜戦▲GCT電竜VS△やねうら王であったこの局面↓がどういう評価をしているのか知りたいです。
sfen ln1g2snl/1rs1k1gb1/3ppp1pp/p1p3p2/1p5P1/P1P2P3/1PBPPSP1P/2G4R1/LNS1KG1NL w – 18
電竜戦では後手のやねうら王がそのまま押し切られてしまった印象があります。
↓この局面ですか?スーパーテラショック定跡(300万局面)では、73桂までが定跡に登録されていて、それ指して後手+52です。(150万局面の時と、ここは変わらず)
// 先手77金型がいかにも悪そうですけど、これ咎めるにはもっと強いソフトが必要なんでしょうね…。
https://golan.sakura.ne.jp/denryusen/dr2_production/dist/#/dr2prod+dr2prdy1-4_gct_yaneuraou-600-2F+gct+yaneuraou+20211120131527/20
この手順はPALやGCTなどの強豪DLソフトが採用していて気になっていました。ありがとうございました。
教室で駒落ち指導することが多いのですが、六枚落ち以上のハンデでの上手の最善手は初手4二玉が私の結論です。理由は7六歩~3三角成を受けると同時に入玉を目指す上で、金駒の形を決めずに後の下手の動きに対応するためです。スーパーテラショック定跡と一致したのはただの偶然かつ一時的なことだとは思いますが、中々感慨深いですね。
おお、なるほど!> 42玉
私も六枚初手は42玉を愛用しています。
先崎九段の著書『駒落ちのはなし』の六枚落ちの部分にも「初手は42玉が最善」というような記述がありました。
電王戦で米長永世棋聖の初手(2手目)が△62玉だったことを思い出しました
初手68玉が最善だとわかったら(まだわかってない)、米長先生は喜ばれるかも知れませんね。
スーパーテラショック定跡の最新版は、どこでダウンロードできますか?
現状、非公開で、関係者のみに配布です。
// わりと掘るのにお金かかっているので一般公開するかどうかは考え中です。
dlshogi2021のtensorrt版で外部で必要なcuda
cudnn、tensorRTのバージョンを教えてください。wcsc31のバージョンしか書かれてないデス。
それはあちらのGitHubのissueか、山岡さんのブログのコメント欄にでも書けばいいような?
// 私は知らないです。
// なお、記事本文と関係のないコメントは手動的に削除するだす。
まさかの将棋千日手説……すごい……もしそうだとしたら、将棋は奇跡的な完成度のボードゲームですね。(終盤の逆転しやすさも優れた特徴ですが)
相手に先に形を決めさせて後出しジャンケンする……森下システムもそんな思想でしたっけ。
この初手68玉システム、書籍化してプロ棋士に広まれば、さ来年か…あるいは10年後あたりの升田幸三賞になるんでは。
私が本、出すか!(あらきっぺさんをゴーストライターにしてw)