WD101: PC脳な制作者にありがちな8つのアプローチ
このシリーズは Web Design101(WD101)と名付けて、ウェブデザインをより深く理解するための最初の一歩になる知識やノウハウをコラム形式で紹介していきます。
- Webは見た目のコントロールがきかない
- モニターの外をデザインするのが大半である
- Webは寛容性をデザインする場である
- Webのデザインは枠のない世界である
- Webデザインであるもの、そうでないもの
- WD101: 画面ではなく部品から始めてみよう
あなたはPC脳ですか?
「PC脳」とは、私が UI やデザインの講座をするときに、よく使っているフレーズです。
従来は、ノートパソコンやデスクトップパソコンが Web 接続可能な主力デバイスでした。しかし、今は徐々に台数が減り続けており、代わりにスマートフォンやタブレットといったデバイスの台数が伸びてきています。さらに、パソコンの次に買う 2 台目のデバイスとしてではなく、パソコンは買わずにスマートフォンやタブレットだけで良いと考える人たちも増えてきています。
Google の Our Mobile Planet より。
スマートフォン所有率は、2011年から2012年のときのような急成長はしなかったものの、2013年も確実に伸びています。また、年齢別でみると若い世代の伸びは今年も著しい。
Webの使い方が劇的に変化しているにも関わらず、未だにデスクトップパソコン時代と同じような感覚で設計してしまうことを、私は「PC脳」と名付けています。実はスマートフォン向けに作られたサイトでも、PC脳で作られているところは少なくありません。パソコン時代であれば当たり前だった手法が、今後ますます多種多様になるマルチデバイスの世界では足かせになるどころか、利用者に不便な目に合わせてしまうこともあります。
そこで今回は、今後の Web デザインにあってはならない「PC脳」と呼べる設計思考やアプローチについて紹介します。
- とにかく情報を盛る
- 画面上に隙間なく情報や装飾を埋めようとしてしまうのがパソコンならではのアプローチ。関連情報、広告、ナビゲーションなど、隙間を埋めるための情報をわざわざ考えて表示させるといったことがあります。
- IAとは画面上の配置を整理することを指す
- 様々な情報を広い画面上にどのように配置するのか、ということを考えるのは IA の役割のほんのひとつでしかありません。載せるべき情報は何で、それをどのような順番で掲載するのかといったプライオリティを決めることも重要なタスクですが、画面が広いので「とりあえず載せよう」「サイドバーに置けば良い」という緩さがありました。
- 必ずパソコンが中心にある
- パソコン以外のデバイスが急成長している今でも、設計思想やコンテンツの配信などすべてにおいてパソコンが中心です。パソコンを皆持っていると前提にしていることもあり、スマートフォン版は簡易版で大丈夫という感覚で作られていることがあります。また、困ったらすべて「PC版に移動」という逃げ道を用意しているサイトも少なくありません。
- 待たせても見栄えが良いのが重要
- 2009年の Akamai による調査結果によれば、47%のパソコン利用者は 2 秒以上待ちたくないと回答。他のデバイスでも同じくらいの期待と要望はあるはずです。どんなに読み込み時間が長くても、見栄えがよくて、エンターテイメント性が高ければ良いと考える傾向にあります。パソコン版でも人は 5 秒以上待ってくれることは少ないですし、回線が安定しないスマートフォンでも同様です。本当はパフォーマンスもデザインです。
- 凝った演出をすることが良いデザイン
- 最近は優秀な JavaScript ライブラリが無数にあるので、手軽に様々な演出や機能が実装できるようになりました。高いハードウェアスペックのパソコンでは問題ないですが、他のデバイスでも同様とはいえません。『モバイル向け』と書かれているライブラリでも最適化されていないこともあり、パソコンと同じような感覚で凝った演出や機能を盛り込むと大変なことになります。
- 線ではなく点で評価する
- 操作パターンも少なかったこともあり、パソコン版のサイトは絵(点)を見れば、何ができて、どのような動きをするのかの予測が容易にできました。絵だけで様々なデザインの評価がしやすかったことから、画面遷移や使い勝手が後回しになることがありました。
- ナビゲーションが先頭にあるべき
- パソコン版では、ロゴや何重にもなるナビゲーションを広く配置する領域が十分にありました。また、情報の優先順位もナビゲーションが高く、コンテンツの領域より上位に、ときには広く表示されていました。コンテンツはナビゲーションを辿って見るという、昔ながらの「階層式」の操作。その操作感をパソコン以外でも再現しようとしている場合があります。
異なるAndroidデバイスの台数の視覚化(左が2012年で右が2013年)
わずか1年でAndroidのフラグメンテーションが進んでいるのが分かります。iOSも年々数が多くなってきています。(参照:Android Fragmentation Visualized) - 最もシェアが多いデバイスに対応する
- 従来は Windows 版 Internet Explorer という誰からみても明らかにシェアナンバーワンの Web ブラウザがありました。しかし、今の利用者は自分が使いたいデバイスを使いたいタイミングで使う傾向があります。これは利用する Web ブラウザが多種多様になり、シェアナンバーワンの Web ブラウザでも過半数にも満たない状態です。 「今は過渡期」といっても、1つの Web ブラウザが大多数を占めるという時代は二度と来ない、遠い過去の話です。
今後パソコンでも PC 脳は通用しない
これらはスマートフォンやタブレットといったパソコン以外のデバイスに向けた「やってはいけないコト」のようにみえますが、そんなことはありません。近年リニューアルに成功しているパソコン版 Web サイト(特にレスポンシブ Web デザインを正しく実装できているところ)は、上記のような PC 脳から離脱して設計されているところがほとんどです。
PC脳から抜け出して、今必要とされるデザインの感覚を養わなければ、ますます利用者のニーズから遠ざかってしまいます。クライアントの理解もなければ、実践できないところもありますが、まずは制作者が脱 PC 脳にならなければ始まらないでしょう。