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西和彦氏の「反省記」がむちゃくちゃで面白い

「反省記 ビル・ゲイツとともに成功をつかんだ僕が、ビジネスの“地獄”で学んだこと」は実業家、西和彦氏による著書。還暦を過ぎ、これまでの半生を振り返ってみてはどうかと編集者に依頼され、編集側から出てきたタイトルが「反省記」だったらしい。ひどい。素晴らしい編集者だ。

 

というわけで、というわけでというのは西氏の業績を知っている人ならば容易に想像できるだろうがという意味だが、中身はむちゃくちゃ面白い。あるいは、むちゃくちゃで面白い。

 

というのも、70年代後半のマイコンブームから、パソコンの黎明期、普及期を経て、インターネットがメインストリームになっていく00年代の手前までが、一人の「仕掛け人」の視点で描かれていくのである。しかも話は日本に留まらず、マイクロソフトとの協業やインテルとの戦い、懐かしのオリベッティも出てくるし、MITの嫌な話も出てくる。ビル・ゲイツがこれほど身近に出てくる文章を書ける日本人は、西氏か、本書でもすごい役回りで出てくるサム古川氏くらいでしょう。

 

古川氏の「僕が伝えたかったこと、古川享のパソコン秘史」も面白エピソードたくさんの書籍であったが、マイクロソフト日本法人の社長を勤めあげた古川氏と異なり、西氏はマイクロソフトとの事業も、アスキーの経営も、最後は失敗に終わる。経営者には向いてないとまで言われる。だから時代の寵児となり、アスキー社長としての絶頂期を迎える場面でも、自分の先見性と実績を誇りつつも、文体は冷静で、自嘲的でさえある。まさに反省記。ヒット一本をドヤって終わりの並の経営者本とは違う。面白くないはずがない。中でも孫正義氏とのエピソードは最高である。

 

長年出版に関わってきた西氏ではあるが、意外にも本人の名義としては、これが初めての書籍のようだ。近年はメディアへの露出も限定的だったから、この人は歴史をこう捉えていたんだな、と分かるだけでも価値があるかもしれない。私は90年代からのパソコンおたくでLOGiNとEYE-COMの読者だったので、マイコン時代が語られる前半は歴史の勉強として、アスキーの成功と凋落が語られる後半は記憶の答えあわせとして読んだけれど、西氏のことなんて知らなかったという人も、昔はこんな人がいたんだ~という気軽な感じで読んで欲しいなと思う。そして、そのむちゃくちゃさに感銘を受けて欲しい。

 

だいたい、今ではこれだけ普及したパソコンだって、かつてはヒットするのかどうかも分からない黎明期があって、そこに賭けた大企業とベンチャーがいたわけである。インターネットの黎明期にも、ウェブ2.0の時代にも、モバイルアプリにも、たぶん同じようなコミュニティの盛り上がりがあったのだろう。果たして、いまそういう、未来に繋がるコミュニティはどの分野に存在しているんだろうな、と考えてしまう。

 

そう考えると、欲を言えば、ビジョナリーとしては確かだったのに、インターネットやモバイルといったトレンドに大きく関われなかったこと、そして今のインターネットの発展をどう捉えているのかは、この本でもすこし触れて欲しかった。1ch.tvとか、有名なWikipediaへの批判とか。

 

あと、本文には書かれていないが、アスキーで仲間割れした他の設立メンバーはそのあとインプレスを立ち上げるわけで、ソフトウェア事業、ゲーム事業を含め、もうすこし大きな視点でアスキーの歴史、アスキーの人脈図を振り返る企画はそろそろあってもいい気がする。

 

余談だが、私は西氏と同郷の神戸人なのに、氏の一家が須磨学園の経営者だとは知らなかった。実業家として成功する前から資産があったんだなあ……と思わされるエピソードがちょこちょこ挟みこまれ、ちょっと格差社会を感じてしまう物語でもあった。

 

2020/09/25

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この文章は小関悠が書いた。特に明記のない限り、私と関係がある、もしくは関係のない、組織や団体の意見を示すものではない。

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