日本人客が戻ってこない「さまよえる百貨店の雄」伊勢丹の憂鬱

社長の交代から半年余り
週刊現代 プロフィール

東京都立川市「ららぽーと立川立飛」内にあるエムアイプラザは、専門店が並ぶモールの1階、化粧品の「オルビス・ザ・ショップ」の隣に店を構える。広さは25mプールほど。

スペースの半分を使って、婦人服、婦人靴、バッグ、雑貨などを並べ、残りの半分に、お菓子やジャム、漬物、ギフトブックなどが並べられている。コンセプトは、「上質なライフスタイルを提案する」、50~60代向けのショップ。

だが一見して驚くのは、漬物と婦人服が3mほどの距離で隣り合って陳列されていることだ。

 

前社長の遺産だから…

平日の夜、会社帰りの女性や老夫婦などが店の前を通るが、多くが興味を惹かれる様子は見せるものの、すぐに立ち去る。まれに商品を買う人がいても、漬物やお菓子ばかり。

1時間以上見ていて、服は一着も売れなかった。店を訪れた、立川市在住の50代の女性はこう感想を述べた。

「いろんな種類の商品があって、不思議な店だと思いました。あまり落ち着いて商品を見られなくて、ここで服を買おうという気にはなりませんでしたね」

売り場をよく知る同社の取引業者が言う。

「エムアイプラザはごちゃごちゃした地方のお土産物屋のような雰囲気で、誰に何を売りたいのかわかりません。陳列もうまくない。

スーパーの洋服売り場みたいに、『セール』の赤い札が置いてあったり、ユニクロみたいにニットの服がビニール袋に入れられていたり、高級感もない。お菓子も、『ヨックモック』など、普通のデパ地下に置いてあるものばかりで代わり映えはしません。

それにモールの一角ですから、まわりにはアパレルの専門店があります。ここで服を買うくらいなら、専門店で買うでしょう」

店舗を訪れた人の多くは、同店を運営しているのが三越伊勢丹であることすら知らなかった。

「失敗の原因のひとつは、『コンセプトの不在』ではないかと思います」と語るのは、流通専門誌『2020 Value creator』編集長の田口香世氏である。

「『ファッション性が高い』とか『高品質』とかコンセプトがあれば、場所や地域に合った中小型店舗を出すことには意味があると思います。百貨店の普段は行かないフロアに置かれている雑貨や服に新鮮さを感じる人もいるでしょう。

しかし、ただ茫洋と『少し高級な商品』を寄せ集めたというだけでは、お客さんが通り過ぎていってしまうのは当然です」

中小型店舗という基本方針が間違っていないとすれば、まだ改善の余地はあるかもしれない。しかしこれは大西前社長が進めていた事業だ。杉江社長としては、自分が追い出した前社長の仕事を継承したくないのは当然のこと。

こうして店を閉じ、成長の芽を摘んでしまう――このチグハグさが、伊勢丹が「リソースを生かせていない」と指摘される所以だろう。

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