滋賀医科大学の「性的暴行事件」に関する異常な判決について
1. 異常な判決
2024年12月18日、滋賀医科大学の男子学生2名が性的暴行の罪に問われていた事件について、大阪高等裁判所の飯島健太郎裁判長は逆転無罪の判決を言い渡しました。
滋賀医科大学の事件、控訴審で大阪高等裁判所の飯島健太郎裁判長は、推定無罪の原則に忠実な判決を言い渡しました。
しかし、一審で大津地方裁判所の谷口真紀裁判長は、女子学生の「都合の悪い部分が隠蔽された嘘の証言」の信用性を全面的に認めて、懲役刑を課したわけです。
率直に申し上げて、異常な判決だったと思います。
「性的暴行」の罪に問われて高裁で逆転無罪を勝ち取った医科大の男子学生2人の冤罪事件は、要するに「一審の女性裁判官による判決」が間違っていたと言えます。
女子学生による虚偽の供述に信用性を全面的に認め、男子学生に懲役刑を課した。他人の人生を無茶苦茶にする判決を出したのだから、相応の批判が起こるのも仕方ないでしょう。
後述しますが、逆転無罪の判決が下されてからも、男子学生は顔写真と個人情報を拡散されて、醜悪な誹謗中傷に晒されている。
国立大学法人滋賀医科大学の対応にも疑問に残る部分があり、地裁で男子学生2名に有罪判決が下されたときは「同日中」に大学サイトに掲載していました。
しかし、高裁で逆転無罪の判決が下されてから「3日以上」が経過しても何の音沙汰もありません。あまりにも対応が遅くありませんか。
言うまでもない話ですが、有罪判決を受けていた者が無罪判決を受けたということは、今まで不当に名誉を傷つけられていたわけですから、有罪判決を受けたときよりも速やかに対応して、名誉回復に尽力すべきでしょう。本来ならば。
下記は、これまで滋賀医科大学が本事件に関して掲示してきた内容です。
特に『本学学生の逮捕・起訴を受けたセクシュアルハラスメント及び性暴力・性犯罪等の再発防止策について』は、前提となる事実が覆っているわけですから、全面的に内容を見直すべきでしょう。
2. 異常な反響
性的暴行の罪に問われた滋賀医科大学の男子学生2人が逆転無罪を勝ち取った事件、大阪高等裁判所の飯島健太郎裁判長は「推定無罪」「疑わしきは罰せず」「疑わしきは被告人の利益に」「10人の真犯人を逃すとも1人の無辜を罰するなかれ」等の言葉に象徴される、司法の原則に忠実な判決を下しました。日本は法治国家なので、当然の判断でしょう。
しかし、この判決に激昂する女性が大量に発生して、Xではハッシュタグ【#飯島健太郎裁判長に抗議します】がトレンド入りしました。
下記は、1万いいねを超えるポストを抽出して時系列順に並べたものです。恐ろしいことに20ポスト以上あります。
ご覧になれば分かりますが、どのポストも見事なまでに「女子学生が都合の悪い事実を隠蔽して虚偽の供述を証言していたこと」に触れていません。
都合の悪い事実を隠した女子学生を擁護するために、それ自体を都合の悪い事実として隠しています。異様な光景です。
また、ほとんどの人が間違えている(もしくは意図的に論点をすり替えている)ことですが、女子学生の「いや」「やめて」という発言は裁判において「性的な行為の際に見られることもある卑猥な発言」と解釈された──わけではありません。
男子学生の発言が「性的な行為の際に見られることもある卑猥な発言」と解釈されたに過ぎず、女子学生の方は「当初、無理やりの性行為だと信じてもらうため警察にあえて話さなかった行為があり、ウソの供述をしている可能性が否定できない」という理由で信用性が認められませんでした。
もう1つ、どのポストも触れていない事実があります。
滋賀医科大学の性的暴行事件で男子学生が逆転無罪を言い渡された判決には、きちんと「女性の意見」も反映されています。
今回、裁判が開かれたのは第6刑事部。飯島健太郎裁判長、大寄淳裁判官は男性ですが、宇田美穂裁判官は女性です。
岡山地家裁部総括判事の経験もある、優秀な裁判官です。
これらの事実があるにも関わらず、逆転無罪を言い渡した飯島健太郎裁判長および晴れて無罪となった男子学生への誹謗中傷は止みません。
「顔写真と個人情報」もSNSで拡散されています。さすがに引用は避けますが、現時点で2.8万いいねを超える共感を得ています。
その影響から、誹謗中傷・侮辱・名誉毀損に留まらず、明らかに脅迫行為を促すポストも散見される始末です。大手メディアが「マスゴミ」と呼ばれる要因の1つである最低な行為が、SNSでも行われています。
法治国家としては、異常としか言いようがありません。
他にはこんなポストも。
当たり前の話ですが、日本では司法・立法・行政の三権分立が定められています。こんなポストが3.5万いいねを超えている。司法について総務省行政相談センターに電話しても、迷惑行為でしかありません。
さらに「2秒で分かるデタラメな内容」も相当数の共感を集めて拡散されています。不同意性交等罪に関するもの。
説明するまでもありませんが、滋賀医科大学の男子学生が容疑に問われたのは「不同意性交等罪の施行前」です。法には不遡及の原則があります。
このような「根拠も論理も屁理屈すらない純度100%の邪悪なヘイトスピーチ」でさえも4.5万いいねの共感を集めてしまう。現代日本では男性差別が平然とまかり通っています。
異常なのは、Xのポストだけではありません。
『大阪高裁の“医大生による性的暴行”逆転無罪に対する反対意思を表明します』というオンライン署名に、たった3日間で10万筆も集まりました。
この署名は想像以上にヤバい代物です。
どのくらいヤバいのかと言えば、あの津田大介氏が「あなたの署名は訴追への同意として使われることになる」「対処を考えた方がいいかもです」と注意喚起をするくらい。マジでヤバい。
「飯島健太郎裁判長を許してはならない」と記載されており、提出が「訴追請求事由を記した文書」と共に行われて、提出先が「裁判官訴追委員会」であることから、この署名が「判決内容を理由に弾劾で飯島健太郎裁判長の罷免を求めるもの」なのは、誰がどう見ても明らかです。
しかし、そもそも「判決内容を理由に裁判官の罷免を求めること」は裁判官弾劾制度の対象外であり、原則として許されません。
少しでも文章が読めるならば、少しでも手元のスマホで調べたならば、こんな署名に自分の名前を連ねることは、人生の汚点であり恥であると理解できるでしょう。こんなものが法治国家でまかり通ってはならない。
っていうか、普通に憲法違反です。
「弾劾裁判所まで上がった裁判官罷免訴追事件は過去にたった10件しか実例がなく、いずれにおいても判決内容を理由とした罷免訴追事件は1件もない」という事実は、弾劾裁判所の公式サイトで確認できます。
しかしながら、決して「どうせ訴追も罷免もされないから大丈夫」とは言えません。楽観的に「こんなアホな署名どうせ相手にされない」と呆れるのは危険です。
裁判官訴追委員会は、20人の訴追委員(衆議院議員および参議院議員各10人)と10人の予備員(衆議院議員および参議院議員各5人)で構成されています。司法に介入したい国会議員なんて腐るほどいます。「国民の声が集まっているから」「民意だから」と盾にして、裁判所に圧力をかけても不思議ではありません。
日本の三権分立、司法の独立が破壊されようとしている。国会議員による裁判所への介入が成功してしまったとき、国会議員があなたの期待通りに動くと思いますか?
これがフィクションの物語であれば、前述した「大阪高裁の飯島健太郎裁判長への苦情は、総務省行政センターでいいのかしら?」という日本の三権分立を理解していないようなポストが「判決内容を理由に弾劾で裁判官の罷免を求める署名」の存在により「日本の三権分立を理解していないのではなく破壊しようとしている」と判明して見事な伏線回収になっています。
しかし、これは現実です。
こんな署名に10万筆も集まっているのが日本の現実です。著名人からも「署名した」と名乗りを上げている人物が何名もいます。
異常事態としか言いようがありません。
参考までに『豊田市のみつご虐待死事件の母親が子育てしながら罪を償えるように、執行猶予を求めます!』という殺人犯を擁護するオンライン署名には、3.8万筆が集まりました。
「性的暴行の被害者と思われていた女性が都合の悪い事実を隠蔽して嘘の供述を証言していた」と判明しても、裁判官を叩く。
「生後11ヵ月の赤ん坊を床にたたきつけて殺害した母親に実刑が課される」と執行猶予を求めて、裁判官を叩く。
「男性が無罪になるのは許せない」
「女性が有罪になるのは許せない」
繰り返しますが、異常としか言いようがありません。
3. 日本の司法
そもそも、性犯罪の被害に遭ったらその足でそのまますぐ警察に駆け込み保護を求めることが『身の安全も確保できて物的証拠を抑えられる最善の方法』でしょう。少なくとも、暴行や殺人未遂等ではそうです。
しかし、例外的になぜか「性犯罪では物的証拠を提示するのは困難」だと言われています。物的証拠が存在しなくても、女性の証言のみで有罪判決が下されることもある。
冷静に考えれば、おかしな話ではありませんか。
例えば、痴漢では『クロである証拠』が提示されると有罪となります。しかし、『シロである証拠』がいくらあっても無罪にはなりません。
「日本の司法は性犯罪に甘い」というのは完全に間違いです。日本の司法から女性は徹底的に甘やかされています。
「司法も検察も世間も女性の味方なのがスタンダードという異常な社会」に慣れすぎて麻痺しているので、滋賀医科大学の男子学生の性的暴行容疑のように、推定無罪の原則に忠実な判決が下されると、女性たちは激昂して大騒ぎするわけです。
草津の虚偽告訴事件で、草津町長とそのご家族および草津町が途方もない風評被害に晒されたことは、記憶に新しいでしょう。
女性たちは、草津の虚偽告訴事件から何も学んでないのでしょうか。
もしかしたら、何も学んでいないのではなく「女性の嘘がバレるなんてあり得ない人権侵害だ」と本気で思い込んでいるのかもしれません。
滋賀医科大学で性的暴行の容疑にかけられた男子学生も「女子学生が都合の悪い事実を隠蔽して嘘の供述を証言していたこと」で逆転無罪を勝ち取りましたが、多くの女性が激昂しています。そして、嘘の供述自体を「都合の悪い事実」として隠蔽しようとしている。
嘘に嘘を重ねて誤魔化そうとしているわけです。
それでは、女性の嘘が何をどうやっても通らない状況に追い込まれると、果たしてどうなるのでしょうか。
答えは、責任転嫁の応酬が繰り広げられます。
嘘を吐いた女性は「支援者の意見に依存して真実を言えなかった」と責めて、嘘を支持した女性は「自分たちは騙された被害者だ」と責める。
被害者ポジションの奪い合いが始まります。
正直、かなり迫力のある文章に圧倒されますが、個人的な感想を申し上げると、草津町長および草津町への謝罪の気持ちよりも、新井祥子氏への恨みつらみ憎しみばかりが先行しているように見受けられます。
草津町長とそのご家族および草津町から見れば、どちらも迷惑であることには変わりありませんから。
滋賀医科大学の性的暴行事件も、数ヶ月後か数年後には、草津の冤罪事件と同じような状況になっているかもしれない。
しかしながら、女性たちは草津の虚偽告訴事件から何も学んでいないわけではなりません。
「女子学生が都合の悪い事実を隠蔽して虚偽の供述を証言していたこと」「女性裁判官の意見も判決に反映されていること」には触れずに無罪の男子学生をSNSで誹謗中傷して、飯島健太郎裁判長を社会的に抹殺するオンライン署名に3日間で10万筆が集まり、大阪高等裁判所の前では司法に抗議するフラワーデモも開催される。
女性は、草津の虚偽告訴事件から何も学ばない馬鹿ではない。
女性たちは"反省"して「冤罪を着せられた被害者男性を叩き潰すだけでは足りなかった」「裁判長を社会的に抹殺して司法そのものを破壊しなければ」と行動しています。
楽観的な見方をするべきではないでしょう。
4. 今後の展開
滋賀医科大学の男子学生2名が性的暴行の容疑で罪に問われていた事件は、一審で大津地方裁判所の谷口真紀裁判長が有罪判決を下して懲役刑を課しましたが、控訴審では大阪高等裁判所の飯島健太郎裁判長が逆転無罪の判決を言い渡しました。
そして、高裁までは事実審であり、最高裁は法律審が基本なので、ここから事実認定が覆ることはそうそう無いと思います。
ただし、著しく正義に反すると認めるときは、最高裁判所は重大な事実誤認を理由に原判決を破棄することができます。
また、男子学生3名のうち2名は無罪判決が言い渡されましたが、残り1名は最高裁に上告しているところです。なお、その1人は滋賀医科大学から懲戒処分を受けて退学処分となっています。
男子学生3名のうち2名は高裁で無罪判決、1名は一審で有罪判決を言い渡された後に控訴は高裁で棄却されて最高裁に上告という「ねじれ」の状況が、最高裁での判決にどのような影響を及ぼすのか。
現時点では誰にも分からないでしょう。
しかし、そもそも「日本の刑事裁判では無罪判決そのものが非常に稀」という前提を忘れてはいけません。特に一審有罪から控訴審無罪は異例中の異例であり、控訴全体の0.3%程度です。
この事件では「それほどの事情」があったからこそ、逆転無罪が言い渡されたのでしょう。最高裁で再び事実認定が覆る確率は、限りなく低いものと考えられます。
裁判官だって人間です。
日本は「司法も検察も世間も女性の味方なのがスタンダードという異常な社会」なので、推定無罪の原則に忠実な判決を下したら、不特定多数から個人攻撃を受けることは火を見るよりも明らかです。実際に、顔写真と個人情報が晒されています。家族がいれば巻き込まれるかもしれない。
当然ながら、無罪判決を下したら報酬や特別手当が出るというわけでもありません。地裁の判決をそのまま維持して控訴棄却した方が楽な仕事であり、無難でもあります。わざわざ、世論に逆らう判断をする必要はない。自らを危険に晒す必要もありません。
しかし、法の精神と良心と矜持が咎めたのでしょう。
下記は、2013年に放送されたドラマ『リーガルハイ』第2期の有名な台詞です。俳優の堺雅人が演じる古美門研介が、刑事裁判で検事・裁判官・傍聴人に向けて、このような言葉を述べます。
当然ですが、フィクションは現実ではありません。
しかし、このドラマの放送から10年以上が経った現在。
この現実世界がまるでフィクションのような「巨大に膨れあがったときの民意」「自分を善人だと信じて疑わず、薄汚い野良犬がドブに落ちると一斉に集まって袋だたきにしてしまう」「嫌われ者を吊そうという国民的イベント」に飲み込まれようとしているように思えてならない。
滋賀医科大学の性的暴行事件において、男子学生2名は「逆転無罪」となりましたが、SNSでは性犯罪者扱いされています。
性犯罪の容疑をかけられていないどころか「被害届さえ出ていない状況」でも、SNSと週刊誌の報道により社会的に犯罪者扱いされてしまうのが現代の日本社会です。法的に完全な無実だとしても。
「善良な市民」が、司法を破壊する。
日本はいつまで法治国家でいられるのでしょうか。