さらにゴンサルベス氏は、人種差別的とも取れる発言を展開。「中国人や日本人、ドイツ人、フランス人といった人々が、特にメキシコという裏口を通じてこの国に入ってくることで、われわれが持っているものを破壊することは、許してはならない」との自説を唱えた。

特に槍玉に挙げているのが、中国と日本の存在だ。「昨年(2023年)の最大の成果は、中国がわれわれの友人ではないことを示したことだ。そして今や、日本もわれわれの友人ではないことは誰にでも明白である」と、明確に日本を名指しして攻撃した。

「中国がわれわれの友人ではない」とは、中国の産業・貿易政策がアメリカの製造業基盤を意図的に弱体化させているという認識を、2023年中に明確に示すことができた――との趣旨とみられる。いまや日本もアメリカの産業界の敵である、との認識をゴンサルベスは示している。

工場で働く男性
写真=iStock.com/EyeEm Mobile GmbH
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買収を有利に運ぼうとし、アメリカ国民からも反感を買った

アメリカの国家としての団結と利益を強調するゴンサルベス氏の思惑として、日本を米経済を破壊する敵国として描くことで、自社が目論むUSスチールの買収を有利に運びたいねらいがある。

しかし、偏見や人種差別的発言に満ちたインタビューを目にしたアメリカの視聴者からは、「日本は敵国ではない。同盟国である」「アメリカの技術にも雇用にもプラスになる」など、日本や日本製鉄による買収を擁護する声が上がっている。

舌鋒鋭く日本批判を展開するゴンサルベス氏だが、歴史上のタブー中のタブーであるヒトラーになぞらえられるなど、言葉を重ねるほどにアメリカ国民の心情は悪化の一途をたどる。

日本をよそ者として演出したいゴンサルベス氏の意向に反し、矛先は同社の経営層へと向かっているようだ。視聴者らは、外国批判を続けるゴンサルベス氏自身がブラジル出身であり、インタビューの英語がとても流暢には聞こえないことを指摘。

さらには息子であり同社のCFO(最高財務責任者)を務めるセルソ・ゴンサルベス氏と共に、米企業であるクリーブランド・クリフス社が乗っ取られているように感じられるとの批判も飛び出した。差別的意見に差別で反論する行為は必ずしも好ましくないが、少なくともゴンサルベス氏による人種批判はお門違い、と捉えた視聴者は多かったようだ。

人種意識を煽動しビジネスを有利に運ぼうとするゴンサルベス氏だが、アメリカ国民は自らの良識に照らし、底の浅い戦略を容易に見透かしているようだ。

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