ロシアによるウクライナ侵攻が始まって約3年が経ち、ようやく終結に向けて停戦交渉の動きも見え始めました。敦賀市内のバーでバーテンダーとして働くウクライナ出身の女性は、母国ウクライナの平和への願いを込め、コンテストに向けてオリジナルカクテルを考案しました。
敦賀市本町にある「Bar KIRAKU」は、この地で65年続く老舗のバーです。ウクライナ出身のバラショヴァ・ヴィクトリアさん21歳は、バーテンダーとして3年前からこの店で働いています。バラショヴァさんの母親がこの店のカクテルのファンで、一緒に店を訪れた際、先代マスターにスカウトされたことがバーテンダーを目指したきっかけです。
日々の練習の成果が現れ、バーテンダーの登竜門とされるカクテルづくりの全国大会の予選にこの春、県代表として出場することが決まり、日々の特訓に熱が入っています。大会では、6分間でカクテル5杯を用意する「演技」という審査があります。
バーの3代目・川島晨さんは「立ち振る舞いや手先の動き、姿勢ができてこそ、評価してもらえる。審査の前提条件なので大切にしたい」と話します。
演技の練習を始めてからまだ2週間。一連の動きを体に覚えさせるため、毎日仕事前の3時間を練習に充てています。バラショヴァさんは「やっぱり優勝したいので、頑張る」と練習に熱が入ります。
バラショヴァさんが作るオリジナルカクテル「ルトゥール」はフランス語で「帰路」を意味する言葉です。ロシアによるウクライナ侵攻からまもなく3年。母国ウクライナで長引く戦争を思い、戦場に出ている兵士たちが無事に故郷に帰ることができるようにという願いが込められています。「(ウクライナとロシアは)この15年の中でも3回戦争をしている。またかと思うが、今度こそもしかしたらウクライナが負けてしまうかもしれないと不安な気持ちがあった」と話します。
15年前に母親と来日したバラショヴァさんは、ウクライナの首都キーウ出身です。キーウで避難勧告を受けた祖母や叔母たち家族は国外に避難しましたが、現在も残っている家族がいます。「叔父がいまもウクライナにいる。近くで銃声や脅される声が聞こえているみたい。被害はギリギリないが、巻き込まれたら仕方がないと思っているみたい」と現地の現状を話してくれました。
ようやく戦争終結の動きが見え始めた中、バラショヴァさんが考案したオリジナルカクテルは、ロシアが有名なウォッカとウクライナで人気のあるアプリコットブラウンを合わせたもの。2カ国の平穏を表現しています。
「すっきりとした甘さで、最後はハッピーエンドみたいな幸せな気持ちでいてほしい」というのがバラショヴァさんのカクテルに込めた思いです。
北陸新幹線が県内開業してもうすぐ1年。終着・発着駅となった敦賀ですが、意外にも地元客が離れている現状もあるといいます。
川島さんは「駅前の方は少し活気が出ているようだが、本町のエリアまではまだ知られていないみたいで、客が来ているイメージがまだない」と話します。敦賀からカクテル文化を世界へ発信したいとして、バラショヴァさんを優しく後押ししています。「今回の大会をきっかけに、また酒に興味を持ってもらい、客に酒を提供することを楽しんでもらいたい。まだまだこれからも成長していくと思う」とバラショヴァさんに期待を寄せています。
バーテンダーとしてこれからの成長が楽しみなバラショヴァさんは、母国に思いを馳せながら、日々バーテンダーとしての奮闘を続けています。
「Bar KIRAKU」
場所:敦賀市本町1丁目2ー14
営業時間:午後7時~午前0時
定休日:日曜