サラ・アンスティスの作品世界は、幻想的な雰囲気に満ちている。アンスティスの描く場面には、しばしばヌードの人物が登場し、動物たちと共存する姿が描かれる。それは夢のような光景でありながら、美術史の文脈を通じて読み解くことができる要素も多い。シュルレアリスムの影響を受けながらも、中世や初期ルネサンスの具象表現、20世紀の色彩理論や幾何学的抽象の要素を巧みに織り交ぜている。
その想像的な世界にはシュルレアリスム運動の影響が見られるが、関心はさらに遠い過去にも広がり、その広大な源流から視覚表現や主題の着想を得ている。中世や初期ルネサンスを思わせる具象的な表現は、20世紀半ばの色彩理論や幾何学的抽象を想起させる象徴主義的な要素や色調と融合している。
制作において重要なのが、紙を支持体とした作品群だ。水彩紙の持つ粗い質感に柔らかなパステルを重ねることで、色彩が震えるような独特の表現を生み出している。一方で、本展では木製パネルに描かれた油彩画も登場する。木目が顔料の層を通して浮かび上がり、支持体と絵具が一体化するような新たな視覚体験を提供する。
代表作《Running, Red》では、ヌードの女性が鑑賞者を真っ直ぐに見つめながら画面を横切る。背後には燃え盛る炎と、様々な状態の人物たちが同じ方向へ進む姿が描かれる。この構図は、ピーテル・ブリューゲルの《悪女フリート》を想起させるが、固定された視線を通じて現代的な問いかけがなされている。観る者は単なる傍観者ではいられず、作品の世界へと引き込まれるのだ。
また、本展のタイトルである「Bath(浴室)」は、単なる日常の場ではなく、硫黄の香り漂う冥界への入り口としても機能する。浴槽に身を沈めることで、観る者は現実と幻想の境界を超え、アンスティスの描く世界へと没入することになるだろう。
さらに、ペロタン東京は3月7日(金)から9日(日)まで開催されるアートフェア東京にも出展し、ドレスデンを拠点に活動するアーティスト、ラオ・フー (傅饒) の作品を展示する。
ラオ・フーの作品は、東洋と西洋の文化を密接に結びつけながら、アジアの哲学的な深みとヨーロッパ絵画の要素や演劇的な空気感を融合させ、時空を超えた視覚的な物語を展開している。近作では、彼が描き出す謎めいた異種混淆の存在たちが、まるで没入的な舞台の上にいるかのように振る舞う。彼らの瞳を持たない蛍光色の眼差しは、画面の枠を超えて突き刺さり、観る者を不可避的かつ催眠術的に捉えて離さない。表情やしぐさには自己防衛的な様子や警戒心、脆さが見て取れるが、そこからは同時に希望と不屈の精神が溢れ出ている。
サラ・アンスティスとラオ・フー、それぞれの異なるアプローチを通じて、ペロタン東京は幻想と現実、伝統と革新の交差点を提示する。個展「Bath」とアートフェア東京での展示を通じて、彼らの独創的な世界観に触れてみて。
サラ・アンスティス個展「Bath」
日時/3月5日(水)〜4月5日(土)
・休廊:日曜、月曜
時間/11:00〜19:00
場所/ペロタン東京 東京都港区六本木6-6-9 ピラミデビル1階
Text: Makiko Yoshida
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