一昨日のことだ。
仕事から帰り、玄関を開けると私が「ただいま」と言う前に、娘が駆け寄ってきた。明らかに私を待っていた娘は「おかえり」と言った後、「あのね・・」と少し不安そうな顔で話始めた。
「今日、すぐそばにある公園へアイカツカード(娘が今ハマってる)を入れたリュックを背負って遊びに行ったの。そしたらね、男の子達がカードを取り上げてね、折ったり踏んだりしたの」
娘はさらに続けてこう言った。
「でね、公園にある雲梯をしようと思ったら『この雲梯使うなら20円ちょうだい』と行ってきたの。私、怖くて・・すっごく怖かったから20円渡したの」
この時点で、少し冷静さを失った私。
娘はまだあるの。と続きを話始めた。
「でね、結局20円は返してくれたんだけど、投げるように返されたから探しても10円しか見つからなかったの・・」
下を向き、泣きそうになっている娘。
私、もう限界。
娘に「それ、すぐ電話するわ」と言うと、携帯を手にし、名前のわかっていた男の子、太郎くんの親に電話をした。
出来るだけ冷静に一部始終を話すと、相手のお母さんは「ああ、そんなことが・・本当にすみませんでした。10円みつからないんですね・・」と言われた。
私は「娘が怖がっているので、何事もなく今後も公園で遊べればそれで良いと思いますし、もっと小さな子も遊ぶ公園ですからねぇ・・」と伝えるに留め、電話を切った。
娘は私がすぐに行動したことで、少し安心したのかニコッと笑った。 そしていつものように学校での話を楽しそうに始めた。
娘の気持ちとしてはアイカツカードを折られたり踏まれたりしたことや、お金が見つからなかったことよりも「恐怖」の方が大きかったようだ。
最初は「なんでお金なんて渡すの?」と思って口にしてしまったけれど、大人だって恐喝され、恐怖を感じたらお金を渡して逃げるのだから同じことだと思った。考えてから口にすべきことだったと反省し、そのことは娘に謝った。
昨日。
私がまだ帰宅していない時間に太郎くんと他の男の子が親と一緒にウチへ来たらしい。その時間は娘しか家におらず「お母さんのいる時にまた来ます」と言って帰られたようだ。
娘が「お母さん、太郎くんのお母さんがね、『ごめんね』と言ってくれたんだ」と私に報告してくれたので、「ねぇ、太郎くんはあなたに謝ってはくれなかったの?」と尋ねると「・・・うん」と娘は小さな声で言った。
私は「そうなんだ」と答えながら、何気なく床に転がっていた娘のピンクのリュックを拾いあげると、中から砂がざらざらと落ちてきた。
「あ、それ、アイカツカード取られた時にリュックも引きずられたから、砂がいっぱい入っちゃったの」
娘のその言葉を聞いた時、なんだかものすごく悲しくなってきてしまった。
「あのさ、怖い思いしたのに、太郎君から謝ってもらってないんだよね?」
「うん」
「もしも、太郎君が謝ってくれたとしても、あなたの気持ちがおさまらないのなら許さなくても良いんだからね」
と私が言うと、娘は驚いた時に「え?許さなくてもいいの?」と聞いてきた。
「許すも許さないもあなたの気持ちの問題だから。嫌な思い、怖い思いをしたことがずっと心に残っているのなら、許せないことだってあって良いと思うよ」
私の言った事を聞いて「うん」とだけ答えた娘。
「ただ、もしも謝ってくれたなら、その気持ちはあったってことは受け止めようね」
「うん」
感情はスパッとキレイに割り切れるものではないのだから、良い子になることもないし、寛容であることもないと思う。
太郎くんがただ親に連れられてウチへ来たのか、謝りたくても出来なかったのかはわからないけれど、少しだけでも娘の気持ちをわかってほしいと思った。難しいかも知れないけど。
また、娘のようにすぐに誰かに話せる子ばかりではないだろうから、もっと広い視野で周りの子も気にしていこうと思った。
私だってぐるぐる回る感情の渦の中にいるのだから。