下記のまとめとその反応を見てちょっと気になったので。
日本語学概論で音声・音韻の話が入っていればかなりの確率で出てくる話だと思いますし、言語学概論で音素や異音の話の時に例として触れられることも多いのではないでしょうか。
音声・音韻は専門ではありませんが、いくつか引用を紹介(専門の方のつっこみ待ちです)。
説明文として分かりやすいのは下記辺りでしょうか。
この文字(注:「ン」のこと)で表される音は伝統的用語では「撥音」と呼ばれるが、よく観察すると次のようにいろいろなバリエーションがあることがわかる。
さんばい [sambai]
さんだい [sandai]
さんかい [saŋkai]
さん [saɴ]
さんを [saã.o]
次に続く音と同じ調音の位置の鼻音が現れる。後ろに何も来ないときは口蓋垂音の[ɴ]、母音や接近音が続くときは鼻母音となる。
(斎藤純男 (1997)『日本語音声学入門 』: 93、例の一部と二重母音表記を省略)
手元に古い方しかなかったのですが、IPAの改訂等のことがあって音声・音韻関係の入門書は新しいものを見た方がよいと思いますので、紹介は改訂版にしておきます。ところでここでは[ɲ](硬口蓋鼻音)が例として挙げられていませんね。
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Because Japanese /N/ is realized as such a wide variety phonetically different syllable-final nasal segments, it seems like a chameleon to an English speaker, ... the three nasals [m], [n], and [ŋ] contrast syllable-finally in English.
(Vance, Timothy (2008) The Sound of Japanese.: 101)
ドイツ人?
ところで、はてブのコメント等を見るとおそらく言語学や日本語学に触れたことのある方からのつっこみや説明が思ったよりあってちょっと嬉しかったところもあるのですが、一方で「細かく言うと「ドイツ人」ではなくて「ドイツ語(が母語/第一言語の)話者」だよね」また「「日本人」ではなくて「日本語(が母語/第一言語の)話者」だよね」というつっこみがほとんど見られなかったのが少しさみしかったです*1。
それは難癖じゃない?文脈で分かるじゃないと思われる方もいるかもしれませんが、ざっくり言って「地域(ましてや国のような大きな単位)と言語の区別は一致しないことの方が多い」ってのも言語学概論ではかなり頻出の重要ポイントですよね。もしかしたら「社会言語学概論」ぐらいまで詳しくならないとやらないってこともあるのかもしれませんが。
*1:こういう話を始めると、「ドイツ語」と簡単にくくってくれるな、とか「日本語」って標準語?共通語?方言はどうする?みたいな話が出てきて簡単ではないのですが。