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2013年11月30日土曜日

日中韓台三カ国+1の防空識別圏と係争地域をGoogle Maps上にプロットしてみた

焼き直し続きで申し訳ないですが、「Google Mapsで見る日中の防空識別圏」に更に追加して、韓国の防空識別圏(KADIZ)を見れるようにしました。


より大きな地図で 日中の防空識別圏 を表示

KADIZのデータを探すのに苦労しましたが、韓国政府のAeronautical Information Serviceに座標がありましたので、それを使いました。

これで、日中韓3カ国の空の具合が分かるようになるかもだ。特に、日本の防衛省の図資料とかだと、微妙に抑え気味だった範囲がくっきりわかり、KADIZと元々重なる部分もあったことが分かります。

※12/1,00:20、@pelicanmemo氏からの依頼により、台湾の防空識別圏も追加しました。初めて知ったけど、大陸の奥まで防空識別圏なのね……。

※さらに追記!。台湾のADIZは本当にこれなのか、ソースを再度確認中です!

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2013年11月27日水曜日

Google Mapsで見る日中の防空識別圏

中国の防空識別圏発表が騒がれている昨今ですが、状況を理解する為の助けになると考え、中国国防部の発表資料と、自衛隊の防空識別圏訓令からGoogle Maps上に日中の防空識別圏をオーバーレイ表示できるようにしておきました。

艦これの秋期限定マップ最終日をほっぽりだしてな!


より大きな地図で 日中の防空識別圏 を表示


なお、中国側防空識別圏の緯度経度は中国国防部の発表の下記座標から、中国領空を抜いたものなのですが、中国領空を表示させる方法を思いつかなかったので、中国領空はダミーポイントを3点設定してそれらしくしています。日本人からすれば、実用上は問題ないはず。あと、与那国島の一部は入っていません(実際は入っています)。それと、日本側防空識別圏の内側線は描いていません。めんどうだし、日中比較であまり意味なさそうなので。

中国の防空識別圏の緯度経度は下記の通り。
北緯33.11, 東経121.47
北緯33.11, 東経125.00
北緯31.00, 東経128.20
北緯25.38, 東経125.00
北緯24.45, 東経123.00
北緯26.44, 東経120.58

グリグリいじって、どこが防空識別圏被っているのか、中国の意図はなにかを考えてみるのもよしです。遊んでやって下さい。

※11/27,19:48追記
尖閣と蘇岩礁(離於島)、それに竹島のポイントを追加しました。

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2013年11月19日火曜日

不足と過剰の間で揺れ動く、自衛隊の輸送能力

フィリピン中部を襲った台風30号における災害ですが、各国による支援が本格化し、日本も自衛隊員1180名と航空機、ヘリコプター、護衛艦を現地に送り、医療活動等の救援活動を開始しております。

ところが、この救援活動による派遣が、自衛隊の業務に波紋を与えているようです。先日、こんな報道がありました。

国内外で多発する台風被害への対応に追われる自衛隊が、相次ぐ訓練中止に頭を悩ませている。  沖縄県で実施中の大規模演習では、伊豆大島やフィリピンでの救援活動に輸送艦を派遣したことから、メーンの離島奪還訓練を一部取りやめ。米軍輸送機MV22オスプレイを使う予定だった高知県での日米共同訓練も、台風の接近で中止された。自衛隊の輸送力不足も明らかになり、幹部は「今後、訓練の穴をどう埋めていくかが課題」と複雑な表情だ。

国内外で相次ぐ災害派遣により、予定されていた訓練が実施できない状況に置かれているようです。自衛隊に限らず、平時の”軍隊”(自衛隊が軍隊かどうかの議論はここでは置いときます)の仕事の大部分は、教育と訓練に費やされています。言うならば、自衛隊の平常業務が災害派遣で滞る事態になっているのです。

その原因は、自衛隊の輸送能力を超えた派遣にあります。現在のフィリピン国際緊急援助統合任務部隊に組み込まれている自衛隊の輸送機は、航空自衛隊が保有する主要輸送機の半数近くに登っており、また輸送能力の高い艦艇についても、おおすみ型輸送艦の3分の1、とわだ型補給艦の3分の1、ひゅうが型ヘリコプター搭載護衛艦の半数と、自衛隊の輸送能力の半分近くを今回の派遣に費やしている事が分かると思います。


フィリピン救援に派遣された、自衛隊の輸送機/輸送艦の数と全保有数

1180名の隊員をフィリピンに送るのに自衛隊の輸送能力の半分が必要な事を、輸送能力が足りないと見るか、足りていると見るかは意見の別れる所かもしれませんが、現に訓練に支障が出ている事を考えると、かなりカツカツで予備の輸送リソースに欠けるのではないかと思います。

しかし、単に輸送能力を増やせば済むという問題でもありません。例えば、運送会社は普段から自社の運送能力のほとんどを業務に使用していると思います。しかし、自衛隊の輸送能力はその特性上、平時は全体から見ればわずかな能力で活動し、有事にはその能力を100%発揮するようになっています。言い換えれば、平時はリソースが過剰にならざるを得ない宿命にあり、有事に必要な能力を確保すると、平時にはその分維持コストがかかる事になります。自衛隊輸送能力の現状は、平時は過剰、有事は不足という事態になっているのかもしれません。

では、コストを抑えつつ、輸送能力を強化するのはどういう手段があるでしょうか。一つは、民間の輸送能力を使うことです。現在、自衛隊の演習で移動する場合でも、民間の運送会社を利用する事が増えています。

民間輸送船に搭乗する自衛隊員(防衛省サイトより引用
しかし、民間で輸送する場合、平時の輸送リソースとして期待できても、有事に利用できるかは不透明です。そのため、特別目的会社を設立し、平時は民間航路を運行し、有事や訓練の際に自衛隊が輸送船として利用する事を防衛省が構想していると報じられています。

防衛省が、海兵隊機能の柱として導入する「高速輸送艦」について、PFI方式での民間フェリー導入を検討していることが25日、分かった。PFI法に基づき特別目的会社を設立し、平時は定期運航などの運用を委ね、有事や訓練の際に自衛隊が使用する。厳しい財政事情を踏まえ装備導入費を効率化するためで、有事での自衛隊の優先使用権も確保する方針。

この案のメリットは自衛隊側が必要な時に輸送船を使えて、それ以外は民間業務に使うので維持コストを大幅に抑えられる上、運行会社側にも繁忙期に民間輸送に使い、閑散期には自衛隊の訓練に貸し出す事で自衛隊から収入を得られるメリットがあります。有事での使用については民間人保護の問題も含め、検討しなければいけない側面も多いのですが、厳しい財政状況の中で官民共に効率的にリソースを使えるので、問題をクリアしてくれればと思います。

今回のフィリピンの台風災害は予期せぬことでしたが、災害も紛争も予期せぬ時に発生することがあります。その有事に100%の能力を出せる能力は、普段からの取り組みにかかっています。厳しい財政状況が続きますが、効率的にリソースを活かせる方策を見出して欲しいと思います。


【関連書籍】



2013年11月15日金曜日

自衛隊の邦人輸送に、必要な情報と「力」

15日の参議院本会議にて、改正自衛隊法が自民・公明両党らの賛成多数で可決、成立しました。この改正により、自衛隊による海外での邦人救出にあたり、これまで航空機と船舶に限定されてきた輸送手段に、陸上での輸送が可能となりました。

    緊急時に在外邦人を救出するため自衛隊による陸上輸送を可能とする改正自衛隊法は15日午前の参院本会議で、自民、公明両党などの賛成多数で成立した。日本人10人が犠牲になった1月のアルジェリア人質事件を契機に、「輸送手段が空海路に限定されていては、安全確保の上で支障が出かねない」として邦人保護の在り方を見直した。

さて、法改正を受けて、自衛隊による陸上輸送が可能になった訳ですが、これまで認められていた船舶・航空機による輸送と比べ、戦闘地域を通過する可能性もある事などから、現地の部隊は従来より難しい判断を迫られるケースが出てくるものと思われます。今回の法改正では、武器使用基準が従来と同じように正当防衛・緊急避難の範囲に留められていますので、自衛隊側からは原則として発砲が出来ません。目的は邦人の輸送であって戦闘ではないのですから、不必要な戦闘は避けるべきで、保護対象の邦人が自衛隊車両に同乗している可能性が高い事からも、邦人の安全の為にも交戦を避けて輸送を行うかが重要になってきます。


自衛隊の輸送部隊

その為には、現地の事情や言語に通じた隊員を確保する必要があります。防衛省では平時から海外の日本大使館に駐在し、安全保障情報を収集する防衛駐在官を増強する方針です。これまで防衛駐在官がいなかった中南米で初となる防衛駐在官をブラジルに置き、人質事件のあったアフリカ地域でも、アフリカ全体で2カ国のみだった防衛駐在官派遣国を9カ国にまで拡大すると報じられており、人による情報収集活動と人材育成を活発化させるようです。

また、部隊レベルの対応として、輸送活動についての訓練が必要になります。もちろん、戦闘に至った場合の訓練も行われるでしょうが、重要なのは危険を事前に回避する為の訓練です。平時からの情報、新たに得た情報を精査し、的確な判断を下すことが求められますが、中には事前に回避できず、現地の武装勢力と威圧を背景にした交渉を行う事もあるかもしれません。威圧と言うと悪く聞こえるかもしれませんが、銃を持った軍人が歩いているだけでも、周囲の人間を威圧する効果があります。例として、在日米海兵隊の憲兵隊オフィスに貼られていた「力」の行使レベルを表した図を見てみましょう。

海兵隊憲兵の力の行使レベル


これによると、「力」の行使で銃器の使用は最高レベルの事態のみで、最も下のレベルでは軍服とアメリカ国旗を見せる事が「力」として用いられています。次いで対人交渉スキル、護送や手錠の使用と言った銃器以外の「力」の行使が行われており、海兵隊憲兵が状況に応じて有形無形の「力」を使っている事が分かります。これは警察活動を行う憲兵隊の基準ですので、邦人の輸送活動で想定される事態にそのまま当てはめる事はできませんが、このように明快な武力の行使レベルを定めて、各レベルに応じた対処の訓練を行う必要があるでしょう。単に「輸送」するだけならトラック運転手でも出来ますが、自衛隊がわざわざ海外で邦人輸送を行うのは、有形無形の「力」を示す事で事前に問題を防ぐ効果が期待されている事もあるのです。

今回の法改正は自衛隊が陸上での輸送活動を法的に認めるもので、その為に必要な装備や訓練等の措置はこれから始まります。報道では装備の面等目に見えるモノに注目が集まりますが、交渉術や「力」の行使の方法にも目を向けてもいいのかもしれません。



【関連書籍】



自衛隊による邦人輸送の問題が顕在化した、ルワンダ難民救援派遣でのNGO救出事件について、事の顛末が書かれています。
また、救出されたNGOのAMDAの側でも同様に本が出版されています。


2013年11月13日水曜日

韓国から日本に鞍替え? トルコの戦車開発パートナーと日本の事情

先日、三菱重工業がトルコ企業との合弁会社を設立し、トルコ軍向けの戦車用エンジンを供給する計画が報道されました。


政府がおととし、いわゆる武器輸出三原則を事実上緩和したあと、各国から日本に対し、防衛装備品の共同開発の要請が相次いでいて、トルコのユルマズ国防相も、ことし3月に、小野寺防衛大臣と会談した際、日本との技術協力に期待する考えを示しました。 トルコは、戦車用のエンジンを両国の企業が共同開発することを念頭に技術協力を行いたいとしており、これを受けて防衛省は、「防衛産業の基盤強化につながる」として、具体的な検討を進めています。

出典:トルコと防衛装備品で協力検討

日本とトルコは、今年5月に安倍晋三首相が訪問した際に発表した共同宣言で防衛協力の強化をうたっており、エンジン開発はトルコ政府が日本側に持ちかけた。


出典:トルコと戦車エンジン共同開発=三菱重、合弁会社設置へ

小野寺防衛大臣は具体的に共同開発が決定された訳ではないとしていますが、この合弁企業の話はトルコ側から持ちかけてきた話と報道されており、そうなると後は日本の判断待ちのようです。

トルコは次期主力戦車として”アルタイ”戦車の開発を終え、2015年から配備を開始する計画です。このアルタイ戦車は、韓国で開発中の K2戦車をベースに、トルコの軍用車両メーカーのオトカー社が、韓国の鉄道・軍需機器メーカーの現代ロテム社と共同開発を進めていたものでしたが、ベース となるK2戦車よりも先にアルタイ戦車が完成する事態になっています。

K2戦車の開発が遅れている最大の要因は、エンジン・変速機を統合した”パワーパック”(動力装置)と呼ばれる中核コンポーネントの国産化が上手くいっていない為です。今年の10月にも、K2戦車用パワーパックの開発延期が報じられています。


【ソウル聯合ニュース】韓国陸軍の次期主力戦車「K2」で用いられる韓国製パワーパック(エンジンと変速機を一体化したもの)の開発期間が再び延長された。  防衛事業庁は11日の防衛事業推進委員会で、韓国国内で開発する1500馬力エンジンおよび変速機のK2への搭載時期を来年6月から12月に延期することを決めた。


出典:韓国軍のK2戦車 国産パワーパックの開発期間を再延長


K2戦車がパワーパックで開発に躓いているのを尻目に、アルタイ戦車はパワーパックをドイツのMTU社から購入する事で、パワーパックで躓くこと無く開発を終えました。アルタイ戦車はサウジアラビア向けの輸出も決まるなど、これまでの出足は順調です。しかし、自国の防衛産業育成に熱心なトルコとしては、戦車の中核部品と言えるエンジン・変速機を自国で開発・生産する事で、より強い国際競争力を付けたいと思われますが、まだまだ技術的に他国に頼らざるをえない状況にあります。

アルタイ戦車は将来的に現在のMTU製の1500馬力のエンジンから、より高出力の1800馬力の国産エンジンに換装する計画ですが、トルコ単独での大出力エンジン開発は厳しいものがあると思われます。今までの共同開発国である韓国は、パワーパック開発で躓いているなど技術面で不安があり、技術力のあるドイツのMTU社もおいそれと中核技術を渡す事は無いでしょう。そうした中、日本の武器輸出三原則緩和によって、トルコにとっての新たな戦車 開発パートナーの候補として、日本が挙げられるようになったと思われます。

では、日本の事情はどうでしょうか。トルコが欲しい技術面を見ますと、国産の最新戦車である10式戦車は、世界で初めて戦車に油圧機械式無段変速機(HMT:Hydro- Mechanical Transmission)を搭載しており、スムーズな変速と効率的な出力伝達を可能にしています。これにより、10式戦車は後進でも最大速度の時速70キロを出せるなど、従来の有段変速機搭載戦車(10式以外の戦車全て)と較べて、機動性が大幅に向上しています(下の動画で機動力の一旦をご覧いただけます)。

国産最新鋭の10式戦車






このような高い機動性を誇る10式戦車を生んだ日本の防衛技術ですが、その前途は危ぶまれています。防衛省は戦車の定数を、現在の740輌から300輌へと削減する方針だと報道されています。


防衛省は、陸上自衛隊が保有する戦車数を現在の約740両から6割削減し、約300両とする方針を固めた。


出典:陸自戦車さらに削減300両に…新防衛大綱で


ここまで大量削減が行われると、国内にしか市場がない日本の防衛産業にとり、大きなダメージとなります。防衛省の装備調達数は年々減っており、このままでは日本の防衛産業に壊滅的ダメージを与えると懸念されています。このため、武器輸出三原則の緩和には、海外市場を開拓することで、日本の防衛産業を存続させようとする意向もありました。

このような状況の日本にとり、戦車の中核部品であるエンジン等の動力装置を海外で販売できる事は大きな意義を持ちます。一方、トルコとしても、アルタイ戦車の改良と装備の国産化は重要課題であり、そのために日本の協力を得られるのであれば、渡りに船と言えます。つまり、日本とトルコ双方に大きなメリットがある提案だと言えるでしょう。

問題は日本とトルコが組む事による政治的リスクです。従来から日本と共同開発を行ってきたアメリカや、検討中のイギリス・フランスと比べ、トルコには武器輸出を巡る問題があります。伝統的にトルコへの武器輸出はドイツが大きなシェアを持ちますが、1999年にはトルコへのレオパルド2戦車1000輌輸出計画を巡り、ドイツ政府で大きな政治問題になったこともありました。クルド人に対する人権弾圧をい行うトルコ政府に戦車を輸出する事に、緑の党から反対意見がなされ、緑の党と連立政権を組む社会民主党はドイツ国内の雇用維持を主張して戦車輸出を目指したために、連立政権解消寸前まで至る事態になりました。

武器輸出は国際環境に大きな影響を与える取引であり、その武器の行方にも責任が問われます。過去に日本でも、アメリカへ民間向けに輸出されたライフル銃が北アイルランドに送られて違法改造され、IRAのテロ活動に使われていた事が国会で問題となり、メーカーの豊和工業での製造が打ち切られる事件がありました。武器輸出をすることは、このような政治的リスクを覚悟した上で行う必要があります。

日本とトルコ双方にメリットの大きい合弁会社計画ですが、武器輸出そのものの政治性の大きさと、リスクを理解した上で判断を下す必要があります。過去、武器輸出が政治問題化する恐れが小さかった日本ですが、現在は世界的な装備の国際共同開発の潮流があり、成長戦略としての武器輸出も検討されています。あえて火中の栗を拾うならば、そこから生じる問題を解決するために備える事も、また重要になってくるでしょう。


【関連書籍】

2013年11月7日木曜日

戦争ゲームと国際人道法の精神

戦争下における中立的な人道支援活動を行っている国際機関である、赤十字国際委員会(ICRC)が、戦争ゲームの中でも国際人道法に基づいた行動を取るように声明を発表しました。




【ジュネーブ=共同】ゲームの中でも一般市民を攻撃しないで――。 紛争地で救援活動を行う赤十字国際委員会(ICRC、本部ジュネーブ)は、戦争をテーマにしたビデオゲームでも実際の戦争と同様に、市民への攻撃などを禁 じた国際人道法を「順守」するよう訴える声明を出した。


このICRCの声明に対し、ニコニコニュース等でネット上の意見を確認したところ、「ゲームと現実の区別もつかないのか」「ゲーム脳」といった否定的なコメ ントが多く見られました。確かに、ゲームの中の行為を現実に行う人はまずいません。ICRCの声明に疑問を持たれる方も多いと思います。しかし、ICRCの成り立ちと、国際人道法の精神と戦時下の現実を考えると、今回の声明は現実離れしたものではないのです。


ソルフェリーノの戦場に立つナポレオン3世

イタリア統一戦争の最中の1859年、ソルフェリーノの戦いに偶然居合わせたスイス人実業家のアンリ・デュナンは、戦場で負傷した若者が敵味方関係なく苦し んで死んでいく様に衝撃を受け、その体験を「ソルフェリーノの思い出」として出版し、敵味方に関係なく負傷者を救護する国際機関の創設と、救護にあたっての国際的条約の締結を提言しました。このデュナンの提言は大きな反響を呼び、1863年には赤十字国際委員会の前身である「5人委員会」が成立し、翌 1864年には初の国際人道法であるジュネーブ条約が締結され、これ以降も捕虜や負傷者、民間人等の保護規定を定めた追加議定書・条約が締結され、これらが戦争におけるルールを定めたジュネーブ諸条約として現在に至ります。

戦争による被害拡大を防ぐために生まれたICRCですが、戦争そのものを否定してはいません。戦争が発生した場合、ICRCは当事国に対して国際人道法の順守を徹底するように求め、戦争の是非に言及はしません。これは、戦時下においても中立的に人道活動を行うためで、この姿勢を守る事によって、ICRCは多くの紛争地で人道活動を行えるのです。今回の戦争ゲームに対する声明も同じで、戦争ゲームそのものは否定せず、「リアルな戦争ゲーム」に限定した上で、ゲーム内においても国際人道法の精神が尊重される事を求めているのです。

では、ICRCはどうしてゲームの中まで国際人道法の順守を求めるのでしょうか。それは、国際人道法の特殊な位置づけにあります。

記事の冒頭でも触れましたが、ゲーム内での犯罪行為を現実に行う人はまずいません。それは、個人のモラルや常識の他に、国内法による強制力が働いているためです。ゲームと同じように破壊や殺人を現実に行えば、治安機関による摘発を受け、刑罰が科せられる事が、犯罪の抑止力となっています。ところが戦時下にあっては、敵国の占領下におかれた地域では国内法と治安機関は効力を失っており、占領地の住民の生命を保証できるのは国際人道法だけになります。しかし、国際人道法は強制力という点で極めて脆弱であり、戦時下では未だに捕虜虐待や虐殺といった戦争犯罪が絶えません。国際人道法は”弱い”法であり、戦時下で順守される為には、軍隊・一般市民が国際人道法への深い理解とモラルを持つ事が重要になってくるのです。

ICRCの国際人道法の基礎パンフレット

ICRCは軍隊や一般市民に対し、国際人道法を広く普及させることも使命としていますので、プレイヤーの自発的な意思によって国際人道法を 破ってもペナルティが無い「リアリティある戦争ゲーム」が、一般市民に広く受容される事態は避けたいものと思います。前述のとおり、ICRCの声明では戦争ゲームを否定しておらず、またファンタジーやSFゲームにおける犯罪行為は対象外で、リアリティある戦争ゲームのみに国際人道法の順守を求めています。 ICRCが上手いのは、リアリティを追求するのだったら、プレイヤーがゲーム中で起こした戦争犯罪でペナルティを受ければ、より“リアル”な戦争ゲームになると提言している点です。単純に、ゲーム中の破壊や殺害によるゲーム性・エンターテイメント性を無くせと言っている訳ではないんですね。

国際人道法は、国内法が効力を持たない戦争においても、最低限守られるべきルールを示したもので、戦争が無制限にエスカレートする事に歯止めをかける数少ない仕組みです。日本が戦争に巻き込まれなくても、海外旅行中に戦争に巻き込まれる事態は十分に考えられ、その場合は国際人道法が貴方を守 る事になるかもしれません。

多くの人が国際人道法を知ることで、国際人道法はその効力をより増すことが出来ます。リアルな戦争ゲームで国際人道法を順守する事のメリットを伝え、戦争犯罪へのペナルティが科せられるのであれば、より広く国際人道法の精神を伝える事に繋がると思うのですが、いかがでしょうか。


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ヘーイ! テイトクゥー! 艦これのE-4攻略したいからって、捨て艦戦法ばっかやってるとォー、善悪の判断鈍って来なィー?

2013年11月6日水曜日

中核派が天皇の権威に屈したようです

山本太郎参議院議員が天皇陛下に「直訴」した件、山本議員の進退を巡って未だに燻り続けておりますが、11月4日、山本議員に力強い応援が現れたようです。

山本太郎議員を擁護する中核派機関紙「前進」紙面
10月31日に行われた園遊会で、福島原発事故が引き起こしている深刻極まる現実を訴えて、山本太郎参院議員が天皇に手紙を直接渡した。このことに対し、自民党を始めとする国会の与野党およびマスコミが、山本氏に許すことのできない卑劣な攻撃を集中している。山本氏に「議員辞職」を迫ったり、参議院としての処分を検討したりと、天皇制イデオロギーと白色テロルの恫喝による、山本氏の闘いの圧殺がたくらまれている。


へー(棒)。

山本太郎議員が選挙運動にあたり、「革命的共産主義者同盟全国委員会」こと、過激派の中核派とその関連団体から支援を受けていた事は知られています。今回の直訴の件を報道で知った時、「中核派から支援を受けて当選した山本議員が、よりにもよって天皇の権威にすがちゃって大丈夫?」とか思ったものですが、過激派の支援を受けて当選した国会議員が、就任早々に議員権力の行使をすっ飛ばして天皇の権威の前にひれ伏したんですから、これ日本の極左団体史に残る大事件なんじゃないでしょうか。直訴以降、山本議員の扱いを中核派はどうするのかなー?とウォッチを続けていましたが、遂に山本議員をどこまでも決死擁衛する腹を決めたようです。

大恐慌下に最末期の脱落日帝・新自由主義の危機の中で、天皇制が「帝国主義ブルジョアジーの反革命的結集のシンボル」として登場してくることに対しては、労働者階級人民の「生きさせろ!」の怒りと決起がさらに激しく巻き起こっていく。われわれはどこまでも山本氏とともに、国鉄決戦と反原発決戦を軸に闘いぬくであろう。


天皇制をシンボルとして担ぎ上げたのは他ならぬ山本議員なんですがそれは……(震え声)。一度支援してしまった手前、引くに引けない泥沼状況に自らを追い込んでしまったのは御愁傷様です。

さて、その中核派ですが、今年になって幹部である荒川碩哉氏が公安のスパイだった事が発覚して、絶賛大揉め中です。内部分裂の火種を大量に抱えて、空中分解の最中でありますが、この山本議員の支援を巡ってもどうなることでしょうか。要注目です。


結局のところ、山本太郎議員の直訴で割りを食ったのは、中核派と、山本太郎と1字違いで抗議メールが殺到したやまもといちろう氏と言えそうです。





2013年11月4日月曜日

防衛技術シンポジウム2013 画像ジャイロの研究

連休はのんびりしてましたが、まだまだ防衛技術シンポジウムの話は続きます。

今回は、画像ジャイロの研究についてです。



現在、自己位置の測定や航法にGPSが標準的に利用されていますが、出力の低いGPSは妨害に弱く、軍用で使うにはより妨害に強い自己位置測定手段が求められます。
画像ジャイロとは、カメラから得られた情報を、地形・地図情報と照らしあわせて自己位置を測定するシステムです。

このシステムは日米共同研究で行われたもので、アメリカで空撮を行い、取得データを地上で地形と照らし合わせた結果、航法に耐えうる精度の測位が行える事が確認できたとのことです。

全般的な説明はポスターを見ていいただくこととして、この研究について質問したことを、Q&A形式で下記にまとめました。


Q.この研究では、演算装置を陸上に置いているが、航空機等のプラットフォーム上にスタンドアローンで載る事は出来るのか。

A.研究では演算装置を地上に置いたが、将来的にはスタンドアローンでの運用も可能。


Q.画像ジャイロでは地図データが必要だが、どれだけの容量が求められるのか。航空機等に積めるのか。

A.1、2テラバイトほど必要になるが、最近はSSDの高容量化が進んでいるので、機体への搭載も可能。


Q.地図データは事前に測定の必要があるのか?

A.公開情報の地図でも必要な精度が出せる。この研究ではGoogleEarthを利用した。


Q.地上のオブジェクトに特徴が無い地域でも測位可能か?

A.完全な砂砂漠では難しいが、アメリカの岩砂漠では可能。自然環境でも植生等から判断できる。
また、建造物等の特定オブジェクトの配置から測位しているのではなく、地形的に測位している。


Q.地形が変わった、あるいは妨害目的で変えられた場合、測位は可能なのか?

A.測位可能。仮に妨害するとしても、大きな地形変更が必要。
宮城県の被災地で実験を行い、震災前のデータでも現在の地形で測位が可能だった。建物の流出や広範囲の地盤沈下があっても測位できる。


GPGPUを利用はしていますが、この研究で用いられた計算サーバは古いもので、今ではもっと簡素なシステムで演算可能とのこと。
画像処理に用いられる並列計算機技術は、この数年で格段に進歩・省電力化していますので、機上に全部搭載できるようになるのも、そう先の事ではないと思います。