洞窟で見つかった「小さすぎる人類」
2016年4月、インドネシア・フローレス島の港湾都市ラブアンバジョで4WDの車をチャーターし、内陸部へと向かった。険しい山道を3時間以上も走ったあと、ふたたび平坦な土地に出ると、あたり一面の水田地帯だった。どこか懐かしい感覚を抱きつつしばらく走り、やがて目的地の丘にたどり着いた。
丘の中腹の道路脇に車を停めて5分もしないうちに、事前に連絡しておいた管理人がやってきた。
「ホビットに会いに来たんだろう? リャン・ブア洞窟の入り口はこっちだ」
そう言って、小道をすこし進んだ先にあるフェンスの鍵を開けてくれた。
目の前には崖があり、巨大な洞窟が口を開けていた。入り口の直径は、50メートルほどはあるだろうか。中に入ると、ひんやりしていて、車を降りて数分ほどでかいた汗がすっと引いた。「リャン・ブア」とは「涼しい洞窟」という意味であることを、さっそく体感した。
「ここだよ」と管理人がぼくを手招きする。
洞窟に入って左側の壁に近い区画だ。そのあたりだけ、地面の色が違う。いったん地面を掘ったあとで、埋め戻したためにこうなっている。つまり、ここが「発掘地」なのだった。
「人類学史上最大級の発見」とすらいわれ、世界中にセンセーションを巻き起こした古代型人類。身長わずか1メートルあまりの「ホモ・フロレシエンシス」の化石が、2003年、この場所を約6メートル下に掘り進んだところで見つかった。
ホモ・フロレシエンシスの「ホモ」は、ぼくたちホモ・サピエンス(現生人類)と同じホモ属(ヒト属)であることを意味する。人口に
管理人が言う。
「彼らは1万8000年前まで、ここにいた」
残念ながら、それは現時点では間違った情報だ。2004年に出された化石発見を伝える論文にはそう書かれていたが、のちに再検討されて、年代はもうすこし古いことがわかった。発掘された地層の年代からいえば6万年前まで、同じ場所から出てくる石器を考慮すると5万年前まで、と今は考えられている。
とはいえ、700万年におよぶ人類の歴史のなかで「5~6万年前」はかなり最近のことだ。この時期なら、アフリカを出てここアジアまでやってきたホモ・サピエンスと、なんらかの接触があった可能性も否定できない。
彼らはかつて、ぼくたちにとって本当の意味での「隣人」だったのかもしれないのである。
洞窟から徒歩数分のところに小さな博物館があり、そちらにも立ち寄った。
民家のような、ささやかな展示施設だ。発掘されたフローレス原人の全身骨格模型が、ガラスキャビネットに入れられて展示されていた。
その前に立ったぼくは、あらためて衝撃に打たれた。
とにかく、小さい!
頭骨など、両手で持ったらすっぽり包み込めるのではないかと思えるほどだ。サイズ感としては、まさに「子ども」だった。