東京大学は1月16日(水)、日本学術振興会海外特別研究員の植松圭吾さんらによる研究グループが、天敵の侵入に対して、“子供とお年寄りが協力して守り、その他は逃げる”というアブラムシの分業体制を発見したと発表しました。英科学誌「Biology Letters」に研究成果が掲載されています。
▽ 子供とお年寄りが協力して守り、その他は逃げる ―アブラムシの巧みな分業体制― | 東京大学(子供とお年寄りが協力して守り、その他は逃げる ―アブラムシの巧みな分業体制―)
▽ Juveniles and the elderly defend, the middle-aged escape: division of labour in a social aphid
研究に用いられたのは、虫こぶという巣を形成して集団生活を営む「ヨシノミヤアブラムシ」という社会性アブラムシの一種です。これまでの調査では、産まれたばかりの幼虫と繁殖を終えた成虫(無翅成虫)の2種類が天敵に対して防衛を行っていることが分かっていましたが、両者の集団内での協力関係は不明でした。
そこで研究グループは今回、虫こぶに穴が開いた際の、虫こぶ内部の各個体の動きに着目しました。すると、幼虫と無翅成虫は、捕食される可能性が高い虫こぶ裂開部に多く分布し、その他の個体は穴から遠ざかることが分かったそうです。これにより、集団で最も若い個体と年寄りの個体が防衛を担い、中間の個体が繁殖をするという分業体制が発見されました。
では、なぜ“子どもとお年寄り”が防衛を担うのでしょうか。植松さんらは次のように分析しています。
虫こぶは裂開した後枯れてしまうため、栄養の質が悪化します。よって若い幼虫は成長して成虫になるためにより多くの資源と長い時間を必要とします。また、年老いた無翅成虫も子を産み終えているため、将来の繁殖には寄与しません。繁殖の期待値が少ないこれらの個体を防衛に回し、繁殖の期待値が高い残りの個体は安全な所に逃すことで、子孫の数を最大化していると考えられます。
同研究グループではこれまでに、繁殖能力を失った“おばあちゃん”の無翅成虫が、外敵に対して捨て身の防衛行動を取ることを発見していました。
▽ 昆虫の社会における「おばあちゃん効果」の発見 ―ヒトと昆虫の社会をつなぐ― | 東京大学(昆虫の社会における「おばあちゃん効果」の発見 ―ヒトと昆虫の社会をつなぐ―)