Location via proxy:   [ UP ]  
[Report a bug]   [Manage cookies]                

2014/09/06

神前暁さんがつくる魅惑の「短3度転調」

神前暁さんの「短3度転調」についてメモ。

いつもどおり思い込みが沢山はいっているので、
話半分で読んでみてください。


***

神前暁(こうさきさとる)さんは、MONACA所属の作曲家です。
有名な劇伴曲・アニソンを数多く作曲しています。

神前さんの作曲は「神前節」とでもいうべき独自のシステムにのっとっていて、
誰の作曲か一発でわかるような明快さがあります。
そんな彼の作曲方法を、ちょっとだけ紹介してみます。

今回取り上げる短3度転調は、ポップス・渋谷系音楽では頻出なので、
知らず知らずに沢山聴いているはず。
半音3個分(キー±3)の転調です。

数ある転調のなかでも、ぼくはこれが一番好み。

***
(16/04/17)新しい記事を書きました。
MONACAの田中秀和さんの転調作法について。


1. 転調方向

短3度転調は、上と下の2種類があります。
こんな感じ。

これだけ見てもようわかりませんので、
下行って、上行ったら元の調に戻る」ということだけ覚えればOKです。

まずは、イメージをつかむため一曲聴いてみます。

■7 Girls War

     Aメロ:Bメロ(I)    サビ(VI)   Aメロ(I)
     (0:00)               (0:46)          (1:28)


サビ前で短3度下に転調して、
サビ後で短3度上に転調して元に戻ります。

あまりに自然なので転調しているように聴こえないかもしれませんが、
サビでグッと心掴まれる感じはありますね。

短3度転調の特徴は、
 ・転調に気づかないくらい自然につながる
 ・グッと心掴まれる
 ・上方向も下方向も効果的
というところです。




2. 楽曲の例

ここからは、神前さんの短3度転調を色々聴いてみます。
 ・サビ前で転調する事が多い
 ・必ず元の調に戻ってくる
というところに着目してみて下さい。

神前さんのキャッチーさの理由がちょっとだけわかるかも。

・短3度上転調:
・短3度下転調:

で表します。

   2-1 シンプルな転調

■① M@STERPIECE
     前奏・Aメロ(I)    Bメロ(bIII)     サビ(I)
     (0:00)                  (0:51)              (1:08)

Bメロで一旦上げておいて、サビで下げています。
転調は、変わる瞬間が一番劇的なので、
サビの入りに転調タイミングを持ってくるのが大切です。



■② ふたりのもじぴったん
     サビ・間奏(I)     Aメロ・Bメロ(bIII)      サビ(I)
     (0:00)                 (0:25)                       (0:59)

サビで雰囲気が変わるのがわかるでしょうか。
予告なしでスパッとかわります。突然転調。



■③ 帰り道
     前奏・Aメロ・Bメロ(I)       サビ(VI)      間奏(I) 
     (0:00)                            (0:54)             (1:22)

サビ前に、予告コードが入っているので、自然な転調になっています。
具体的な転調用コードは次の節でちらっと書きます。



■④ ハミングガール
     前奏・Aメロ・Bメロ(I)   サビ(bIII)   間奏(I)
     (0:00)                         (1:12)            (1:58)

こちらはサビで上がるパターン。ググっと盛り上がります。
僕はサビで上がるタイプが好み。



■⑤ セキレイ
     前奏・Aメロ・Bメロ(I (VIm) )    サビ(VI)      間奏(I (VIm))
     (0:00)                                  (0:57)           (1:25)

サビで マイナー調→メジャー調 と転調したように聞こえるので、
雰囲気が変わったのが分かりやすいですね。



■⑥ perfect slumbers
     前奏・Aメロ(I (VIm) )    Bメロ(VI)      Aメロ(I (VIm))
     (0:00)                          (0:36)            (1:10)

こちらもマイナーからメジャーへの転調に聞こえます。
晴れ間が見える感じ。



■⑦ お後がよろしくって…よ!
     サビ(I)      間奏・Aメロ・Bメロ(VI)       サビ(I)
     (0:00)         (0:05)                                (0:54)

サビで上がるパターンです。
簡単に言うと、カラオケで「キー+3」にしたのと同じ効果なので、
ここぞと盛り上げたいときに使われます。



■⑧ too late for chocolate ?
     前奏・Aメロ・Bメロ(I)   Bメロ(bIII)      サビ(I)
     (0:00)                        (1:00)              (1:15)

Bで上げてサビで下げるパターン。
冒頭と同じ調に戻ってるだけなのに、かっこよく聴こえます。



   2-2 転調の工夫

短3度転調の応用編です。

■① 幸せ願う彼方から
     前奏・Aメロ・Bメロ(I)    サビ前半(VI)    サビ後半・間奏(I)
     (0:00)                         (1:07)                (1:34)

サビの途中で調が変わるパターンです。素敵。
クラムボンがカバーしたバージョンも好き。ベースラインがカッコイイ。



■② りある_りあるが_あんりある
     前奏・Aメロ(I)  ↗ A'メロ(bIII)  ↘  A'メロ・Bメロ(I)  ↘  サビ(VI) ↗ 間奏(I)
     (0:00)               (0:26)            (0:32)                  (0:48)         (1:05)

上下下上で、プラスマイナス0ですね。
うまいこと元の調に戻ってきます。



■③ happy endings
     前奏・Aメロ(I)     Aメロ(bIII)     Aメロ(I)  
     (0:00)                 (0:18)            (0:21)                  

          Aメロ・Bメロ(bIII)      サビ前(#IV)     サビ前・サビ(VI)   間奏(I)
        (0:33)                      (0:49)             (0:52)                     (1:19)

とても高度な作曲例。
短3度上転調を4回繰り返すと、ぐるっとひと回りして元の調に戻ります。
こんなかんじです。

1オクターブは半音12個分なので、
短3度(半音3個上げ) ×4 でピッタリ回転しますね。
この原理をうまく活かした作曲です。
神前さんかっこいい。


(補足)
ちなみに、このI, bIII, #IV, VI を同時に鳴らすと、ディミニッシュコードになります。
短3度ずつ積みあげた和音。
音楽って数理的で面白いですね。

ディミニッシュコードに関しては、過去にちょっと紹介しました。
神前さんのキャッチーさが好きな人は好きかも。Lampオススメです。
 ↓
  ◆「さち子」の作曲をみてみよう (Lamp「ゆめ」より)
   http://kaho-ss.blogspot.jp/2014/02/lamp_16.html



■④ "HELLO!!"
    前奏・サビ(I)    間奏(bIII)    間奏(#IV)     間奏(VI)    間奏・Aメロ・Bメロ・サビ(I)
    (0:00)              (0:24)            (0:27)            (0:30)           (0:32)

おなじく、一周するパターンです。
「ででででーん」が鳴るごとに短3度ずつ上がって1周します。
IV/V という分数コードを短3度ずつ上げながら並べています。

かっこいい。




3. 転調方法

例を聴いて、短3度転調が少しだけイメージ出来ました。

実際に転調する際には、
上向きと下向きで、それぞれ転調用コード進行があります。
転調のための予告コード、という感じです。
沢山の方法がありますが、その中でも特徴的なのが下記の2つ。

3-1. 短3度上への転調
bVII7を置いて転調します。
実際には、 IV / V →  bVI / bVII →  bIII という分数コードが使われることが多いです。
(↑追記。フラット抜けてました…。


3-2.  短3度下への転調
III7を置いて転調します。とても普通。
神前さんの短3度転調は、
ワンコード挟むだけ、というシンプルな作りが多いです。

このワンコードのおかげで、
もうすぐ転調来るかも、というワクワク感を演出できます。




4. まとめ

・短3度転調は上と下の2種類がある。
・短3度上転調を4回すると元の調に戻る
・ワンコードはさんで転調する。

神前さんの曲には短3度転調がけっこうあるんだ、というところが分かりました。
序盤中盤終盤、何処に使ってもスキがない転調作法です。

こういった技術的な面と、メロディーセンスのような感性的な部分が、
うまく融合しているのが神前さんの魅力だと思います。




5. 補足

 神前さんの扱う転調は主に3つです。

① 短3度転調(半音3個) … 今回紹介
② 長2度転調(半音2個) … 雨上がりのミライ chocolate insomnia など。
③ 短2度転調(半音1個) … Go My Way! "HELLO!!"など。半音上がる有名なやつ。

長2度転調もカッコイイんですよね。機会があればまとめます。



6. 過去記事

作曲に関するちょっとしたコラムです。

(16/04/17追記)
◆神前暁「chocolate insomnia」でコードの転回形を覚えよう
神前さんのコードワークについて書いてみました。
凝っていてとても美しいです。

◆田中秀和さんの「落ちサビ転調」を聴いてみよう
MONACAの田中秀和さんの転調について

◆田中秀和さんのスケールを聴いてみよう

聴いて覚える田中秀和さんのコードワーク

真部脩一(ex. 相対性理論) の「モチーフ作曲法」

相対性理論の音楽から、シンプルなアレンジを学ぼう

「さち子」の作曲をみてみよう (Lamp「ゆめ」より)

Lampの名曲とディミニッシュコードの響き

9 件のコメント:

  1. はじめまして。いつも楽しく読ませて頂いております。
    進行方向別通行区分及び相対性理論関係の作曲テクの記事あたりから定期的に拝読しておりました。あそこらへんの音楽をチェックしている方がMONACA関係もチェックされているというのは少し意外でした。流石です。

    最近神前さんが休養中ですが、その間にMONACAの田中秀和さんが"ポスト神前暁"的な存在になりつつある気がします。その内、気が向いたらで構いませんので田中さんの曲に関しても是非取り上げて頂けますと嬉しいです。(前にハナヤマタOPを取り上げられていたのは存じてますが……。)
    ハナヤマタOPやアイカツのED『カレンダーガール』あたりから感じる"田中さんっぽさ"というのがどうしても気になってしまって……。
    是非とも宜しくお願いします。


    MONACAの新曲『Let'sアイカツ』(https://www.youtube.com/watch?v=1ttmpc60uHo)は田中さんのクレジットですが、雰囲気が神前さんっぽいのも転調のせいなんでしょうか。

    返信削除
  2. yozさんこんにちは。読んでいただいてありがとうございます。
    田中さんの作曲、僕も惚れ惚れするくらい好きなので記事で取り上げたいと思います。

    田中さんの特徴、僕が思う限りでも、一つの記事では書ききれないくらいあります。
    基本スタンスは「神前暁+α」と思うのですが、この+αが超ツボなんです。
    凝ったポップスの美味しいところが全部詰まってると思います。
    (実際には超複雑なので、言うまでもなく僕の手に余ります)

    たとえば、田中さんの曲には「IIIm7b5」というハーフディミニッシュコードが出てきます。
    お送りいただいた曲の、
    ♪ハートのチャイム鳴らし「て~」のところの和音です。
    なんだか胸が鷲掴みにされる感じがしますよね。とても好きです。
    ハナヤマタOPにも使われています。



    Let'sアイカツの転調が神前さんっぽい、というのは鋭いご指摘で、
    この間の記事とまったく同じ短三度転調が使われていると思います。
    こんなかんじです。
      サビ・Aメロ(I) ↗ 0:46- Aメロ・Bメロ(bIII) ↘ 1:18- サビ(I)
    サビ前の♪(It's All Right!)のところでドラムが休止して、ワンコードで転調するのも
    同じ作法ですね。

    あとは、サビで一音ずつ下がるコードをつかう、
    隙間なくハモリパートを敷き詰めるなど、神前さんゆずりな音作りがたくさんあるように思います。

    返信削除
  3. 補足です。
    田中秀和さんは音楽に造詣が深い方に人気があるらしく、
    すばらしい分析記事が出ておりました。

    ■2013年 / カレンダーガール解説 / 2013年もえこ楽曲大賞
    http://ameblo.jp/moe-sweets/entry-11738307250.html

    ■花ハ踊レヤいろはにほ コード分析
    http://ikasumiwataame.tumblr.com/post/95032908110

    これを読むと、なんだか超複雑に思われるかもしれませんが、超複雑なんです…。
    いつもどおり、平易に紹介できるように考えてみますね。

    返信削除
    返信
    1. 丁寧なレスありがとうございます。
      詳しい記事もあったんですね……。補足頂いた記事の方も良く読んでみます。

      田中秀和さんというと何となく「合いの手」と「エレクトロなサウンド」が取りざたされる気がしますが、コード進行に着目した解説ってあまりないので……。気付いてしまうと実に面白いですね。彼らの他の楽曲でも頻繁に使われてて驚きます。

      削除
  4. アニソンはあまり聞かないのですが、かなり参考になる考察ありがたいです。
    今後も記事待っております。

    返信削除
  5. こんにちは。コメントありがとうございます。
    じつは考察自体よりも、気に入った作品を褒めたい、という気持ちで書いているので
    匿名さんにとって、普段聴かない音楽に触れるきっかけであったなら嬉しく思います。

    返信削除
  6. kahoさんはじめまして。つい最近アニソンのコード進行についていて調べていてこのサイトを見つけて感動しました!
    高校に入ってからオタクきっかけで音楽が好きになって、特に変調する曲に気持ち良さを感じるようになったのですが、感覚的にしかわからないのでこのような解説は私にとって目から鱗でした。
    リクエストなどを受け付けてもらえるのでしたら、坂本真綾さんのBe mine! という曲や、シグマハーモニクスというゲームの’希望与えし「戌吠の神楽」’という曲を是非解説してもらいたいです!

    返信削除
  7. こんにちはjoek punosさん。お読みいただきありがとうございます。

    joekさんの曲とても好みです。凝ったコードも美しくて、もし感覚的に作られているとしたら凄いです。GAMECHANGERサビの自然な転調すばらしいと思います。

    リクエストありがとうございます!
    基本は「自分の大好きな作曲家の紹介」という感じなので、ご期待に添えられるかわかりませんが、
    まずはご紹介頂いた2曲ありがたく聴かせていただきます。
    「Be mine!」はバンアパの方作曲なんですね。サビ冒頭のコードすっごく強烈な音ですね。
    http://acua-piece.info/post/119024351385/be-mine-chord
    http://acua-piece.info/post/119082967185/be-mine-chord-a-b
    こちらの方が完璧に聴き取りされているかなと思いました。ちょっと難し目ですね。

    希望与えし「戌吠の神楽」は浜渦さんの作曲ですかね。こちらは編曲が凝っているので、コード譜というよりスコアが必要そうですね。

    返信削除
    返信
    1. 早速のコメントありがとうございます!Gamechangerでも「短3度転調」が使われていたので、仕組みを知れて嬉しかったです。(そういえば化物語のHappy biteを参考にしていたような気がします。あの曲も神前暁さんでしたね。)
      Be mine!では代理ドミナント...裏コード...など、なんだか全く新しい音楽のテクニックを垣間見た気がします。学校の先生に今度詳しく訊いてみたいと思います。
      スコアなんて大層なものを読み解ける自信がありませんが、浜渦さんの音最近のお気に入りなので、そちらの方もなんとか勉強してみます。
      今後もアニソンや相対性理論(大大大好きです。真部さんのモチーフ作曲法の記事、楽しく読ませていただきました。)や他の素晴らしい曲の紹介を楽しみにしています!

      削除