【イプシロンをたずねて3000km】クルマとロケットは、高性能で低コストなのがイイ
―[道路交通ジャーナリスト清水草一]―
その瞬間、何が起きたかよくわからず。「絶対成功間違いなし!」じゃなかったの……。8月28日、国産ロケット・イプシロン打ち上げの失敗、もとい中止に儘ならないのもまた男のロマンであると知りましたが、やはり神々しく空を駆けて行くロケットを見たかった! イプシロンに会うために、往復約3000km走ってきました
MJブロンディ=文 Text by Shimizu Souichi
池之平昌信=写真 Photographs by Ikenohira Masanobu
◆クルマとロケットは、高性能で低コストなのがイイ!
クルマ愛好者は、鉄道や飛行機など、他のマシーンもたいてい好む。が、私の場合、一番好きなのはロケットです!
これまで見たロケット発射は4回。日の丸ロケットの命運を賭けた「H2A試験機1号機」打ち上げ成功の時は、涙が出るほど感動した。あれは1度見たらやめられない。あの炎、あの轟音。あれほど神々しいマシーンはない! 諸君らも電車でスマホばっかりいじってないで、一度ロケット打ち上げでも見に行ったらどうか? ショボい人生が変わるかもしれないから!
ロケット見学の足は、たいていクルマである。2名以上で向かうなら、飛行機を使うよりはるかに安いし、ロマンがある。ロマンのためにひた走る。まさに男のロマンである。電車でスマホと比べたら、実に貴族的な営みだ。
今回も、日本期待の新型低コストロケット「イプシロン」が打ち上げられるってことで、貴族的にクルマで見学に向かった。イプシロンの発射場は鹿児島県の南端、肝付町。種子島と違って海を渡る必要がないぶんラクだが、なんせ往復約3000km。何に乗って行くのが貴族か?
我々が選んだのは、日本の誇る革新的クリーンディーゼル・スカイアクティブDを搭載したマツダCX-5だった。クリーンディーゼルの燃料は軽油。ガソリンよりリッター25円ほど安い。しかも燃費も加速もいい。長距離を走るには、これが非常に貴族的な重要ポイントである。
金持ちケンカせずの余裕のパワー。それでいて無駄にカネをかけない節約精神。そこらをちょろちょろ走るなら、軽やハイブリッドカーが最適だが、男の長距離ドライブは、貴族のクリーンディーゼルでなくてはならないのだ。
走り出すと、おお、まさに貴族の足。アクセルを少し踏むだけでググッと加速してくれるので、とてつもなく疲れが少ない。CX-5で新東名・新名神の平滑な路面を疾走すれば、まるで夜空へ続く滑走路。同行した2名も同感とのことだった。
池之平「これに乗っちゃうと、ガソリン車には戻れませんね」
編集K「僕もいずれ必ずディーゼルを買いますよ!」
一度貴族の生活を知ったら、もう庶民には戻れないのだ。
東京を出発して18時間、発射場の対岸に到着した我々は、その場で6時間打ち上げを待った。待ち時間の友はマンガやエロ本。貴族よのう。
いよいよカウントダウンだ。時計を睨みながら南西の方向を凝視する。3、2、1、発射!
アレ?
イプシロンロケットは、「0.07秒のズレ」により打ち上げ中止となった。ガク~。編集Kは、「仕事をいっぱい先送りして無理して来たのに、グワ~~~~!」と嘆きまくった。
これだからボンクラは困る。これは失敗ではなく中止! 失敗する前に止められたのは大勝利だ。日本のためには実に喜ばしい。
⇒【後編】に続く https://nikkan-spa.jp/506950
― イプシロンを訪ねて3000km【1】 ―1962年東京生まれ。慶大法卒。編集者を経てフリーライター。『そのフェラーリください!!』をはじめとするお笑いフェラーリ文学のほか、『首都高速の謎』『高速道路の謎』などの著作で道路交通ジャーナリストとしても活動中
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