第3回のテーマは「身体性」です。これはインタラクションデザインの基盤となる考え方です。従来は、人間の脳内の情報処理モデルと対話システム処理系という関係性で人と機械がモデル化(入力ー出力の関係)されることが一般的でした。これは、特定の作業タスクやコンテクストのみではある程度有効な手法でした。しかしながら、技術の発展に伴い機器や情報システムが一般家庭やモバイル環境などの状況がダイナミックに変化するような場面となると、実世界や社会の性質や仕組みを理解した上でのシステム設計が必要となりました。
従来のモデル化は人間を高度に抽象化し、入力ー出力の関係を「点」で捉えてきたと言えます。しかし、日常生活のような動きのあるコンテクストの中でのインタフェース設計は「面」で設計しなければならないのです。人間がどこで、どのように活動を行っているのか、活動や状況それ自体に対するインタフェースを発想しなければならないのです。いわばこれがインタラクションデザインなのです。さらに、身体は環境と密接に関係しており、身体性について考えることは、人間の知性にも関わる重要なことです。今日のヒューマノイドロボットの研究の源流には、脳が知性の本質と捉えた従来の人工知能の失敗があります。つまりロボットの研究は人間の知性を身体と環境とのインタラクションから探りだそうという試みのひとつなのです。
さて、第三回の研究会では慶應義塾大学の山中俊治教授、東京大学の暦本純一教授を講師として迎え、ご講演頂きます。お二方とも企業出身であり、現在大学教授となられていますが、そのキャリア自体が日本のIxDやUXの発展を物語っているとも言えます。山中先生は、デザイナーとしてのご活躍が長いものの、出身は工学部という特異なキャリアをお持ちで、近年は技術者としてヒューマノイド・ロボットなどの開発にも関わっておられます。そして、暦本先生は実世界指向インタフェースの第一人者であり、Pick&Dropといったヒューマンインタフェースの業界の一つの歴史的分かれ目をつくられた方でもあります。山中先生、暦本先生共に、新しい人間観を持ちそれを的確にものづくりに落としこむインタラクションデザインのプロフェッショナルです。
今回の研究会はお二人のご講演に加えて、巨匠と直接対話する時間を多く設けます。また、密な議論を行うためにご講演頂くお二人と会場との距離を近く設定しました。さらに、研究会会場にて懇親会を行い、長時間にわたって参加者同士で意見交換を行うことができるようにしています。現代の巨匠と直接対話することができる貴重な機会を、皆さんと共有できる会にしたいと思います。