「原点回帰」をテーマに,シンプルかつ奥深さを追求した新作Wizが登場
6人編成のグループで3D風のダンジョンを突き進むWizardryは,コンピュータRPGの原点ともいえるシリーズ。誕生から20年以上経った現在もなお,Wizファンを自認する人は多い |
「Ultima」(ウルティマ)と共にRPGの歴史を築き上げてきたといっても過言ではない「Wizardry」(ウィザードリィ)は,初代の発売から四半世紀が過ぎた現在においても,世界中で愛されているシリーズ(ブランドといったほうがふさわしいかもしれない)だ。とくに日本におけるWizardry人気は高く,今なお毎年のように,その名を冠した関連タイトルが発売され続けている。
今回紹介するアイ・アール・アイ コマース アンド テクノロジー(以下,IRI)の「ウィザードリィ・外伝 〜五つの試練〜」は,そういった関連タイトルを含めた“日本産Wiz”の,決定打となりうるタイトルだ。
今やWizardryは,関連タイトルを全部合わせると,膨大な数となる。本家のシリーズでも,かつての敵役でプレイしたり,宇宙に飛び出したりしたし,日本で独自に発展した“ウィザードリィ”の中には学園モノまであるほど。
そのため,「Wiz」と聞いても人によって思い浮かべるイメージがずいぶん違うとは思うが,単刀直入にいうと本作のテーマは「原点回帰」。すなわち本家シリーズの中でも,さらに初期に当たる「シナリオ1〜3,5」のゲームシステムに準拠した内容だ。
一定の年齢以上の人が「Wiz」と聞いて思い浮かべるであろう,あの雰囲気である。
もっとも,読者の中には,「一体何回“原点回帰”するんだ」と思う人もいるだろう。確かに,日本でWizの名を冠するゲームが発表されるたびに,使われてきた言葉だ。それに,21世紀にもなって,ただ単純に昔のWizに似せて作っても仕方がない。それを打破するためか,本作の制作陣にはそうそうたる顔ぶれが揃っている。
まず本作のシナリオを担当したのは,かつてシナリオ1をファミコンへ移植し,国内におけるWizブームの基盤を作った,あの「ゲームスタジオ」の後身会社「モバイル&ゲームスタジオ」である。そしてモンスターデザインおよび監修は,これまた日本版Wizの象徴ともいえる末弥純氏。そしてサウンド関連を担当した「Basiscape」は,Wizシリーズには初参加ではあるものの,かつて「オウガバトル」や「ファイナルファンタジー XII」など,多数のビッグタイトルに携わってきたスタジオだ。
本作は,日本で今考えられる限りの最高のスタッフを集めて作った,Wizardryへのオマージュ作品として捉えるのが正しい。そしてその試みは成功している。その根拠を,このレビュー記事でお伝えしよう。
なお本作を発表したIRIは,過去に「ウィザードリィ・外伝〜戦闘の監獄〜 Prisoners of the Battles」も発売しているが,今回の「五つの試練」は,「戦闘の監獄」と一部仕様が異なっている点に注意。
最も大きな違いは,ショップにおける「魔法付加」と,「ミニマップ」の機能が撤廃されていることだ。また,「二刀流」と「武器の射程距離」の概念も,今回は前作ほど積極的に用いられていない(詳細については後述)。その結果,本作は「戦闘の監獄」の独自要素が弱まり,限りなく本家「シナリオ1〜3」に近いテイストになっているというわけだ。
相当なWizフリークが作ったことをうかがわせる
5本のシナリオ
今回は最初から5本ものシナリオが収録されている。どのシナリオも個性たっぷりで,いずれもありとあらゆる仕掛けが盛り込まれているのだ |
本作は,五つのシナリオが別々に収録されているのが特徴的である。各シナリオは完全に独立しており,これらは「シナリオセレクター」によって切り替えが可能。シナリオ間のキャラクターデータには相互関係がなく,また移動も行えない。つまり本作には,5本分のタイトルが収録されていると考えてよい。
そして5本のシナリオは,それぞれ制作者が異なるのはもちろん,細かいゲームシステムまで微妙に変更されており,そのため違うタイトルをプレイしているかのような印象を受ける。この5本をぎっしり詰め込んだお買い得感が,本作のアピールポイントの一つといえよう。それではこれらを踏まえたうえで,本作に収録されている各シナリオの具体的な内容を紹介していこう。
各シナリオは,タイトル画面も別々のものが用意されている。まるで別のゲームを遊んでいるようで,ボリューム面で物足りなさを感じることはまずない | 武器のステータス欄に「補助武器」と記されている点に注目。二刀流と長射程武器の活用は,本作におけるキーポイントの一つだ |
●旅人の財産(クリア想定レベル:25〜30程度)
本家Wizの1作目をやり込んだという人は,このシナリオから挑戦してみよう。本家#1と比べるとややボリュームが多めだが,これくらいがちょいどよい気も |
鉱山の最深部で発見された宮殿を探索するという,オーソドックスなシナリオ。全部で20×20マスの10フロア構成(つまり本家のシナリオ1と同じ)となっており,本作に収録されたシナリオの中では,ややボリュームが大きい。
「戦闘の監獄」のプレイ経験がある人や,Wizシリーズのリハビリがとくにいらないという人なら,最初から取りかかっても問題はない。謎解きのレベルも“ほどほど”となっており,攻略サイトなどでヒントを見なくても,辛抱強く続ければきっとクリアできるはずだ。
本シナリオをほかの4シナリオと比べた場合,射程距離の長い武器や二刀流といった,「戦闘の監獄」同様の(本家の初期シリーズにはない)仕様があるのも特徴である。このシステムはかなり強力で,シーフや僧侶などの後衛職でも直接攻撃できる武器や,前衛職用のサブウェポンに注目するといい。とくに,二刀流は攻撃対象が別々に判定されるため,格下の敵多数を殲滅するのに大いに役立つ。しっかりと活用していこう。
鉱山のダンジョンを探索するという,オーソドックスなシナリオ展開。これらの地形に見合った仕掛けが,各フロアに散りばめられている。理不尽すぎるトリックはない | 地下6階(に相当するフロア)のマッピングには悩まされるかも。今はネットを通じて簡単に攻略情報を入手できるものの,Wizファンならこれくらいは自力でクリアしたい |
●満月王の子供達(クリアレベル13〜15程度)
このようなショートシナリオでは,大器晩成型の上級職は基本的にあまり向いていない。それらが使えるレベルにまで成長する前に,クリアしている可能性が高いからだ |
家臣の反乱によって呪いをかけられた王と,その子供達を救うというショートシナリオ。巨大な館を登っていくという形式で,ストーリー中盤では仮面舞踏会に足を踏み入れるなど,シナリオ全体が優雅な雰囲気に満ちあふれている印象だ。
クリアの目安レベルが14前後という点からも分かるように,ボリューム自体は比較的あっさりとしている。ただしダンジョン攻略よりは,どちらかというと謎解きに比重が置かれており,これがかなり強烈。詳しくはネタばれになってしまうので控えるが,よくもまぁこのような仕掛けを思いついたものだと感心してしまうほどである。
個人的には本シナリオを自力でクリアするのは相当難しいと思うのだが,いわゆる「リドル」の難問に燃えてしまうような人は,ぜひともチャレンジしてもらいたい。
館の中で繰り広げられるシナリオなので,出現モンスターも場に相応なものが多い。これらの新グラフィックスも用意されているが,テイストはあくまでWiz風だ | 本シナリオのトリックは,(良い意味で)意地悪としか言いようがない。トリックを見抜いた瞬間は思わず,「そんなのアリかよ!」叫んでしまうかもしれない |
●ガルヴァンの酢漬け男(クリアレベル15〜17程度)
たとえ歴戦の強者といえども,寄る歳波に打ち勝つことはできない。年齢に関連した深刻なテーマが秘められているシナリオだ |
前作「戦闘の監獄」用の追加シナリオ,「慈悲の不在」の制作者が手がけた新シナリオ。シナリオ名からしてかなり独特な雰囲気だが,酒やつまみにちなんだモンスターやアイテムが多数登場する以外は,ごく普通の展開だ。しかし終盤になると,実は意外なテーマをはらんでいたことに気づく……という内容。このテーマについては,30代以上のプレイヤーであれば,複雑な思いを抱くのではないだろうか。
フロア数が6と少なく,また幅の広い道が多いため,マッピングがサクサクと行える。5本収録されたシナリオの中では,かなり難度が低いほうだ。数年ぶりにWizシリーズに触れるような人は,リハビリとして最初にプレイするのに向いたシナリオかもしれない。
最初「なんだこれは」と思うかもしれないが,意味が分かるにつれて「なるほど」と思ってしまう。それにしても,このシナリオから少しずつ,何かが弾け飛んでいくような | 序盤から中盤までは,錬金術にちなんだ,ごく普通のシナリオという印象。今後いったいどのような展開が待ち受けているのかは,自分の目で確かめてみてほしい |
●灼熱の車輪(クリアレベル12〜14程度)
ヘヴィメタルとWizによる不協和音……ではなく,独特の旋律を奏でるシナリオ。「そういえばこんな曲あったよね」などと振り返りながらプレイするのが楽しい |
何から何まで,とにかくブッ飛んだシナリオ。というのも,世界観の至るところにヘヴィメタルの要素を取り入れており,正統派ファンタジーであるWizとの強引な融合が,独特のテイストを生み出しているのだ。基本的なストーリー展開は本家シリーズの「#2 ダイアモンドの騎士」へのオマージュとなっているが,冒険者が集めるのは武具ではなく,なぜか「オートバイ用のパーツ」である。
そして完成後はオートバイにまたがって高速道路を爆走し,地下666階のライブハウスで壮絶なバトルを繰り広げるのだ。ここの説明部分だけを読んで,果たして本当にWizだと信じてもらえるかどうか不安でならない。
とはいえ,世界観を除けば意外なほどしっかりした内容で,しかも本シナリオだけ新曲がふんだんに用意されるなど(当然メタル調の曲),妙に制作側の意気込みを感じさせる。シナリオもコンパクトではあるものの,このテンションを最後まできっちり維持しており,決して一発ネタだけのシナリオではない。とくに,かつて「Judas Priest」「Metallica」「Ozzy Osbourne」といったメタルに夢中になった人であれば,必ずや満足できるはずだ。
深く考えず,ダンジョンを巡ってオートバイのパーツを集めていく。オートバイが完成した暁には,メタルマニアの頭の中に「Bat Out of Hell」が鳴り響くだろう | 「本気でバカをやってみました!」という潔さが,ひしひしと伝わってくる。しかし一見冗談のように思えても,その底にはWizに対する愛を感じられるのだ |
●欠けた大地(クリアレベル???)
マニュアルに載っている順番には従わず,本稿ではこのシナリオを最後に紹介することにした。Wizとは,どれほどシビアなゲームだったのかを思い出させてくれる難度だ |
「五つの試練」の中で,最大の問題作であろうシナリオ。魔術師に奪われた古文書を取り戻す,というのが表向きの内容である。この魔術師は地下5階にて冒険者を待ち構えており,当初の目的だけを考えれば,おそらくレベル13〜15程度でクリアできる。取り戻せばエンディングが待っており,それを証明する称号も獲得できるのだが……。
しかし,そのあとで各フロアのマップを見渡してみると,まだまだ踏破していないエリアが多数あることに気づくだろう。決して脅かすわけではないが,そこで何が起こっても動じない覚悟を決めておくとよい。
ダンジョンのボリューム,謎解きのレベル,そしてドロップアイテムの品質,どれを取っても5本中で群を抜いているシナリオである。できればほかの4シナリオをクリアした後に,じっくり腰を据えて取りかかってほしい。それともう一つ,メンバー構成の中に「魔法使い」を一人入れておくことを強くお勧めする。
考え方によっては,善と悪の2グループが必要だった,本家シリーズのシナリオ3にも似たストーリー展開。これで終わりかと思っても,実はまだ全体の半分も進行していない | 「五つの試練」は全体的にあっさりとしたシナリオが目立つが,この「欠けた大地」だけは別。いくら腕に自信があっても,このシナリオだけは最初にプレイしないほうがいいだろう |
どれからプレイすればよいのか分からない,といった人のために,各シナリオのシステムと難度を簡単にまとめてみたので参考にしてほしい。ちなみに表中の“クリアレベル,ボリューム”は,筆者が感じた大まかな目安である。もちろん「Wizardry」の名を冠しているので,どのシナリオもワンミスで灰となるシビアさがあるのは,いうまでもない。
二刀流 | 長射程武器 | クリアレベル | ボリューム | |
旅人の財産 | ○ | ○ | 25〜30 | 7 |
満月王の子供達 | × | × | 13〜15 | 5 |
カルヴァンの酢漬け男 | × | ○ | 15〜17 | 4 |
灼熱の車輪 | × | × | 12〜14 | 3 |
欠けた大地 | ○ | ○ | ????? | 10 |
シナリオごとに対象とする層が違うため,
世代に関係なく楽しめる
やはりファミコン版のシナリオ1は偉大だ。あの段階で“Wizスタイル”が広く世間に認知されて確立されたからこそ,現在でも日本でWizブームが続いているのではなかろうか |
本家Wizの初期シリーズへのオマージュとして見た場合,前作にあたる「戦闘の監獄」はデキが良かったため,筆者は本作に関しても,あまり心配をしていなかった。しかしゲームシステムの安定感はともかく,良い意味で期待を大きく裏切ってくれたのが,収録された各シナリオの完成度の高さだ。どのシナリオも強烈な個性を放っており,それでいて本家シナリオ1〜3の路線から,大きく外れていないのである。
これは口で言うほど簡単なことでは決してない。なぜなら,Wizは1981年より続く伝統あるシリーズ/ブランドであるため,ちょっとでも“らしくない”要素が入ってしまうと,(とくに日本の)古くからのファンにそっぽを向かれてしまうのである。実際,世界的には人気の高い本家の6作目「Wizardry VI: Bane of the Cosmic Forge」は,それまでの“お約束”をいくつか無視したためか(本来,新作とはそういうものなのだが),日本で正当に評価されているとは言いづらい。
しかし,「五つの試練」の場合,どぎついシナリオの「灼熱の車輪」でさえ,口うるさい日本人Wizファンをねじ伏せさせるだけの貫禄を備えている。プレイヤーのほんの一握りの人にしか伝わらないであろう些細な箇所にも,一切手を抜くことなく,実に丁寧な仕事をしているのだ。
本作は歴史と伝統あるWizに対して,細心の注意を払いつつ,敬意を表した作品……とでもいおうか。オマージュの手本ともいうべきこの作品であり,ほかではないWizardryを題材としているのが,ファンとしてはたまらなく嬉しい。
最近,シングルプレイRPGが再び注目を浴びているが,かつてこれほどまでに偉大なRPGがあったことを思い出させてくれる,そんなゲームに仕上がっている。
もちろん,気になった点もある。まず,収録曲の大半が「戦闘の監獄」からの流用になっているのは残念であった。厳密には「灼熱の車輪」シナリオにヘヴィメタル調の新曲が収録されているものの,これはいわばボーナストラックのようなもの。さすがに,「あのBasiscapeの新曲だ」と胸を張るには少々寂しい。あくまでも本作は,「戦闘の監獄」用の追加シナリオ集ではなく別タイトルなので,新曲を用意してほしかったところだ。
ゲームバランスについて,ショップにおけるアイテムの鑑定料金が高く,ビショップのいないグループ編成だと金銭面のやりくりに最後まで苦労する点は,人によって評価が分かれるところだろう。ビショップをはじめとした上級職は大器晩成型で,とくに本作のショートシナリオにはあまり向いていない。なので,仮にすべての鑑定をショップで行うといったプレイスタイルでも,金銭面をギリギリでやりくりできるバランスが妥当ではなかろうか。
以上は些細な点であり,本作の総合評価が揺らぐほどではない。初期の本家シリーズをこよなく愛する人や,日本独自の展開である外伝シリーズが好きだという人にとって,仮に「戦闘の監獄」は100点の作品だったとすると,「五つの試練」は110点といっても問題ない。
さすがに,「最先端のPCゲーム」とは言えない本作だが,ずっと親しまれてきた“古典”の現代版としてなら,十分にお勧めできる。たとえるなら,歌舞伎の新作のようなもので,そこには長年培われてきた技術/芸があり,独特のエンターテイメント作品となっているわけで,それをわざわざハリウッド映画と比べても仕方がないのだ。
かつてWizに熱中した人ならば,ぜひ本作をプレイしてほしい。また,なぜこのシリーズが長年支持されているのかよく分からない,といった若い世代の人も,入門用として触れてみると,それこそ歌舞伎を観るのと同じような感覚で,楽しめるのではないだろうか。時代は変わっても,ゲームの本質的な面白さは変わっていない。そのことに気づかされるだろう。