From Africa Renewal, Vol.22 #1 (April 2008), page 10
女性たちの土地所有権への挑戦
土地利用権と処分権獲得のための厳しい戦い
メアリー・キマニ
未亡人のフェリタス・クレスはウガンダ北東部、カプチョルワで暮らしている。夫の死後、子育てで頼れる人はなく、唯一頼れるのは、夫とかつて農業を営んでいた、小さな小さな農場だけである。その農場は、夫の死後数ヶ月で、彼女が知らないうちに夫の親族によって売られてしまった。彼女は、土地購入者から立ち退き要求を受けるまで、そんなことは夢にも思わなかった。その後、土地の権利に関する活動を行う市民グループ、ウガンダ・ランド・アライアンスの助けを得て、彼女は土地をもう一度使うことができるようになった。
このようなことはアフリカではよくあることだ。むしろ、彼女のケースはラッキーと言える。なぜなら、多くの場合、夫の死や離婚が原因で所有権はおろか、土地を使うこともできなくなるからだ。
専門家の調査によると、アフリカの食料生産の70%は女性が担っている。農業労働の半分、耕作や除草そして食料加工・保管・輸送の80〜90%は、女性の労働によるものだ。
しかしながら、エチオピアのアジスアベバにある国連アフリカ経済委員会(UNECA)の、食料安全および持続可能な開発担当であるジョアン・カグワンジャが言うように、アフリカでは女性が土地に関する権利を持つことは稀である。土地に関する権利は男性あるいは男性によってコントロールされた親族グループが持つ傾向にあり、女性が土地を使うのは、ほとんどの場合、夫や父親など男性の家族・親戚を通じてである。例え土地を使うことができたとしても、農作物から得た収入は日常的に男性に渡すことになっているし、その使い道に口出しはできない。
その上、男性を通じて土地が使用できたとしても、ある日突然使えなくなることも十分あり得る。ある研究では、ザンビアでは3分の1以上の未亡人が夫の死をきっかけに家族の土地を利用することができなくなっているとしている。カグワンジャはアフリカ・リニューアルに次のように話す。「多くのアフリカ人女性を弱くしているのはこの男性への依存なんです。」
こういった状況に対して、活動家たちは女性がより安心して土地を利用できるような法を導入、あるいは強化しようと奮闘して、社会的規範や障害となる慣習と戦っている。多くの困難があるが、状況は少しずつ改善しつつある。
エイズのインパクト
エイズの広がりとエイズに関わるスティグマは、女性の土地所有権を不安定なものにしている。エイズで死んだ男性の配偶者は、よく「家系に 病気を持ち込んだ」として責めてられるし、そのことが理由で土地や財産を奪われることもある。結果として、彼女と子供たちは社会の隅っこで生きていかなくてはならなくなる。国連食糧農業機関(FAO)のHIVおよび農村開発担当である泉かおりさんは「エイズで夫をなくした女性たちは、土地を失い、道で食べ物を売って生計を立てなくてはいけない」「寝る場所も無く、そのことが食料安全保障が脅かされるという問題につながっている。」と述べている。
そういった女性は時に養育権を失い、性を売り物にするか、あるいは不法でどこかに住むことになってしまう。そして、自分自身の力で生活することができないため、暴力や虐待の被害者になりやすい。FAOは2001年からこのようなケースを報告しており、国連事務局の女性・子供・エイズのためのタスクフォースによって進められているプロジェクトの手助けをしていると泉さんは述べる。
FAOは「女性の生活水準は、女性が土地に関して決定権を持つことで改善され得る」と指摘する。アフリカ・リニューアルとのインタビューで泉さんは次のように述べる。「ボツワナとスワジランドで、国連は女性が確固たる財産や財産権を所有している場合は、女性の商業的性的搾取やそれに似た危険な行為というのは減っているということを確認しました。ですので、土地や所有権というのは、男女平等あるいは食料安全保障にとって不可欠なのです。」
「残念なことに、何十年もに及ぶ努力にも関わらず、土地所有権キャンペーンや国連は女性の土地所有権の状況をほとんど改善することはできませんでした。」と泉さんは述べる。「これまでの知識や効果のあったこと、なかったこと、なぜなかったのかを集成し、女性の土地・財産に関する権利を確保するためのより分かりやすいロードマップを考えなければなりません。」
歴史遺産
ワシントンDCに拠点を置く、国際食料政策研究所(International Food Policy Research Institute;IFPRI)の調査員は、アフリカにおいて女性が土地所有権を享受できていないのは、歴史が原因であると指摘する。植民地支配以前は、土地所有権・使用権利にはいくつかの形態があるものの、多くは血統・氏族・一族によって受け継がれ、男性の頭が毎日毎日管理していた。特定の一族・氏族のメンバーは、そのコミュニティや親族の長から土地の権利を得ていたのだった。
母親から財産を受け継ぐという風習のある一定のコミュニティを除けば、土地所有権は決まって男子によって相続されていた。女性が土地所有権や使用権を持つことはほとんどなかった。女性は、男性の親族を通してしか権利を主張できない、いわば副次的権利保持者と考えられていた。未婚の女性は父親の土地を使用することができたかもしれない。しかし、多くのコミュニティにおいて、結婚とともにその権利を失うことになる。これは夫や夫の家族とのつながりによって、新たな土地の使用が可能だと考えられるためである。夫が亡くなれば、土地は息子に相続され、息子がいない場合は、義理であっても男の親族によって相続される。
国際食料政策研究所の調査員であるベンジャミン・カズンズは次のように指摘する。たとえ歴史上女性が直接的に土地に関する権利を所持してなかったとしても、離婚や夫の死後でも女性の土地利用を保護する伝統があった。また、ある土地がどの女性のものか、もめるようなことがあった場合でも、調停を設ける手段が伝統としてあった。
しかしながら、植民地支配が広まったことで、西洋の土地所有システムがアフリカにもたらされた。東洋とアフリカ南部では、たくさんの白人移民が、自由土地保有の名目の下に、土地を個人で保有すること、土地の分配を推奨した。アフリカ西部では、土地のほとんどがリーダー格によって管理される共同体所有のものとされた。
独立時には、タンザニア、モザンビークやベナンなど新しい政府は、全ての土地は国家のものであると宣言した。ケニア、南アフリカでは一族保有と、個人所有が存在し続けた。ナイジェリアでは、一族保有は国有および個人所有と、特に都市部で併存した。
その後何年もおよぶ人口の急速な増加は、土地の乱用や土壌の枯渇をもたらした。その結果、肥沃な土地はより価値のあるもとになり、競争が激化した。このプレッシャーと家族構造や氏族関係の変化は、伝統的に、あるいは社会的に女性の土地使用権を守ろうとするシステムを腐食した。カズンズ氏が言うには、アフリカの土地に関する論争が依然として形式上慣習法によって治められている一方で、女性の権利を守る仕組みは現代になっても何も進んでいない。それどころか、アフリカ・リニューアルとの取材でカズンズ氏は、「今となっては同棲など、伝統的な規範では認められていない、さまざまな状況がある。ゆえに、多くの女性が土地使用権を失ってきた。」と説明する。
二重システム
今日では、多くのアフリカ国家が土地所有の伝統的ルールと西洋の制定法の両方を認識している。ナイジェリアでは、1960年の独立後、国家が全ての土地の所有権を持つ。これは通例の土地所有を脆弱なものにしてはいるが、長い間氏族や一族によって所有されてきた土地においては、国家も伝統的規範を認めている。ナイジェリア北部のイスラム法を認めることは、この状況をさらに複雑なものにしてしまっている。
ナイジェリア南西部では、従うべきに法に関する混乱を利用して、裕福なエリート層は各氏族の長と結託して、土地を買い上げてしまった。これらの土地は、かつては血族団体で所有していたものだが、女性はもちろんのこと、誰にも止めることができなかった。
このような西洋のシステムと伝統的、あるいは宗教的な規範の2重構造はしばしば女性にとって不利に働いた。国連開発計画と世界銀行が2000年に発表したアフリカのジェンダーと農業に関する共同研究は、ケニアの相続法を例に挙げている。法律によって女性と男性が平等な権利を相続する権利があるとしているのである。しかし、男性が遺書なしに死亡した場合、彼の所属する氏族の土地に関する慣習法によって土地が相続される。ほとんどの男性が遺書を残すことなく、女性が夫や父親の財産を相続することがコミュニティ内で認められていないことが多いので、男女平等の権利を謳った相続法は適用されないケースがほとんどである。実際には、この研究で議論されるように、女性の相続権は無いに等しいのである。
土地所有権
西洋の開発専門家が、慣習法の欠点を克服するためにまず提案したのが土地所有権を個々人に与えることである。ハーバード大の土地所有権研究員であるエスター・ムワンギ氏によると、アフリカ東部・南部の政府は個々人が土地に対して法的な力を持つという土地所有の在り方を支持している。この政策は女性が所有・相続した土地所有権や財産に関する権利を守るために制定されたものである。
「私が働いたことのあるその他の地域では、土地の個人所有化は、実際には女性から土地へのアクセスを奪っている。」とムワンギ氏はアフリカ・リニューアルの取材に応え指摘する。また、次のようにも述べている。「土地所有のプロセスにおいて、書類に名前が載るのはほとんど男性でした。なぜなら、男性が「世帯主」になるべきだと考えられていたからです。
運良く土地を手に入れることのできた場合でも、未亡人は小さな土地しか割り当てられません。」更に、アフリカ中に広がっている一夫多妻の世帯は、状況をなおさら複雑にしている。年長の妻と年少の妻、子供たち、何人もの義理の親族たちが土地をめぐって対立するのである。ムワンギ氏によると、「土地所有権を得ているということで、男性は土地をどうすることもできるのです。妻たちに何も言わずに売り払うことだってできてしまうのです。」
土地権利活動家は、女性の土地使用を保障するひとつの方法として、形式的な所有権と使用権を分けることを提案している。そうすれば、例え土地が男性の名前で登録されていたとしても、妻や跡取りに内緒で売ることができなくなるということである。ガーナでは、「家長の責務に関する法」というものがあり、この法によって家族の財産は勝手に売ったり、何かを許可したり、利益を得たりしてはいけないことが定められている。
「もうひとつの代替案は、土地所有権の証明書に家族の名前か男性と女性両方の名前を載せることです。水、衛生設備、放牧のための土地が社会で共有されなくてはならない場所では、コミュニティ内全員が土地の所有者だとされるべきだし、平等な権利を持つべきだ。」とムワンギ氏は述べる。
法改定への抵抗
しかし、そのような提案をするのは簡単でも、実行するのはそうではない。初めに法律を変える必要がある。泉さんによると、多くの国で女性の土地に関する活動家たちは法律を制定させようと努力した。その結果はさまざまんである。ウガンダ・ランド・アライアンスの激しい抗議活動のあったウガンダでは、土地の所有者として男性と女性の両方が書類に載るようにとの訴えが繰り返されたが、法案は議会を通っていない。泉さんが説明するには、部分的には、プライベート・セクターによる法改定への抵抗があったのである。
タンザニアでは、国家によって土地が所有され、長期リースという形で(普通99年)貸し出されている。そのため、事業家たちは、土地の共同所有は銀行の担保や収入源として土地を使用することは難しくすると論じている。「事業家たちは、土地を売る前、あるいは何らかの形で使用する前に、家族の同意を得なくてはいけないというのはとても難しく、土地のマーケットを活性化させることにはならないと主張するのです」と泉さんは述べている。
泉さんは、こうした主張は、女性が多くの場合、個人所有の土地取引から利益を得たり、土地を担保として使用することはないという事実を無視していることの注意を促す。女性は一般的に家族の収入をコントロールしておらず、土地を買うこともできないのである。もし、仮にできたとしても、ローンを組むことは難しい。多くの国でローンを組む際、夫の承認が必要なのである。
進歩的な法が通過したところでも、必ずしもことが簡単に運ぶ訳ではない。モザンビークでは、市民社会グループが1997年に女性に確固たる土地へのアクセス権を獲得した。相互サポート農村団体のレオナ・マガネは「土地に関する法が通ったことは、勝利だと思っている。」と述べている。
しかし、モザンビークのジェンダーと土地に関する調査の編集員であるレイチェル・ウォーターハウスは言う。「理論的には法は申し分ないが、実践するのはとっても難しいことが分かったのです。なぜなら、通常農村部の女性が使う、伝統ある裁判所では、未だに男性が家長であり、家長が土地に関して一切の権利を有すると信じられているからです。」
同様に、ジンバブエでも未亡人・妻を亡くした夫を正式な土地所有者とするために、法に修正が加えられた。しかし、泉さんによると、情報がいきわたっていないために、農村で暮らす女性の多くはそのことを知らない。
ガーナでは、1985年の遺言のない場合の相続法と家長の責務に関する法の両方が未亡人や残された子供たちの権利保障を目的としている。男性が遺言書を残さずに死んだ場合、彼の財産は妻、子供、親族の間で平等に分けられる。しかし、FAOが上ボルタ地方で行った研究によれば、このことを知る女性は少ない。そのため、多くの女性が夫の死後、土地を利用することができなくなっている。
泉さんが指摘するには、一般的にアフリカの法律は履行に問題のある場合が多い。政府に進歩的な法を認めるようにとする抗議活動が盛んな場所でも、強い抵抗がある。
変化へのいくつかの道
カグワンジャ氏が述べるところによると、憲法によって女性の基本的権利がきちんと守られ、法に財産に関する平等の権利が明確に書かれることが必要である。これが既に成されている場所においては、相続や法律の全てと憲法を調和させ、矛盾のないようにしなくてはいけない。それに加え、土地法の施行にあたる法的機関は、法を平等に、女性にやさしく施行しなくてはならないし、都市以外の農村部でも機能しなくてはならない。
カグワンジャ氏は、現在、とても中央集権的な機関しかなく、土地に関する揉め事が起きたときに解決の立場にあるのは男性である。また、訴訟費用は金額がとても高く、こわがられていると述べる。
更に伝統的土地所有システムは特に、再考されるべきであるとも主張する。土地を割り当てる権力のある地域のボスは普通男性に割り当てるからである。新しい、地域の土地委員会を作るべきでしょうか?そしてタンザニアやウガンダのように、その委員会のメンバーを選挙し、男女平等訴えるべきでしょうか?それとも古いシステムを民主化するべきでしょうか?これは私たちが答えなくてはいけない問いの一部なのです、とカグワンジャ氏は述べる。
カグワンジャ氏の問いに答えることは同時にさまざま努力を必要とするというのが泉さんの意見だ。法改革にはあらゆる努力がなされてきた。法や政策は重要で、更に改定する努力を続けるべきであり、変革を起こす努力も必要だ。しかし、また、政府が技術的・財政的に法を施行できるようにアシストすることも大切なのだ、と泉さんは考える。
裁判官や古くからのリーダーも、広くコミュニティによって女性の土地に関する権利が受け入れられるように働くためのトレイニングが必要であると泉さんは付け加える。しかし、最も重要なのは、女性自身が自分の権利を自覚し、自分たちに何ができるのか、助けを求めるのにはどこに行けばいいのかを知ることである。
女性の権利に関して否定的な規範との戦い
ムワンギ氏によると、広範囲での文化の変化もまた必須である。土地の割り当てを決めるものは、特に社会での女性の役割という文化を理解することが必要だ。経済や政治における男女不平等に対する取り組みも必要である。
ムワンギ氏は土地の共有について何人かの男女と話したことがあるという。「私は、男性はまだ準備ができていないのだと思います。土地に関して、女性が決断することができるという考え方に、なじむことができていないようです。」と述べる。また以下のように付加えてもいる。「これは逆説的なことですよね。女性の労働力は生産性のキーなのに、女性は文字通り土地に手を伸ばすこともできない。そして、男性はこれを問題視もしていない。」
これにはカズンズ氏も賛成している。「土地所有権を主張するということは、家族の中での不平等な権利に対する取り組みを行うのと同じである。この権力関係を変えない限り、誰が権利を所有しているかという法律上の定義は意味のないものである。」
泉さんによると、これまで多くの抵抗勢力があり、規範はとっても根深いものである。ジェンダー関係は最も変えることの難しい社会的関係なのである。
ポジティブな発展
こうした状況の中、いくつか明るいニュースもある。スワジランドでは、女性は土地を所有できない。なぜなら、法の下で女性は男性より劣っているからである。しかし、HIVに感染し、夫の死後土地を使用することのできなくなった女性たちは、女性のチーフを通して、生活のために土地を使用することができるよう、他のチーフたちと交渉することができた。彼女たちはこれまで13の集団農場を手にいれることができたと、泉さんは報告している。
ケニアでは、コミュニティの監視グループと、HIV陽性者のホーム・ベースド・ケアをするいくつかのグループが協力して介入している。女性や女の子の土地に関する権利が奪われそうになる場合には、主として家族の男性たちと交渉しているのである。
ルワンダでは、1999年に女性が男性と同じ相続権を有すという法が議会を通過し、先行の男性だけが財産を相続するという伝統的な慣習を覆した。これによって1994年の大量虐殺によって、未亡人・孤児になった人々が土地を失わずに済んだ。
国際食料政策研究所の研究によると、ガーナではカカオ生産が土地との関係を変化させているという。カカオを育てる作業は過酷な労働であり、男性と女性が労働の代償として、土地を与えることを交渉することが増えている。この「ギフティング」と呼ばれる過程において、既婚の女性は労働に対して土地の一部を受け取る。コミュニティはこの「ギフト」を取り消しすることのできないものだと認識しており、女性はこの土地を別居や離婚の場合にも所持し続けることができる。
最近ではFAO、国連女性開発基金(UNIFEM)や国連開発計画(UNDP)がNGOと共に、女性自身が彼女たちの権利を認識し、各国の法の中で平等の権利が認められるように活動している。
しかし、泉さんが議論するところによると、更なる努力が成されなければならない。「小さな活動はスケールを大きくしていかなくてはいけない。小さな団体ができることには限りがある。我々がやってきたことは、他の人たちが成し遂げてきたことの情報を広める、他の団体に実践するように言うことである。このような活動を更にサポートしていかなければならない。女性と土地の権利の問題意識は増えつつあり、楽天的でいることにも理由がある。」