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プレスリリース・記者会見等

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鉄はどこから来たのか?
-X線天文衛星「すざく」が初めて明らかにした鉄大拡散時代-

平成25年10月31日

宇宙航空研究開発機構

 X線天文衛星「すざく」を用いた観測により、スタンフォード大およびJAXAの研究者たちが、100億年以上前の太古に、鉄などの重元素が宇宙全体にばらまかれた時代があり、それが現在宇宙に存在するほとんどの重元素の起源であることを確認しました。

 鉄などの重元素は、宇宙の始まりであるビッグバンの時点では存在せず、星の中で合成されたのち、その星が最後に超新星爆発を起こすことで周辺の空間に拡散します。宇宙誕生から約30億年後(いまから約110億年前)に、星が大量に誕生し、星の大集団、銀河がたくさん生まれたと考えられています。星々で生まれた重元素が銀河の外まで運ばれることは知られていましたが、この時代の重元素が銀河の中や近くにとどまっていたのか、あるいは銀河間空間をはるか遠方にまで大きく広がったのかについては知られていませんでした。全宇宙の鉄などの重元素の多くが生成されたこの時期、その重元素がどのように宇宙中に広がったのかを知ることは、すなわち、我々の身の回りの重元素がどこから来たのかを知ることに他なりません。110億年前の宇宙の重元素の分布を観測することはまだ難しいのですが、現在、我々の身の回りにある銀河の大集団、「銀河団」を観測し、個々の銀河の周辺や、銀河間空間の全体に大きく広がるガスの中の重元素の割合を調べれば、そのばらつき、特に銀河の分布との関係から、この疑問への手がかりが得られるはずです。

 スタンフォード大学カブリ素粒子宇宙論研究所(Kavli Institute for Particle Astrophysics and Cosmology)のノロベルト・ウェルナー(Norbert Werner)研究員、JAXAインターナショナルトップヤングフェローのオーロラ・シミオネスク(Aurora Simionescu)研究員らからなる研究グループは、高い感度と分光性能を誇るX線天文衛星「すざく」を用いてペルセウス座銀河団の広い範囲にわたって鉄の割合を調べ、そのばらつきが小さいことを発見しました。実際、得られたデータは、そのようなばらつきが全くないと考えて説明でき、銀河の分布と相関していません。1000万光年にも及ぶ広い範囲について鉄の割合がほぼ一様であることから、鉄のほとんどは、銀河団が形成された時代よりも前に、宇宙に大きく広がりよく混ざっていたと考えられます。銀河団の誕生は宇宙誕生から約40億年後(いまから約 100 億年前) だと考えられていますので、いまから100億年以上前に、鉄などの重元素が星々から大量にまき散らされ、宇宙中に拡散した時代があったこと、現在の宇宙に広がるほとんどの重元素はその時代にまき散らされたものであることが分かったのです。
 数多の星が生まれ、巨大ブラックホールが急成長したこの時代、星々から生み出された重元素は、銀河からの強い風に乗って宇宙中に拡散していたのです(図1)。

 今回の結果は「すざく」衛星を用いた「キープロジェクト」と呼ばれる、特別な大規模観測プログラムから得られました。我々の近傍にあるペルセウス座銀河団を、数週間にわたってかつてない精度で観測したことで、鉄の分布を精度よく知ることが初めて可能となったのです(図2)。今後「すざく」や、より高感度の次期X線天文衛星ASTRO-Hなどを用いて、他の銀河団でも同様な現象がみられるのか、さらには、複数の銀河団を含む大規模構造全体ではどうなのかなどを調査することで、重元素の生成とその拡散の歴史に関する理解がさらに進むものと期待されます。
 なお、この成果は英科学誌「ネイチャー」の2013年10月31日号に掲載されました。

 主著者のスタンフォード大学のノロベルト・ウェルナー研究員のコメント:「鉄の分布が驚くほど一様であることをはっきり示せたことで、はるか昔に重元素を大規模にかき混ぜる時代があることが確認できました。」

 観測プロジェクト提案者の一人で共著者のJAXAインターナショナルトップヤングフェローシップ特任研究員の、オーロラ・シミオネスクさんのコメント:「我々の起源はとても古かったわけです。皆さんの血液にも含まれる鉄は、遥かな昔100億年も前に、100万光年の彼方で作られ、宇宙を旅して来たのです。」

 観測プロジェクトのリーダー、スタンフォード大のスティーブ・アレン准教授のコメント:「「すざく」衛星の結果は、銀河団という宇宙最大の天体の成長の過程を知る貴重な手がかりを示してくれます。こうした観測は "すざく" や次世代のASTRO-H衛星などのX線天文衛星でしかなし得ません。」

 データ解析に参加したスタンフォード大の大学院生、オンドレイ・ウルバンさんのコメント:「この結果は、銀河の形成史を理解する上でも重要な成果です。実はまだ起源が知られていない、宇宙線に含まれる超高エネルギー粒子の謎にも迫れると考えています。」

 JAXA インターナショナルトップヤングフェローシッププログラムは、JAXAが2009年度より設けた研究員制度で、世界からJAXA 宇宙科学研究所で進めている宇宙科学の研究分野において卓越した能力と高い意欲を持つ若手研究者を宇宙科学研究所に招聘し、宇宙科学研究所を研究拠点として世界レベルの研究成果を創出することを目的としたプログラムです。

 「すざく」衛星は、2005年に日本が打ち上げたX線天文衛星であり、その開発にはNASAも協力しています。世界中に開かれた国際X線天文台として運用され、本成果もその公募観測の中から生まれました。「すざく」は2013年現在も精力的に宇宙観測を続けています。

図1:100億年前の宇宙の想像図。星が大量に生まれ、超新星爆発を起こして死んで行き、また急成長するブラックホールの風に乗って、大量の重元素が宇宙中にばらまかれた。

図2:ペルセウス座銀河団の観測結果。「すざく」を用いて84回もの観測を行い、銀河団の東西南北の8方向について1000万光年にわたって鉄の分布を調べました。図で白/赤がX線で明るい所、緑/青が暗い所です。(From Urban et al. submitted to Monthly Notices of the Royal Astronomy Society)

図3:100-120億年前に、超新星爆発や急成長するブラックホールが生み出した強い風は、コーヒーカップのスプーンのように、銀河から溶け出した鉄を、宇宙中にかき混ぜたと考えられます。(画像提供:池下章裕/JAXA)

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