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Policy(提言・報告書)  税、会計、経済法制、金融制度 企業結合に関する独占禁止法上の審査手続・審査基準の適正化を求める

2010年10月19日
(社)日本経済団体連合会


1.はじめに ~基本的考え方~

熾烈な競争が繰り広げられているグローバル市場における競争力を維持・強化していくために、各企業は、経済・社会環境や産業構造の変化に迅速に対応しながら戦略的に企業組織を変革している。
このような流れを踏まえ、今年6月18日に閣議決定された「新成長戦略」において、グローバル市場に配慮した企業結合規制(審査手続及び審査基準)とするための見直しの必要性が指摘された。その後、9月10日に閣議決定された「新成長戦略実現に向けた3段構えの経済対策」において、「企業が国際競争力を向上させるために戦略的な事業再編を機動的に行うことができるよう、グローバル市場の動向も踏まえつつ、平成22年8月に行った検証結果を踏まえ、早期に見直しを行い、結論を得た上で、平成22年度中に所要の措置を講ずる」とされた。この機会に、企業結合に係る独禁法上の審査手続や審査基準を抜本的に見直すべきであり、早急に措置が講じられることを求める。
本来、企業結合は自由に行われるべきものであり、それに対する規制は、独禁法上問題がある場合に例外的に適用され、問題のない企業結合については、むしろ積極的に促進するような仕組みとすべきである。特に、当事者である企業にとって迅速性と予見可能性が重要である。
企業結合に関わる手続の見直しの前提として、現在国会において継続審議となっている不服申立てにつき公正取引委員会(以下、公取委)による審判制度を廃止し、裁判所での訴訟にゆだねる独占禁止法改正法案の早期実現と速やかな施行を求める。

2.現行制度の問題点

(1) 事前相談制度の問題点

現状、事前相談を行った案件については実質的な審査が事前相談段階で行われている。特に独禁法上の問題の有無について簡単ではない判断が求められる案件については、正式な届出に先立って公取委の感触を得られることにメリットを見出している企業が多い(現行独禁法が施行された本年1月以前は、株式取得については、正式届出対象外であり事後報告義務しかなかったため、事前相談に頼らざるを得なかった)。しかし、その一方で、事前相談については、任意の行政サービスとして行われていることに起因する手続の不透明性や予見可能性の低さが指摘されている。たとえば、以下のような指摘がある。

  • 担当者によって判断や対応にばらつきがある。
  • 審査期間が長期にわたり、スケジュールの予見可能性が低い。
  • 審査開始にあたっての提出資料の範囲が不明確であるため、一次審査前に膨大な質問が出されたり、資料請求が繰り返されたりするなどいわゆるゼロ次審査が続き、なかなか一次審査(原則30日以内)が開始されない。
  • 届出を要する取引の範囲が過大であり、資料を作成・準備する負担が重い。
  • 一次審査の結果については口頭で通知されるだけで、判断理由の具体的説明がない。
  • 当事会社が担当者の判断・結論に反論する機会がない。

(2) 届出制度の問題点

届出についても、企業結合関係の判断基準が曖昧であり、届出対象が広範にわたるという問題がある。届出に当たり、株主総会決議は必須ではない(決議があった場合には決議の記録の写し)とされているにもかかわらず、総会決議をしなければ届出を受理しない、という運用がされているというケースもある。

(3) 審査基準の問題点

審査基準についても、グローバルな市場での競争の実態を踏まえた判断がなされていない。担当官によって対応や判断に幅があるほか、実際のビジネスの感覚からすると、地理的市場、商品・サービス市場とも、市場画定が狭すぎるという声が多い。
審査に際して、破綻認定が適切に行われていないという問題もある。会社全体に限らず、実質的に採算が取れないために市場退出を余儀なくされている破綻事業については、放置すれば市場から失われる供給能力であり、事業再編を通じてその供給能力が維持・効率化されることは需要者にとってもメリットがあるにもかかわらず、公取委の運用では、破綻企業である旨が公表できない場合や民事再生あるいは会社更生による再生が可能とされている場合には破綻認定がなされていない。

3.企業結合規制の抜本的な見直し

前項で指摘したとおり、現行の企業結合審査については多くの問題点が指摘されており、抜本的に改正することが必要である。株式取得についても正式届出対象となったこと等も踏まえ、原則、実質的な審査とそれに基づく最終的な独禁法上の判断については、正式な届出後に規定の期間内のできるだけ早い段階で行うこととし、事前相談については、円滑な届出受理とその後の審査を迅速に進めるための公取委と当事会社との間の調整・協議のプロセスと位置付けるべきである。

(1) 正式届出前の事前相談プロセス

  1. 事前相談プロセスの必要性
    事業者側から任意に企業結合事案について相談できる仕組みは企業にとって重要な意義を持つものであり、正式届出前に相談できるプロセスについては、位置づけを変えた上で、引き続き維持する必要がある。

  2. 事前相談における当事会社とのコミュニケーションの充実
    事前相談段階において十分なコミュニケーションを持つことは、事業者側そして当局側にとってもメリットがある。#1
    事前相談プロセスを通じて、届出後も含めた審査スケジュールの目安についても示唆が得られることは非常に有用である。さらに、当該案件が届出対象となるのかどうかや届出後の審査で必要となる資料や審査のポイントとなる点、たとえば市場の画定がどのようになりうるか、等について具体的な示唆を与えることが求められる。また、判断が比較的容易な案件については、相談過程で(本格的な審査の前に)感触が示唆されることも多くの会社が期待するところである。現行、正式届出に際しては、当該企業結合計画についての契約書の写しや会社としての意思決定を示す文書(あれば総会議事録、取締役会議事録等)が必要とされているが、実質的な審査が届出後に開始されるとなれば、届出時点で組織的な意思決定を行うに足るだけの社内や当事者間の調整が進まない場合もあり得る。事前相談における調整・協議のプロセスを通じて、当事会社が企業結合計画の詳細を詰めるために必要な相談を行うことができるよう、公取委の事前相談制度の運用に配慮を求めたい。

  3. 事前相談の任意性の確認
    あくまで、事前相談は任意の仕組みであり、案件によっては企業としては事前相談を行わずに届け出るということはあり得る。事前相談を経ないで届出をした場合、あるいは事前相談を打ち切って届出をした場合に、そのことを理由に当該案件を不利に取り扱うような運用があってはならない。

(2) 正式届出

  1. 事前相談制度との連携
    事前相談段階での当事会社と公取委との間の調整や協議の結果を十分に生かし、円滑かつ迅速に届出後の審査を行うために、事前相談を経て届出た場合には、事前相談での相談・調整結果を適切に承継・連携すべきである。

  2. 届出書類の見直しと届出の円滑な受理
    会社としての意思決定を証する書類の在り方など届出の際に必要とされる書類の種類や内容について見直す必要がある。また、届出段階においては、届出フォーマットとして届出に要する資料を明確に示すとともに、当該フォーマットを形式的に具備している場合には、遅滞なく届出を受理し、速やかに予備審査(届出受理後、報告等要請までの30日間)を開始すべきである。

  3. 届出書類の簡素化
    届出基準を満たしていたとしても、独禁法上問題となる惧れが非常に低い企業結合案件の審査に必要以上に労力と時間をかけることは、届出側及び審査側に多大な損失となる。EUが一定の条件を満たす企業結合案件については、簡易形式(Short Form)による届出を認めていることなども参考に、簡易な届出方式を検討することは審査手続全般の効率性を高める上でも意義があると考えられる。#2

  4. 当事会社に対する説明
    予備審査及び詳細審査(報告等要請後の審査)の各段階においては、事業者からの求めに応じて、審査の具体的なスケジュール、進捗状況、公取委が関心を持っている調査・検討事項などについて説明することが必須である。

  5. 迅速な回答
    予備審査開始後30日を経るまでもなく独禁法上問題のないことが明らかな案件については、できるだけ速やかに問題ない旨を規則等法令に基づく文書で回答し、迅速に企業結合を進めることができるようにすべきである。

  6. 審査手続の長期化の防止
    届出後の審査において、現在、事前相談段階で行われているような無限定の資料請求等による審査の長期化が繰り返されてはならない。最初の報告等要請で求められた資料が全部提出された時点で90日間の詳細審査期間を開始することとし、事業者側に資料等を請求する際には、その資料が必要となる理由について規則等法令に基づく文書で具体的に説明すべきである。

  7. 当事者に対する反論機会の保障
    詳細審査を踏まえ、事前通知などの判断を下そうと考える際には、公取委は当事会社の主張と異なる事実認定や判断を行おうとしている点やその根拠について説明するとともに、当事会社に反論や反証をする機会を与える必要がある。また、詳細審査の結果については、事実認定や判断根拠について、具体的に当事会社に対し、規則等法令に基づく文書で示すべきである。

  8. 審査結果公表による予見可能性向上
    企業結合に関する予見可能性を高める観点から、当事会社の機密に配慮しつつ、詳細審査の結果を公表することは意義があると考えられる。

  9. 当局による判断の組織的統一
    担当官ごとに対応や判断のばらつきをなくすということも大きな課題である。独禁法上の判断を示す場合は当然のこととして、審査過程における当事会社に対する質問や資料請求など一定の判断が必要な事柄についても、組織的に情報連携や確認を行う努力が必要である。
    審査における専門性と迅速性を向上させる見地からは、質量ともにスタッフを拡充することや業務分担の工夫、個別の業界についての専門性を備えた他省庁との人的交流なども含めて検討していくべきである。また、当該企業結合案件に関連する業界などの情報について、所管省庁などとも連携して必要な情報を円滑に入手し活用できる仕組みを構築すべきである。
    正式届出は法律に基づく手続であるが、上記の見直しを平成22年度中に実現するため、可能なものから早急に措置が取られることを求めるとともに、その実効性について、経済界としてつぶさにフォローしてまいりたい。その結果によっては、さらなる抜本的な審査制度の改正も検討する必要がある。

(3) 審査基準

  1. 結合関係審査の合理化
    審査を迅速に行うためには、たとえば、株式所有審査において「結合関係の有無」の審査を先行し、結合関係が無い旨の結論が得られた場合には競争制限性に関する審査を不要とすべきである。
    その観点からは、企業結合の範囲を実質支配基準に改めることも必要である。現行「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針(以下、ガイドライン)」では、企業結合とみなす範囲として、たとえば議決権が20%を超え、かつ単独で持株比率が第1位となる場合などを挙げているが、欧米諸外国に比べても範囲が広すぎる。持分法適用会社レベルのグループ企業から機密性を保持しながら十分な情報を獲得することは、その必要性が乏しいにもかかわらず、実務上の負担が大きい。欧米並みに、50%超の出資など実質的に支配している場合に限定すべきである。

  2. 経済実態を踏まえた審査の必要性
    当該企業結合がもたらす経済効率性の向上、たとえば、より安価であるとか性能の優れた商品・サービスの供給が可能となるなど経済に与える好影響について、これまで以上に十分に勘案した判断を行うべきである。
    商品・サービス市場の画定の際には、他市場からの参入可能性についてより柔軟に考えるべきである。大規模設備投資をせずに一定の設備改良等のみで参入できる隣接商品市場や品質の程度に多少の違いがあっても同じ目的で用いることができる相互に代替可能な他素材市場についても同一市場と見るなど、競合商品をより広く捉えるべきである。
    グローバルな競争を踏まえた審査を行うという観点からは、地理的市場についても、グローバルな競争にさらされている商品については当事者から競争実態について十分に聞き取ったうえで、国内シェアに拘泥せずに判断すべきである。#3

  3. 業績不振状況への配慮と破綻認定の改善
    現実に破綻してからでは企業結合の意義は乏しいことから、救済統合や破綻事業の譲受をできるだけ早いタイミングで実現するために、たとえば、結合対象事業が5期連続経常赤字又は債務超過に陥っている場合など、ガイドラインの改正により、審査にあたって業績不振等の状況を十分に勘案するとともに、破綻認定を柔軟に行うべきである。加えて、産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法の改正により、事業再構築計画等の認定を受けた企業結合については、公取委がその認定を尊重することとすべきである。

以上

  1. たとえば、EUでは、厳格に機密性が保持された事前相談段階で、当該企業結合案件がEuropean Commissionの管轄になるかどうか(届出対象であるか)という点や提出資料の範囲のみならず、審査において問題となりうる重要な論点や生じうる競争法上の懸念などについても示唆する、ということがベストプラクティス告示で示されている。またそういった準備段階を踏むことによって、届出後に資料が不完全・不備であるという状況を避けることができ、それは当事者と当局の双方にとって利益がある、としている。
  2. EUがShort Formによる届出を認めている企業結合案件としては、以下のいずれかを満たす場合が列挙されている。
    1. (1) 域内売上高及び移転資産が1億ユーロ未満、
    2. (2) 当事会社同士が商品市場及び地理的市場において水平的競争関係がなく、あるいは垂直的取引関係にない場合、
    3. (3) 当該企業結合の結果、水平的競争関係にある市場占有率が合計で15%未満である場合、及び/又は企業結合にかかる当事者のうち一つあるいは合計で垂直取引関係にあるいずれの市場でも市場占有率が25%を超えない場合、
    4. (4) 共同のコントロールから単独のコントロールに移行する場合
  3. たとえば、ある商品について海外企業の国内シェアが低い場合であっても、国際市場における競争を通じて国内価格は国際市況に収斂していくといったことも視野に入れる必要がある。

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