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  4. 番号制度に関するシンポジウム 「豊かな国民生活の実現に向けて」を開催

Policy(提言・報告書)  科学技術、情報通信、知財政策 番号制度に関するシンポジウム
「豊かな国民生活の実現に向けて」を開催

日本経団連は、2010年12月15日(水)、番号制度に関するシンポジウムを開催、
企業トップをはじめとする企業関係者、政府や地方自治体関係者など幅広い
分野から約500名が参加した。当日の次第、資料、概要は、以下のとおり。

日時 2010年12月15日(水)午後1時30分~4時45分
場所 経団連会館 2階 経団連ホール
主催 日本経済団体連合会
共催 経済広報センター、21世紀政策研究所
後援 日本商工会議所、経済同友会、在日米国商工会議所、
内閣官房IT戦略本部、総務省、経済産業省
プログラム
1.主催者挨拶
渡辺 捷昭 日本経団連副会長(トヨタ自動車副会長)
2.来賓挨拶
峰崎 直樹 内閣官房参与
3.基調講演
「豊かな国民生活の基盤としての番号制度構築に向けて」
内田 恒二 日本経団連評議員会副議長・電子行政推進委員長(キヤノン社長)
4.番号制度活用イメージのデモンストレーション
5.講演
「海外における番号制度の不安解消に向けた取組み」
安達 和夫 EABuS(東アジア国際ビジネス支援センター)事務局長
6.パネルディスカッション
「番号制度をいかに国民生活に役立てるか」
〔パネリスト〕
  • 和田 隆志  内閣府大臣政務官/衆議院議員
  • 平井 卓也  自民党IT戦略特別委員会委員長/衆議院議員
  • 井堀 幹夫  市川市情報政策監(当時)
  • 佐々木かをり  イー・ウーマン社長
  • 佐藤 政行  セブン&アイ・ホールディングス執行役員
〔モデレーター〕
  • 遠藤 紘一  日本経団連電子行政推進委員会電子行政推進部会長
    (リコージャパン会長)
7.メッセージ
「私たちは、番号制度の導入を支持します。」
8.閉会
会場風景

主催者挨拶

渡辺 捷昭 日本経団連副会長(トヨタ自動車副会長) 渡辺副会長

わが国の経済は、未だ自律的な回復基調に乗ることができず、国民の間にも、社会保障制度をはじめとして、将来に対する不安が蔓延し、国全体に閉塞感が広がったままとなっている。

経団連としては、民間の活力発揮を軸とした安定的な成長を一日も早く実現するよう、政府の成長戦略の早期実現、法人税の軽減、TPPの推進などを強く求めているところである。

このような中、わが国が抱える極めて重要な課題の一つとして税・財政・社会保障制度の一体的な改革がある。この問題に対して、抜本的な改革の道筋をつけない限り、国の安定的運営は困難と言っても過言ではない。そして、この改革を遂行するために不可欠となるツールが、本日のテーマである、番号制度である。すなわち、番号制度の早期導入は、今後の日本の改革の方向を示す重要な試金石となる、と考えている。

後ほど、種々、議論があると思うが、番号制度の具体的な活用例として、まず、年金記録のような問題を二度と起こさないよう、国民の「安心」を確保するという点がある。また、税制と社会保障制度を融合することにより、国民一人一人に合致した、きめの細かい制度設計も可能となる。このように、国民が「安心」を実感できることは、現在の閉塞感を取り除くために、大変重要な課題である。

しかし、共通基盤としての番号制度の活用は、これだけに留まるものではない。安心の次に、国民が求めるものは「便利さ、快適さ」であると思う。

私は、長らく、IT戦略本部で、電子行政などの議論に参画してきた。例えば、引越の際の転出、転入、各種の住所変更の手続きが、一度の届出で完了できれば良いのに、というニーズはこれまで何度も提案されてきた。また、結婚から、妊娠、出産、育児、教育に至る、子どもに関わる諸手続きも、担当の省庁・自治体ごとにバラバラで、利用者である国民に大変な負担をかけているのが実態である。このような手続きも、番号制度の利用による情報連携で、国民視点で業務改革が図られれば、大幅に合理化できる。国民が「便利」を肌で感ずることができれば、必ずや、行政に対する「信頼」も向上するであろう。

また、国民にとって利便性・信頼性の高い行政とは、「透明」、「効率的」な政府の構築でもある。国・地方を通じた情報連携で、業務の重複や無駄が排除され、国民や住民のニーズの高い分野への、資源の有効活用が期待される。

これら、「安心」、「便利」、「効率」、「透明」などを実現することに加え、新しい価値やサービスの「創造」も期待される。例えば、先ほどの、引越や育児に係る行政上の手続きに、民間の電気、ガス、銀行などの住所変更サービスを加えたり、出産や育児に必要な民間のサービスを付加して、国民がより大きな便利さを感ずる新サービスを提供することも可能であろう。さらに、医療や教育などにおいて、新たな産業が創出されることも期待される。

一方、国民の間に、番号制度の導入に伴うプライバシーの問題などへの懸念が存在することも忘れてはならない。利用状況を監視する第三者機関の設置など、法制面・システム面の双方からプライバシー保護に対して万全の配慮をしていくことは番号制度導入の大前提となる。その上で、メリット、デメリットを幅広く議論し、国民の理解を深めていくことこそが、結局は、着実な導入に向けた近道であると考える。

番号制度の導入は、これまでも、何度か、政府で検討の俎上に上がっては、消えてきた。民主党政権は、昨年の政権交代のマニフェストに、番号制度の導入を掲げ、本年に入り、国家戦略室や社会保障改革検討本部などで具体的に展開していただいている。先般、中間整理が公表され、来年の秋以降、可能な限り早期に法案提出を目指すこととされている。また、政府IT戦略本部からは、本年6月に、国民ID制度を2013年度に導入する「工程表」を示している。

経団連としては、政府の積極的な検討を高く評価するとともに、着実な実現に向けた協力を惜しまない所存である。逆に、この機会を逃すならば、日本は、世界各国から取り残された、ICT後進国になりかねない。

これまで、番号制度が実現しなかった理由はどこにあったのか、それを克服して早期実現を図るためには、何が必要なのかを含め、本日、ご出席の皆様の積極的な議論を期待する。

本日のシンポジウムが、豊かな国民生活の基盤として、番号制度が一日も早く実現するための、一助となることを祈念して、私からの、ご挨拶とさせていただきたい。

来賓挨拶

峰崎 直樹 内閣官房参与 峰崎内閣官房参与

社会保障改革検討本部の事務局長を務めている。今日は、会場がいっぱいになるような皆様方にお集まりいただき、このような盛大なシンポジウムを開かれることに対して、まず皆さんに感謝申し上げたい。12月5日の集会(注:わたしたち生活者のための「共通番号」推進協議会発足シンポジウム)も、税・社会保障を中心とした番号制度のシンポジウムであり、菅総理自ら出席し、国会が終わった直後だったこともあり、にこやかな顔で、何としてもこの番号制度を実現させたいという決意を語った。

1980年代にグリーンカードが失敗した。その轍を踏まないようにしたい。あの時に失敗したのは、何よりも政治の意志がしっかりと確立されていなかったからではないかと思う。今回は、番号制度を導入するための体制をしっかり組んでいこうということで、今、社会保障改革検討本部の下で、6月下旬までに社会保障・税関係のとりまとめ、さらには、番号制度についても法律化に向けての大綱を作り上げていくということを12月14日に、閣議決定した。不退転の決意で進めていきたい。

社会保障・税に関わる番号制度に関する実務検討会の中間整理概要をお手元に配っている。既に案がとれている。一番大きい問題は、なぜ番号制度を導入するのか、導入の趣旨である。なぜ入れるのか、ここをしっかり意志統一していかないといけない。徴税のために入れるのではないかとか、プライバシーなどいろんな問題を危惧している方もまだいる。何のために入れるのか、国民にしっかり訴えていきたい。この番号が入ることによってどんな社会を目指すのか、より公平・公正な社会、特にきめ細かに的確に社会保障が行われる社会、年金問題に見られるような行政に過誤や無駄のない社会、利便性の高い社会、透明性の高い社会を実現するために、現在はややまだ抽象的であるが、この点を分かりやすく、具体的に国民の皆さんに示していきたい。

番号を使うとどんな効果があるのかについても、分かりやすい言葉で説明し、地域に出向いてタウンミーティング等を繰り返していきたい。番号制度については、2月から、論議を進めてきて、簡略化した形ではあるが、パブリックコメントにかけるまで整理をした。その主な論点について、パブリックコメントをかけた結果をここに記載している。番号の利用範囲については、A案はドイツのように税務分野のみ。B-1案は、税務プラス社会保障の年金など主として現金給付のみ、B-2案は、それに医療や介護など社会保障の現物サービスが加わったもので、アメリカを中心とした国で採用されている制度である。C案は、幅広い行政分野での利用であり、主として北欧の国々で導入されている。パブリックコメントにかけたところ、一番多かったのはC案であった。国民の皆さんは、社会保障や税の分野だけでなく、入れる以上は、国民生活が本当に豊かになるように、民間の利用も広まるようにという声が強かった。しかし、我々としては、幅広い分野での活用を視野に入れつつ、まずは税・社会保障分野にとっかかりとしては入っていきたいと整理した。

番号として何を使うのかについても、パブリックコメントをかけた。一番多かったのは、住基ネットを活用した新たな番号であった。基礎年金番号は、重複があるし、18歳未満はまだ番号に入っていない。また住民票コードは、入れる際にいろいろな経過があった。こうしたことを踏まえ、一番よいのは住基ネットを活用した新たな番号だろうということで方向を打ち出した。

管理方法は、データベースと番号に分けて、それぞれ一元管理方式と分散管理方式というやり方ある。データベースは、分散管理がよいだろうと思う。番号については、プライバシー保護やコストをかんがみて、一元管理すべきことと分散管理していくべきことと、番号室の中で分類していこうとしている。一元化をすることは、一見するとやりやすいが、一度漏れてしまうと問題が大きくなる。ただし、分散型にするとかなりコストがかかる。

付番機関は、新しい問題として出てきた。我々は、野党時代から、付番機関は歳入庁に置くべきではないかと言ってきた。国税庁とかつての社会保険庁を合体して、歳入庁を設置すべきと考えている。

個人情報保護の徹底は、大変重要な問題で、EU諸国では既に基準が出来上がっている。日本は、個人情報保護では遅れている国だと言われている。この点をしっかりと確立するためにこれから努力していかなくてはならない。そのために、第一に自己情報へのアクセス記録を確認できるようにしなければならない。これが自己情報コントロール権といわれているものであり、大変重視している。さらに、これを監視する、個人情報保護のための第三者機関、おそらく三条機関という形になるのではないかと思うが、を設置しなくてはならないのではないか。さらに、「偽造」「なりすまし」の防止、目的外利用の防止、プライバシーに対する影響評価の実現などに努力していきたい。最低限、自己情報へのアクセス記録の確認、第三者機関の設置、目的外利用の防止、関係法令の罰則強化について実務的な検討をしていきたい。

パブリックコメントになかった項目として、地方公共団体との連携強化を加えた。地方三団体、日本年金機構、医療保険者等の実情を踏まえて検討しなくてはいけないと考えている。

制度導入にかかる費用、期間について、パブコメにかける前の段階では、簡略化して、おおよその目安を示したが、これから精密な議論を進めていかなくてはいけない。準備期間としては、少なくとも3年から4年の期間が必要になるのではないか。ドイツが納税者番号を2年前に導入した。その時に、3年から4年かかったと言われている。税だけでもそれだけの時間がかかる。社会保障、税、さらに民間における市民サービスへの適用まで考えると、さらに時間がかかるのではないか。相当なピッチで急いでいくが、やるべき課題は相当大きい。スケールの大きい作業になっていくということで、社会保障改革検討本部の下で番号制度を専門に扱う部屋をつくり、作業にとりかかっている。

スケジュールは、2011年の6月末までに通常国会が行われるが、6月末頃までに「社会保障・税番号大綱(仮称)」を作り上げて、法制化し、早ければ2011年秋の臨時国会に提出できるようにしていきたい。これが恐らく最速のスケジュールになると思う。

番号制度について、とりあえず中間整理をとりまとめた。1月に基本方針を策定し、6月に向けて作業する。本格的に作業をはじめ、政府が本気だということになると、国民から様々な意見が出てくると思う。その意味で、今日のような運動をはじめ、できるだけたくさんの方々があらゆる地域で集まっていただき、番号制度に対する理解を深めていただきたいと考えている。その上で、番号制度が国民の理解の下で法制化されることになると思う。

引き続き、パネルディスカッションで和田政務官が出席して中身について説明をすると思う。われわれ政府一丸となって番号制度導入のために全力を尽くしていきたい。本日のシンポジウムが盛会となり、大きな成果を上げられることを祈念して私の挨拶としたい。

基調講演
「豊かな国民生活の基盤としての番号制度構築に向けて」

内田 恒二 日本経団連評議員会副議長・電子行政推進委員長(キヤノン社長) 内田委員長

経団連では、先月16日に、番号制度の早期導入を求める旨の提言を取りまとめ、公表した。

提言の中では、経団連としても、番号制度の導入に向けた世論喚起を行うことを明記している。本日のシンポジウムも、その一環である。

私からは、今回の提言の概要について、説明したい。

「番号制度の導入」というと、それ自体が目的であるかのように、誤解が生ずるかも知れないが、番号は、あくまで、情報処理を行うためのツールである、という点を、まず確認しておきたい。

コンピュータで個人を特定するために、番号は必須の要素である。特に、漢字を使う日本では、姓名だけでは個人の特定は困難であることから、既に様々なサービスでも使われている。

これを国の制度として導入する目的は、本日のシンポジウムの副題でもある、「豊かな国民生活」を創るためである。人々が、携帯電話やインターネット、電子メールを使うように、多くの国民が望むサービスを実現するためのツールとして、どうしても「番号制度」が必要である。

企業が経営改革を進める場合も、全く同じである。企業は、常に、お客様にとって満足度の高い製品、サービスの提供を目的としている訳だが、そのためには、製品の企画から、開発、製造、販売、サービスに至るまで、一気通貫した情報の連携、迅速化、無駄の排除、見える化、セキュリティの強化などが必要となる。そしてその実現のためには、必然的に、共通のIT基盤や、商品コードや取引先コード、個人識別コードの整備が不可欠となる。

これを電子行政に置き換えるならば、政策立案の段階から、制度化、国民一人一人への展開に至るまでには、多くの省庁、自治体、関係者が情報連携を図りながら進めていくことが必要となる。そして、顧客視点、すなわち国民視点に立つと、行政サービスを受けるための手間を出来る限り軽減するワンストップ化を図ることが必要となるし、国民がわざわざ申請するまでもなく、行政側から能動的に提供する「プッシュ型」のサービス提供なども必要となる。こうした、国民本位の行政を実現するためには、必然的に国のIT基盤の強化や番号制度の整備が不可欠となってくると、考えている。

ここで、重要なことは、番号制や電子化を進める際には、業務の流れを抜本的に見直し、業務改革、BPRを図りながら進めなくてはならないという点である。非効率な業務の流れを、そのまま電子化しても、非効率なシステムが出来上がるだけである。目指すべき目的、すなわち、国民が豊かさを実感できる業務の流れは何か、という視点を常に意識し続けることが最も重要であると考えている。

今回の経団連の提言では、番号制度の具体的な利用シーンを掲げているので、いくつかを紹介したい。

まず、政府でも検討が進められているが、社会保障制度と税制を融合して、真に支援を必要としている方に確実に政策を展開する方策として、番号制度を活用することが考えられる。いわゆる、「給付付き税額控除制度」と呼ばれる制度である。

現状では、一人一人の所得の把握が不十分であり、また、税制と社会保障制度がバラバラに政策運営されているなどの問題がある。これを、番号制度によって繋げ、一つの融合的な政策として展開していこうというものである。既に、米国をはじめ、番号制度が導入されている海外諸国では導入済みの制度である。

次は、企業の立場からも、強く改善を求めたい利用シーンである。企業が行っている従業員の年末調整の流れでは、従業員から、毎年、様々な情報を集めることを皮切りに、企業、税務署、自治体との間で、紙媒体と電子媒体でのやり取りと入力作業が、何度も続けられている。これでは、企業であれば、最も恐れる、作業ミスが生ずる可能性も極めて大きい。また、そのための時間やコストも膨大なものになってしまう。統一された番号制度によって、情報のやり取りをシームレスにすれば、企業のみならず、税務署でも、自治体でも大幅な業務の合理化が可能になってくる。ちなみに、この年末調整だけでも、年間1700億円以上の改善効果が生まれるという試算もある。

よく、番号制度や電子行政で、どの位の経済効果があるのか、という問いがあるが、今回の経団連提言では、これまでの、政府の会合で使われた資料や、民間の研究機関の試算を基に、合計で、年間3兆円の効果を目指すことが可能であると、示している。

無論、この3兆円が、すぐに、歳出の削減につながるということではない。企業の業務改革と同様、重複業務の削減や、入力業務といった間接業務の合理化を通じて生じた人材や経費は、国民のニーズが高い分野へと、有効に活用していくという視点が重要である。

次に、番号制度を活用して、本人の過去の健康診断や診療データ、投薬履歴などを、次回以降の診療や、緊急時に役立てるという活用例を示している。この構想は、政府のIT戦略本部から、本年5月に公表された「新IT戦略」のなかにおいても、「どこでもMY病院」という構想で、2013年からサービス開始することが示されている。

もちろん、医療情報の取り扱いについては、最新の注意を払う必要があるため、厳格なセキュリティや、本人確認の方法など、解決すべき課題も数多くある。

最後に、個人の情報確認制度について説明したい。出生のときから、入学、転居、パスポートや運転免許の取得、結婚、納税など、一体、どれだけの情報を、行政に対して提出しているのだろうか。そして、一旦提出した情報が、どこでどのように管理され、誰が使っているのか、情報に誤りが無いかどうか、不安に思われたことは無いだろうか。番号制度を整備するにあたり、このような不安を解消するよう、本人が自分自身の情報を、いつでも管理、確認できる制度にすべきである。身近な例では、自分が納付した年金の状況や、住民登録、戸籍の情報などは、いつでも、どこでも簡単に確認することができるようにし、仮に誤りがあれば、直ちに、適切な修正を要求できるようにすべきである。

具体的に考えると、例えば、現住所の情報などは、現行でも、住基ネットに最新情報が登録されているため、免許証も、その他の届出等も、この基本情報へ連携させれば、誤りも無いし、住民の手間も大幅に削減されるはずである。国や自治体は、このような資源を、もっと本気で、有効に活用すべきである。

また、国民に関する情報に、どの行政機関の誰が、いつアクセスしたか、についても確認できるようにすることで、不正な使用を防ぐようにすべきである。

さらに、アクセス状況を監視するために、第三者機関を設置し、苦情や相談に対応する仕組みを検討すべきである。こうして、行政による情報管理の透明性を高めることが、番号制度の導入のために、とても重要なことである。

最後に、課題や留意点について申し上げたい。まず、何といっても、番号制度の利用者である、国民一人一人に、制度の必要性、あるいはプライバシー保護に関する懸念への対応策などを、丁寧にわかりやすく説明し、理解を深めていくことが、重要である。無論、反対論もあると思うが、それを上回るベネフィットがある、我々のためだけでなく、次世代の日本のために必要なインフラである、という点を理解いただく必要がある。

コスト面も同様である。6月に国家戦略室から示された資料では、税と社会保障に限定した番号でも、コストは数千億円かかるとの試算が示されている。これを上回る、効率化や国民利便性が伴うという点を、わかりやすく説明していく必要がある。

時間的な問題も視野に入れなくてはならない。同じく国家戦略室から、税務分野に限定して番号制度を導入したとしても、4~5年の期間が必要との見込みが示されている。決断を遅らせれば遅らせるほど、わが国は、ICT後進国になりかねない、という点を念頭に置く必要がある。

繰り返しになるが、税と社会保障は一体で進めるべきであり、番号制度の導入は、その実現のための必須条件であると考えている。

そして、制度の導入を実践する、推進体制にも万全の体制が必要である。税は財務省、社会保障は厚労省、自治体に関われば総務省、といった形ではだめである。まさに、企業が全社レベルのシステム改革を行うと同様に、トップ直属のCIOを任命して、全体最適や将来の発展性を考えながら、強いリーダーシップで最後まで、プロジェクトを完遂するチームが必要となる。

国連の電子政府ランキングで、一位になった韓国では、国が率先してICTの利活用を行い、情報通信分野を国の戦略的産業として成長させてきている。さらに、インドでは11億人の国民に生体認証でIDを付与する動きがあると聞いている。

わが国が、世界の潮流に乗り遅れることの無いよう、1日も早い、番号制度の導入に向けて、引き続き、経団連としても協力していくことをお伝えし、私からの説明を終わらせたい。

番号制度活用イメージのデモンストレーション

富士通から、「近未来の安心で便利な暮らし、住民起点の新たな公共サービス」と題して、次の三つの、番号制度が実現された将来の具体的な利用シーンが紹介された。

  • 教材費の支払い手続き
    6歳のお子様の入学に際して必要となる教材のお知らせ、子ども手当てからの教材費や保育園料の自動引き落としでの利用シーン
  • 生活設計シミュレーション
    ある家族の住宅購入検討に際して、家族のライフイベントや将来の年金給付見込み額を考慮した生涯収支をシミュレーションする利用シーンと、銀行で住宅ローンの手続きを一括して行う利用シーン
  • 環境対策における住民投票(エコアクションポイント)
    エコアクションポイントに応じて、環境対策について住民が投票を行い、自治体がそれを活用する利用シーン

講演
「海外における番号制度の不安解消に向けた取組み」

安達 和夫 EABuS(東アジア国際ビジネス支援センター)事務局長 安達事務局長

番号制度には、大きなポテンシャルがある反面、それゆえに不安があり、それに応えていかなくていけない。不安解消に向けた取り組みを海外の事例を中心に話したい。

番号制度に対する不安や批判には、「国が個人を恣意的に管理しようとしているのではないか」「いつ、どこで、誰が自分の情報を見ているか分からない」「自分の情報がガラス貼りになってしまう」「そもそも、人間様を番号で管理するとはナニゴトだ」というような感情的な意見がある。

こういった意見を大きくまとめると四つくらいに分かれる。導入の意図が見えない、何が便利になるのか分からない、プライバシーが漏れるのではないか、個人情報が悪用されるのではないか、などである。

2009年にEABuSで日韓の国民の意識調査をした。その結果、韓国人は、日本人以上にプライバシー意識が高いことが分かった。しかし、その韓国で、番号制度が社会の中で定着し、活用されている。番号制度を定着させるためには、国民の疑問、不安の声に応えられるようなビジョン、仕組みを構築する必要がある。

番号制度導入に向けた課題を三つ挙げている。

一点目が、利活用場面における合意形成を図ることである。海外主要国では、紙文化からデジタル文化へ、申請主義からプッシュ型行政へ、大きなパラダイムシフトが起こっている。デジタルネットワーク社会に向けたビジョンの明確化が合意形成に向けた課題になると思う。

二点目は、法制度や運用ポリシーなどの制度面の整備である。電子政府法、国民番号法などいろいろな法律の整備が必要になる。活用場面を想定した適正なセキュリティポリシーの構築、プライバシー保護に向けた体制の構築が必要になる。例えばヨーロッパでは、第三者機関としてデータ保護委員会を設置している国が多い。こうしたデータ保護委員会等によるプライバシー保護に向けた活動は重要である。

最後に、制度を実現するための技術的基盤の構築がある。このためには、(1)国民番号を証明するためのクレデンシャルの導入、(2)適正なアクセスのための情報連携基盤の構築、(3)個人情報アクセス監視機能、が必要である。

<国民番号を証明するためのクレデンシャルの必要性>

韓国では、生まれた時点で13ケタの住民登録番号が全ての国民に与えられ、税、金融、行政等様々な分野で本人確認手段として広く活用されている。韓国では、住民登録番号を知っているから本人であるという使われ方をしてきた。しかし、ネット等から、情報漏えいが起こった。住民登録番号は生涯不変のため、一度この番号が盗まれると一生被害を受ける可能性があるということで大問題になった。そこで、韓国では、i-PINという番号が発行されることになった。i-PINは、変更したり中止することも可能であり、利用時点の連絡がEメールを通じて本人に届く。住民登録番号はあくまでも番号であるが、i-PINが本人確認のためのクレデンシャルの役割を持っている。

ベルギー、エストニアでは、本人を証明するクレデンシャルとして国民IDカードが使われている。国民IDカードを提示して認証を受けないと、本人であることを証明できない。同様の仕組みが、デンマークやスウェーデンでも使われている。

オーストリアでは、セクトラルモデルが有名である。オーストリアの国民番号は、ZMR-Zahlという全員についている番号だが、これを電子的認証用途に使うには、第三者機関であるデータ保護委員会にソースPINの発行を請求する。データ保護委員会は、本人の持つICカード上にソースPINを書きこみ、これがクレデンシャルとして使われる。

番号は、氏名と同じ公知の情報として捉えるべきである。例えば、安達という名前と、私に振られた1234という番号は共に私を一意に確定するための公知のコードとして考えるべきである。これらは、あくまで名前であり、識別子に過ぎない。この識別子を持つものが本人かどうかを確認することは、クレデンシャルで行う。日本では、番号とIDが一緒に議論されることが多いが、番号は識別子で、IDは本人を証明するものと用途が異なっており、区別して考えるべきものである。それらが車の両輪のようにお互いに補完し合って、確実な運用が可能になると考える。これが、「番号が盗用されて、悪用されるのではないか」という懸念に対する一つの回答になると思う。

<適正なアクセスのための基盤>

番号制度の導入の狙いは、番号を識別子にすることによって、いろいろな情報がお互いに連携でき、それによってプッシュ型の行政サービスなど様々なサービスが可能になることである。一方で、そういう情報連携が適正に行われていることが保証されないと、個人情報が恣意的に管理されるのではないかという不安にもつながる懸念がある。情報連携基盤は、適正なアクセスが保証される基盤である。アクセス制限の監視・確認、情報連携ポリシーに基づくアクセスコントロール、アクセス状況のモニタリング、ロギング機能など、さまざまな機能が情報連携基盤にはある。

韓国の事例では、行政情報共同利用センターが、情報連携基盤の役割を持っている。たとえば、銀行の窓口では、新しく口座を開設するために、住民票の情報が必要になる。データ使用機関である銀行の窓口は、共同利用センターに必要な情報を請求する。その時に、共同利用センターが、認証、権限の確認をする。受け渡しして良い情報かの適格性を情報共同利用センターが判断し、情報提供機関から情報共同利用センター経由で使用機関に情報を受け渡す。情報提供機関の上に、政府情報共有委員会があるが、これが第三者的な機関であり、アクセスのためのポリシーを決めている。韓国では、行政に申請・届出をする際の証明書類や添付資料を削減するためにこのような仕組みを導入した。その結果、4600種類の添付資料を廃止し、年間2億9000万件の行政文書発行が不要になった。

エストニアには、X-ROADという情報連携基盤がある。公共セクターや民間セクターなど、さまざまなセクターがX-ROADに接続できる。接続する機関は、X-ROADサーバと呼ばれる仕組みを備える必要がある。セキュリティサーバやアダプターサーバなどの機能でデータコントロールやセキュリティコントロールを行い、全ての送出メッセージはタイムスタンプを付して、暗号化されロギングされる。いつ誰がどういう形で情報提供したのかを後から解析することができる。Xロードセンターは、全体管理、モニタリング集中管理を行っている。エストニアでは、さまざまなサービスを行っている。eIDカードが国民に配布され、これ1枚でさまざまな利用範囲で活用されている。たとえば、検札員が切符を確認する場合、ポータブル端末にeIDカードを挿入すると、購入した切符の内容が表示され確認ができる。警察官がスピード違反で切符を切る場合にも使われている。業務に関係のない情報はブロックされるので、それ以外の情報が漏れることはない。

ベルギーでは、クロスロードバンク(CBSS)がある。クロスロードバンクを経由して、バックオフィス連携を行っている。約3000機関とのゲートウェイを持っており、210種類の添付書類や50の申請書類を廃止した。中でも特徴的なのは、雇用者、つまり会社の社内人事システムとのシームレスな連携が可能になっていることである。企業のシステムとフレキシブルに接続できるため、たとえば社会保障分野の申請手続きを簡単に行うことができる。個人情報アクセス管理は、個人情報が、どういう状況で、どういう条件で、どういう手段でアクセスできるのかを第三者委員会であるプライバシー委員会が決める。注目すべき点は、こうして決められたポリシーが全て公表され、国民が知ることができる点である。このため、非常にガラス張りである。決定されたポリシーは、アプリケーション登録簿や利用可能データ登録簿等に収納され、トランザクションが発生するたびにポリシーとデータアクセスの妥当性が評価される。アクセスが妥当と判断されたトランザクションは必要なデータを管理しているアプリケーションへ要求し、受け渡される。また、全てのアクセス情報は記録され、本人の開示請求に応えられる仕組みになっている。さらに、記録の分析・評価が行われ、ポリシーの改定の参考材料としても使われている。

<まとめ>

番号制度は、デジタルネットワーク社会にとって、重要な社会的基盤であることは言うまでもない。それゆえに、ビジョンと利活用場面の明確化と合意形成が重要になる。

国民番号は、あくまでも個人識別子であり、番号を証明するためのクレデンシャルによって本人であることが証明される。番号自体を生で使うことは危険である。

情報の適正なアクセスのためには、アクセス権限の監視・確認などを行うための情報連携基盤の構築が必要である。

独立した信頼できる第三者機関の存在は非常に重要である。ここでアクセスポリシーが決定され、さらにそれを公開することで、開かれたアクセス制御が可能になるという、ベルギーに近い仕組みが必要である。

また、データアクセスが記録され、本人の開示請求に応えるとともに、記録の分析・評価がポリシー改正に反映される仕組みが、安心・安全な運用を行う上で欠かせない要件でもある。

反面、ポリシーが決まり、技術要件が決まっても、問題が絶対に起こらないかと言うと、問題は必ず起こる。例えば、ポリシーに違反した場合など、いろいろなケースがありうる。その場合の危機管理も重要である。危機管理としても必要になるのが第三者機関であり、問題が起きた場合の駆け込み寺にもなり得る。

パネルディスカッション
「番号制度をいかに国民生活に役立てるか」

〔パネリスト〕

  • 和田 隆志 内閣府大臣政務官/衆議院議員【資料】
  • 平井 卓也 自民党IT戦略特別委員会委員長/衆議院議員
  • 井堀 幹夫 市川市情報政策監(当時)
  • 佐々木かをり イー・ウーマン社長
  • 佐藤 政行 セブン&アイ・ホールディングス執行役員

〔モデレーター〕

  • 遠藤 紘一 日本経団連電子行政推進委員会電子行政推進部会長(リコージャパン会長)

和田氏

平井氏

井堀氏

佐々木氏

佐藤氏

遠藤部会長
(遠藤)

渡辺副会長が電子行政に長年関わってきたとおっしゃっていた。私も同じくらいの期間、電子行政に関わってきたが、なかなか進んでおらず辟易している。今日は、「この日から変わったね」と言われるようになってほしいと期待している。
会場から質問をいただいている。今日は、すぐに答えやすい質問にお答えいただきたいと考えている。質問は、番号制度について反対という意見はなかった。どちらかというと、どうやって進めるのかということに対する懸念、アドバイスが多かったと承知している。後ほど時間があれば紹介したい。
本日の模様はネットで公開している。前半では、アクセス数は2万人を超えているそうである。非常に関心が高いということではないか。

1.番号制度は何故必要なのか。今どのような検討状況か。

(井堀)

国民一人一人に番号付けをして、個人を識別できるようにするということは、平均的なサービス提供で済ませないということだと思う。個別の実情に対応したサービスを提供できるように、提供するサービスがその人にとって効果があるのかを評価し、次のサービスに結び付けるために番号制度を活用したい。
そのため番号制度は、税や公的な社会保障サービスの充実・最適化に限らず、国民の幅広い生活を支援するサービスの充実・最適化に役立てることを柱とした制度設計をすべきだ。全ての国民に対する大切なサービスの全体が把握できる仕組みがないと、もし問題が起きても、想定した範囲内であるのか、想定外の重要な問題なのかがわからないので安定した制度にはならない。
三つの必要性について申し上げたい。国民は、個別の実情に応じた、細かく、効果的な社会的なサービスを求めている。サービス利用者が、受けられる適切なサービスを自ら探すのでなく、「私に最も効果的なサービスを提案してほしい」という声に応えられるようにする。それが番号制度の必要性の一つになると思う。そのためには、個別の評価をし、効果を見極めることができる仕組みを持つために番号制度は必要である。
第二は、国民への費用負担は最小限にし、安定したサービスを継続できるようにするために番号制度は必要である。大切なサービスが破綻しないように無理や無駄の無いようにしなければならない。現状は、重複や手作業が多く無駄な作業が発生し、コストがかかっており、一刻も早く改善すべきである。
連携や共同化により標準化を進展させ、社会システムとしてのプラットフォーム基盤を早く整備しなければならない。市川市では、国や自治体など外部の行政機関から年間約293万件の書類を収受している。紙で来るために、誰の書類なのかを特定するために、突合・照合やコンピュータに入力する作業が大変である。その事務的経費は、年間で約5億円である。番号制度を活用すれば5億円は削減に向けて改善できる。また、住民票や印鑑証明書は、連携のない現状では、本人を特定する重要な公的証明書だが、市川市では、年間約47万件を交付しており、年間約3.5億円の事務的経費がかかっている。それだけではなく証明書の交付を受けるために役所の窓口まで出向く国民は、年間約9.4億円の負担となる。これらコスト削減と費用負担のために番号制度の活用は欠かせない。
第三は、国民の生活支援に関わる大切なサービスは、間違いや漏れがないように、正確かつ確実でなければならない。そして、サービスは民間サービスを含めたトータルな社会的サービスとして充実させるために番号制度は必要である。
年金や介護サービスは、民間サービスも充実している。社会全体のサービスの在り方を見据えて、行政サービス(公助)だけでなく民間サービス(自助・共助)の環境整備のためにも番号制度は必要である。

(佐々木)

今日私がここにいる理由を考えると、私個人の意見ではなく、サイトに集まる人たちの意見を伝えることを期待されているのではないかと思うので、そこから話したい。イー・ウーマンという名称のウェブサイトを2000年から運営している。「働く人の円卓会議」という名称で、議長を立て、1週間、4回議論を繰り返している。これまで3千テーマ以上、様々な分野でディスカッションしてきた。掲示板ではないので、投稿された意見をスタッフが読み、多様な視点の提供になる読みやすい意見を5件から10件サイトに掲載し、それを議長が読み、翌日のディスカッションへのナビゲーションをする。投稿と投票を受け付けている。現在は、全ての個人情報を登録している人しか投稿できなくなっており、責任を持った形で投稿していただいている。
2004年から過去4回、番号制度についてディスカッションをしてきた。2004年4月には、「国による背番号制の資産管理、賛成ですか」という聞き方をしたところ、イエスが23%、ノーが77%だった。2005年6月には「納税者番号制度の導入に賛成ですか」という質問をしたところ、イエスが40%、ノーが60%だった。2009年2月に「納税者番号の導入に賛成ですか」と質問したところ、イエスが69%、ノーが31%であった。今年、2週間ほど前に「国民の番号制度導入に賛成ですか」と聞いたところ、イエスが75%、ノーが25%であった。この数年間を見てきても、イエスと答えている人がどんどん増えてきているのが分かる。
必要だという人の意見の中には、「脱税する人がいる以上、国による管理は行われてもよいと思います。個人的には嬉しくないですが、脱税するような人たちを少しでも減らし、きちんとした納税を進めるためであれば許容範囲だと思っています」、「プライバシー考慮を言い訳に、バラバラとずさんな管理をされるよりは、すっきり一元管理して管理コストを減らしてほしいです」、香港の方から、「住民ID番号は、香港にはあります。年金も税金も医療も図書館も金融機関も全て統一されています。そうすることによる税金の引き下げなどの効果も示して導入してほしいです」「今よりも正確に国の収入を把握して、よりよい税負担や年金・福祉制度を構築できるならよい制度だと思います。フリーライダーが割に合わないような制度を構築し、次の世代の負担を軽くすることが必要だと思います」、人事をしている方から「社員一人一人にすでにいろいろな記号や番号が付けられていることに驚きます。これを一元化できれば、どれだけ効率化できるだろうかと思います」という意見や、「そもそも反対を言っている人は、国家のプライバシー侵害を過大に問題視している。所得を捕捉されていない人の既得権益を結果的に擁護することになるので、しっかりと導入してほしい」といった意見が寄せられていることをまず紹介したい。

(佐藤)

私は、セブン&アイ・ホールディングスの中でコンビニエンスストア・セブン-イレブン・ジャパンの情報システムを担当している。小売業の立場から番号制度の重要性を話したい。
お店に対して商品の推奨が行われ、お店から商品が発注され、ベンダーや共同配送センターから商品が運ばれ、お店で陳列されて、初めて販売が可能になる。このために最低限必要なものが、店舗マスター、商品マスター、取引マスターである。マスターは、コードのことである。店コード、商品コード、取引コードがあって初めて情報システムで処理できる。これを順次ブラッシュアップして効率的な業務を行ってきている。つい最近では、2005年に、こういった一連の行為を全てペーパーレスで行えるようにした。仕入れ伝票や帳票もなくなり、全てペーパーレスでサポートできるようになった。
電子行政の推進にあたっても、まったく同じである。個人を特定する番号やコードがなければ、情報システムで処理ができなくなる。手作業では効率性が悪くなり、正確性にも問題が出てくる。国だけでなく自治体でも財政が厳しくなっている。行政の効率化、住民に対するサービスレベルの質の向上には、番号制度の導入は不可欠だと思う。

(和田)

内閣府で政務官をしている。民主党および政府の検討状況について、説明したい。私たちが政権を受け取る時に、国民の皆様の意見を伺い、集計した結果を見て思ったことが、このテーマにひとつある。国民ID制度は、これまでも提唱され、検討されてきた。国民ID制度や番号制度を導入しようと言う時に、国民の皆様に便利に使っていただきたい、と考えてきた。それは間違っていない。しかし、新しく政権を受け取ってから、どうしても皆さまにお願いしたいという要素が出た。今、日本では、10年刻みの各世代で、国と個々人でどれだけの税金や保険料の負担があるのか、どれだけの年金や医療などの給付があるのか、一人一人の国民の皆様に示せていない。これをするには、プライバシーの問題もあることが難点ではあるが、現在、世代を通じて相当な給付と負担のアンバランスが生じていることを、共通の問題意識として持たなくてはいけない。これから先、私たちの社会を受け取って担っていただく若い世代の方々に、自分たちが頑張れば、どれだけの給付が受けられ、どれだけの負担をしなくてはいけないのか、それを分かっていただいたうえで、日本の国内で働こう、利益をあげていこう、それを次の社会に設備投資していこうと思っていただくための要素として番号制度が必要だという問題意識を持った。
そこで、衆議院の総選挙を戦う際の民主党マニフェストに、こうした項目を盛り込んだ。正直言って、確たる像を描き切れていない。そこで、これからどうやって取り組むか、工程表を私たちなりに作った。こういった工程表をつくり、これを世の中に示した上で、皆さまの反応をいただきながら、考えていこうと思うに至った。
今年の2月に、政府に社会保障・税に関わる番号制度に関する検討会を立ち上げた。当時は菅副総理がトップだった。半年間検討し、6月に中間とりまとめとして、番号制度に関する選択肢を示した。これは、グラフで見るとおり、情報管理のコストを概念的に示したものである。つまり、お金をどれだけかけるかによって、どれだけのシステムが構築できるかを示した。7月以降は、これらに対する意見募集をしながら、当時、財務副大臣をしておられた峰崎先生に参与になっていただき、事務局長としてとりまとめにあたっていただいた。12月3日に、そうしたことを整理し、中間整理としてとりまとめた。これから先、社会保障と税制について、個々人の国民の皆様方の受給と負担の全体像を示す必要があると考えている。そこがまず必要な土台である。いろいろな分野で利用していただくことを付加価値としてつけていくかどうかを、ABC案として取りまとめていった。今現在の結論としては、一番広い分野で使えるようなC案に辿り着くことを視野に置くが、まずもって社会保障と税分野からとりかかっていこうということにした。使う番号については、現存する住基ネットを活用した番号を付すことを考えている。管理する役所は、我々が掲げた歳入庁でよいかどうか検討している。しかし、これは、すぐにできるものではないため、既存省庁でだれが担うべきか議論している。
これから目指す方向性は、どのように限定的な条件が付いたとしても、必ず社会保障と税制について、皆さま方に世代間のアンバランスを解消しようというインセンティブを持っていただけるだけの全体の負担と給付像を示すことを前提条件として取り組んでいきたい。

(平井)

2000年に初めて当選して以来、ずっとe-JapanやIT関係に携わってきた。小泉内閣では、IT担当政務官を務めた。番号制度の話は、これまで何度もでてきており、正直辟易している。遡ると、1968年に佐藤内閣が、各省庁統一個人コード連絡協議会会議を設置して、国民総背番号制の導入を目指したが頓挫した。この頃から、我々は、42年間番号を推進しようとしてできなかった。少し前の民主党は、国民総背番号制に、個人情報保護やプライバシーの観点から、反対してきた。基本的には我々は反対することはないし、きちんと導入していただきたいと考えている。TPPのようにならないように、党内をきちんとまとめた上で実現してほしい。途中で頓挫すると大変なリスクを負うし、社会保障と税の一体管理は、ものすごく実現のハードルが高い。約6500億円の投資の費用対効果を言われると困る。また、カードが何のためにあるのかを考えなくてはいけない。
日本は、番号システムの問題で後発である。これまで、政府のシステム等を開発してきたが、番号がないために、無駄なコストも随分使ってきた。今、番号の話をするのであれば、各国の取り組みを参考にするよりも、全く新しい発想で、次の時代を創るんだ、電子政府という新しい政府を創るくらいの気持ちで取り組まないと、成長戦略にもつながらない。どうせやるなら、徹底してやるべきである。
基本的に、シチズンセントリック、つまり国民本位の番号、カードになるかどうかが重要である。プロジェクトにするなら、目的と目標を明確にして、国民の理解を得て進めるべきである。
住基カードと住基ネットは、民主党はずっと利用に反対していた。カードの総発行枚数は、2010年3月末時点で444万枚、普及率は3.5%である。市川市など先進的な自治体はポイントを付けたり、サービスを付けたりして、普及率が二桁台になっている。一方で、そんな苦労もせずに普及しているカードもある。TSUTAYAのTカードは、いろいろなサービスが受けられるということで、2010年6月時点で3500万枚発行されており、3人に1人が持っている。この違いは何か考えなくてはいけない。税・社会保障の世代間のアンバランス解消は、政策の話であって、番号で解決できる問題ではないし、それ自体のインセンティブは、はっきり言って弱いと思う。多くの国民、特に所得の多い人にとって、これはなんだという話である。
それよりも、番号を振ること、そしていずれカードを作ることについて、国民が本当に必要としている、あったら便利だと思うことを一言で言うと、自分が自分であることを簡単に証明できることである。それができないから、戸籍謄本をとったり、住民票をとるために駆けずり回ったりしている。行政機関や民間企業が行う本人確認や住所確認を、クレジットカードによるオンライン与信と同様のやり方で住基カードでしたらよいのではないかと思う。そのくらいの発想がないと、税と社会保障だけでは、6500億円のお金を投資することに、多くの国民が賛成してくれるのか疑問である。管理者側の発想ではなく、国民が真に望むカードという発想で、全てのプロジェクトを見直した上で、進めるべきである。
インドは最近カードに取り組んだ。オバマ米大統領は、そのカードを見て、アメリカに持って帰りたいと言ったそうである。インドのカードは、バイオメトリクスによる本人確認が基本である。それがあれば、例えば、児童手当などを受けられるというインセンティブが付いている。民間の力を使ったシステム開発の発想で進めているため、政府の投資額は600億円程度と聞いている。政府だけに閉じられたところで進めるのではなく、大胆な発想で考えていただきたい。これは、内需拡大につながるチャンスだと考えている。民間の知恵等を最初から取り込んでいくようにすべきである。

2.番号制度を具体的に何に使うのか

(井堀)

先ほど評価の話をしたが、市川市が実際に取り組んでいる例を紹介したい。
介護のサービスは、訪問型・通所型、物的・人的サービスなど多様であり、また、サービスを受けるひとの要介護レベルによって必要なサービスは異なる。そこで利用している一人ひとりのサービスの効果を評価する分析を1年かけて行った。個人が特定できないようにした上で実際の生データを活用して分析したが、一人ひとりの有効なサービスは何かが見えてきた。このように有効なサービスを提供するために番号制度を活用したい。
市川市では、1147種類の申請手続きがあるが、そのうち67%は添付書類を求めている。所得や住所、家族構成などの確認のため必要とされている。縦割りであるために必要とされる添付書類は極力無くさなければならない。また、申請を前提とした仕組みも改善すべきである。高額の医療費や介護保険の還付請求など、申請しなくとも還付され不公正がないように改善すべきである。
1147種類の申請手続のうち、年金、生活保護、児童手当等、社会保障に関係する手続きは249種類ある。そのうち、法定受託事務である年金、生活保護、児童扶養手当のように国が管理するが実態上は地方自治体の現場で対応する事務は56手続きで22.5%である。残りの193手続き77.5%は、自治事務で自治体が独自に条例化して対応するものである。乳幼児医療費の無料化などは自治体によって無料化の対象年齢が異なっているが、国と地方の事務手続きは一体化しているので、自治体の現場や国民が混乱しないように番号制度の運用を考える必要がある。

(佐々木)

届いている意見の中では、ワンストップサービスへの期待がある。「資産に対する正しい税の徴収が行われること、ワンストップサービスが実現すること、情報漏えいを徹底してもらえるなら、賛成です」という意見があった。
面白いと思ったのは、女性の方から、「番号を導入することで、漏れや間違いなく手続されることが徹底されればよいと思います。また、結婚しても旧姓のまま働く女性が増えていますが、税金や健康保険関係は、新姓でなければ認められないため、会社でも場合によって二つの姓を使い分けているという現実があります。番号制度によって姓に依存しなくなれば、旧姓だけで会社生活を送れるようになるという期待があります」という意見があった。
納税者が公共サービスを使えるようにという視点で、「給与所得者としては、毎月給与から天引きされている特別徴収の税金にため息をついています。一方、所得がありながら、ほとんど税金を納めていない例が多数あるのも見聞きしています。税金を納めないのに、同じ公共サービスを受益するのはイマイチ納得いきません。納税者番号で所得と税金を管理し、滞納、未納を減らし、税金を納めていない人には、受益者負担の原則にのっとり、例えば図書館など公共設備の利用や住民票の発行などの公共サービスを停止することまでしてもよいと思います。」という、ちょっとユニークな意見があった。
「国家の管理や間接コストの削減に期待する」「地方を中心とした独自の税制など細かいことに期待している」「効果説明をもっとしていただきたい」との期待もあった。

(佐藤)

企業における活用事例を話したい。企業は、市区町村や税務署、社会保険事務所、ハローワークなどに、税や社会保険等に関する書類を提出している。代表的なものとしては、市区町村には給与支払い報告書や住民税の異動届、税務署には源泉徴収票、社会保険事務所には厚生年金保険資格に関する書類等になる。
セブン-イレブン・ジャパンでは、2009年度の給与支払い報告書は、社員と、全国に約500店舗ある自営店に働いているパートタイマーの分を合わせた3万2200通を、826か所の市区町村に提出した。一部の自治体では、フロッピーディスク等での提出も可能だが、多くの自治体では電子的に提出することができないため、実質的には全て紙で提出している。番号制度ができると、こうした業務が電子的に行えるため、企業の負担が大幅に軽減されると思う。

(和田)

ワンストップサービスを実現してほしいという意見は、我々の調査でも圧倒的多数の方からいただいている。今検討の場を設けているが、例えば一人の国民の方が引っ越しをする時を考えてみると、どんなに少ない時でも10カ所以上手続きをとらなくてはいけない。これが1カ所で手続できるようになれば、皆さんの生活や仕事にも役立つだろうと思う。この点は、まずもって実現していきたいと考えている。
それをやるためには、各府省、地方自治体を含め、公的部門がいかに情報連携をとれるかが重要になる。それぞれの関係府省、地方自治体間で情報を流すことができるようなシステムを構築すれば、一つの届出が、全ての関係する役所に届くようになる。そうした連携を図っていきたい。
今までは、新しい制度を定めた時には、大臣がテレビに出たり、新聞に載せるなど、いろいろな媒体を通じて国民の皆様に宣伝してきた。しかし、国民の皆様が自分のIDでインターネット上にアクセスすれば、自分の引き出したい情報が皆引き出せるようになる。行政側がより積極的に情報を提供し、どうぞ好きなところを見てくださいというところに持っていきたい。このようなプッシュ型の情報発信をしていきたい。
どれくらいのコストをかけると、どのくらいのシステムが成り立つのか、正の相関関係となっている。社会保障と税制について、現在の政府でかかっているコストが莫大なもので、年金については、あれだけの事件が何回も起きて、その度に、国民一人一人の年金通帳を掘り出さなくてはいけなかった。中小企業に勤めている方の場合は、本当に支払われていたのか、社会保険事務所に行かなくてはいけない。行政自身もこうしたことを経験しており、もしきちんとシステムを構築できれば、こうした人的コスト、手間暇のコストをかけずに、これから先、皆様に年金を出し、納税負担も少なくし、他のサービスも受けていただけると考えている。私自身、財務省にいたが、社会保障給付にかかるトータルのコストは恐らく毎年兆円ベースだと思う。それを考えると、ある一時期に国民全体で決意した上で、システムを構築し、使っていただくという決断は、中長期的には正しい決断になると思う。

(平井)

ワンストップサービス、コスト削減、申請が面倒くさいという話は、ずっと今まで言われてきた話である。政府を電子化した時に、私自身反省を含めて認めざるをえないが、業務の見直しを徹底していなかった。そういう意味で、大胆な業務の見直しなしにいくらITに投資してもコスト削減にはならない。
電子政府が今一つ国民に人気がないのは、管理者側の発想を抜けきれていないからである。ワンストップも役所の発想から抜け切れていないのではないか。一方で、魅力的なものには、国民はどんどん参加する。例えば、プライバシーの問題や情報の紐づけは、嫌がることだが、今のポイントカードや銀行のカードも完全に紐づけされているが、国民は嫌がっていない。時代の変化の中で、国民のニーズと許容範囲が変わってきている。
国民のメリットは、給付付税額控除や徴税しやすいことなどいろいろあると思うが、いつでもどこでも本人証明を行えるシステムをつくることができたら、国民のメリットは、計り知れない。現在は縦割り行政でいろいろなカードがあるが、オールマイティで1枚ですべてできるカードがあれば、みんな欲しいし、財布のカードを1枚にしようとなる。これに似た発想で、安倍内閣の時に、社会保障カードを導入しようとしたが、頓挫した。やるなら、徹底した、日本ならではの基盤をつくるところまでいかなくてはならない。
行政コストは、どこがどれだけのコストを負担しているか考えていかなくてはいけない。定額給付金、子ども手当は、一人当たり千円くらい自治体にコストが発生している。こういうコストをどう考えていくか。和田政務官の資料の4ページを見ると、税分野、社会保障分野、その他の行政分野となっており、一見シンプルに見えるが、今誰が関わっているかを書き入れると、とうてい手がつかないように見えてくる。税と社会保障を住基ネットに紐づける作業は大変である。今、確定申告している国民は7000万人のうち1000万人程度だと思われる。あとは皆、企業で源泉徴収している。それを紐づけさせようとするなら、全員に確定申告させるくらいにならないと、そのシステムが機能することにはならないと思う。
私は、反対しているわけではないが、ハードルは高いと思う。それよりも、本人が本人であることを簡単に確認することは、知恵を出せばできることである。費用対効果でいうと、国民の理解も得やすいのではないかと思っている。

(遠藤)

今のご発言は、官での仕事だけでなく、官民両方合わせてのメリットが、本人確認のセキュリティと容易性が同時にできるということだったと理解した。

3.国民の懸念への対応

(佐々木)

イー・ウーマンというサイトを見ている人は、女性ばかりでなく、半分くらい男性だと思われる。そこに集まっている方々の懸念を拾いとると、心配だというのは、よく言われているセキュリティの問題とプライバシーの問題である。「電子マネーの番号や街の監視カメラに映る映像・画像と番号を結び付けられると怖いです」という人や、ちょっと視点が異なるが「これは、昔言われた総背番号制と違うのでしょうか。名称に抵抗があるので、そこを払拭してほしいです」という意見もあった。また「番号が見えるのはどうか。ICチップを使ったりしてはどうか」というような声だった。
私個人が思ったことは、アクセス記録を自分が見られるということは重要だということである。誰かが私の情報を見ているとなると、何を見られているのか分からず不安だが、誰がどういうタイミングでどういう情報を見たかをこちら側でも見ることができ、分析できると安心だと思った。
また、先ほど、デモで、世帯で住宅ローンのシミュレーションをしている場面を見て怖いと思った。番号制度は個人のものだと思い込んでいたが、デモで括られていたのは世帯であった。DV(Domestic Violence:家庭内暴力)や虐待等があった時に、自分がどこに住んでいるかが戸籍上別れていない夫から見えてしまうとか、子どもを匿ったのに学校に行き始めたら世帯という括りで子どもの情報が見えてしまうとか、夫婦別々に収入を管理していて銀行口座を教えていないにも拘わらず、夫や妻だということでこちらの収入が見えてしまうなどの問題がある。公のサービスを行うために誰かが見るのはよいが、世帯という括りで制度が作られることは怖いと思った。私の場合、世帯とはなんぞやと思っている。妻より年齢が若かったり、収入が低い場合でも「夫」が世帯主になっていることが多いのはなぜだろうと常々思っている。虐待などの被害申請をしている子どもの場合や、DVの場合は、誰か申請している違う人しか見られなくするべきである。この制度は、徹底して「個人」で作ってほしいと思う。

(遠藤)

大変貴重な、初めて伺う観点のご意見を伺った。

(井堀)

住基ネットは、運用して約8年経つが、住基ネットの脆弱性による大きな事件や事故はこれまで発生していない。それを見ても、住基ネットは、国民に信頼していただけるシステムだと思う。先ほどDVの話があったが、たとえ、家族の方であっても情報提供に問題があることを行政側で確認した場合は、現在でも窓口でロックがかかっており、適正なコントロールは機能している。
今後、創設される番号制度のシステムにおいても、情報管理に関しては、信頼性の高いシステムにしなくてはいけない。データやシステムの連携がない現在の姿こそ、セキュリティ上大きな問題があるということを認識すべきである。今年、発表された情報セキュリティ白書では、情報漏えいの71.9%は紙媒体だと報告されている。いかに、紙媒体の多い現在は、情報漏えいのリスクが高いかが分かる。USBなどの利用についてもデータ連携がないから外部に持ち出すということが起きている。データ連携がないと業務に携わる個人(ひと)に依存して、個人の行動や責任に委ねられる。そのために脆弱性のリスクが高まる。セキュリティの問題は、番号制度の導入によって適正なしくみが確立するようにしなければならない。
番号制度に対する懸念は、むしろ住基ネットとしっかりと融合した制度にすることができるかである。住基ネットを運用して約8年になるが、地方公共団体の業務において、まだ有効に活用されていないので活用すべきである。そして、添付書類を無くさなければならない。
番号制度がないからワンストップや連携ができないのではない。番号制度の導入を機に業務改革をしなければならない。果たして行政システムの業務改革につながる番号制度の創設につながるのか、その問題意識をもって取り組むべきである。

(佐藤)

私どもでは、多量の顧客情報を管理している。個人情報保護法とのからみでこれまでしてきた管理について話したい。
2003年5月に個人情報保護法が制定され、2005年4月から全面施行された。多くの企業では、この2年弱の間に、いろいろな対策を行ってきたと思う。セブンイレブンでは、データの一元管理をしている。データセンターはアウトソーシングであり、アウトソース先のセンターに対する入退室の管理や、情報に対するアクセスのコントロールや、ログをきちんととるなどの対策をとっていただいており、実際に事故は起きていない。今回も、情報に対するリスクが懸念されているが、懸念をすることよりも、どういう対策をとるかのほうがはるかに重要であると考えている。こういう方向に議論が向いてほしいと願っている。

(遠藤)

会場から、高齢者などITリテラシーの高くない方にも等しくメリットが行き渡るようにするにはどうしたらよいのかという質問も出ている。そこも含め、番号制度に対する国民の懸念を払しょくするためにはどうするのか伺いたい。

(平井)

番号に対する懸念は、かつての国民総背番号制というような、国が全部管理するのかというような話ではなくなってきた。それは、番号慣れしたということもあると思う。運転免許証、パスポート番号、住民票コード、健康保険証番号、銀行のカードやクレジットカード、楽天やアマゾンの番号、社員番号、など、番号は我々の背中に山のようについている。国民全員に振った番号は、住民票コードである。これをネットワークで使うかどうかという議論で、我々はずっと躊躇してきた。行政も民間も、サービスレベルを上げることと、プライバシーの侵害は、紙一重だと思う。
ポイントを使って買い物をした人は、本人の意思に関係なく、いつどこで何を買ったかは全部知られてしまう。そのことについて、最近は、いつどこで何を買ったから、こういうものをお知らせしてくれるのだなということで、よいサービスを受けたいと思ったら、プライバシー侵害ばかり言っていられないなという国民感情になってきたのではないかと思う。
一方で、個人情報保護法の話があるが、データの保護、管理、ガバナンス、情報漏えいの話を見ると、システムの脆弱性やガバナンスの弱さなど、いろいろな不安が出てくると思う。しかし、システムのセキュリティは、ちゃんとしたガバナンスをし、それなりのコストを使えば、解決できる問題だと思う。先ほど監視カメラの話もあったが、常にネットワークにつながって人間が活動するようになると、ある程度しょうがないと割り切らなくてはいけないことが出てくると思う。個人情報保護法は、改正しないといけない点が何点かあるため、日本ではあいまいなプライバシー権を含め、今後整理しなくてはいけないと思う。
お年寄りに便利かどうかは、カードや番号自体の話ではなく、どういうサービスをお年寄りにするかということである。番号が全部ITにつながらなくてはいけないような制度に当初からするとは思えない。一方、紙をやめて、電子化をしていくという意味では、相当思い切ったことをしないと両方が併存する状態が続いてしまう。来年政府がきちんとアナログ電波を止めてくれると思うが、地上波のデジタル化くらいのことを覚悟してやらないと、一気に導入することは難しいと思っている。

(和田)

国民の皆様方がお持ちの懸念を払拭する責任は、政府にあると自覚している。
実務検討会や、国民ID制度を検討しているIT戦略本部企画委員会の電子行政に関わるタスクフォースでは、国民の皆様が、アクセスが便利になるだけで使う気になるかどうかわからない、自分の情報を誰がどこでどう見ているのか分からない状況では、とても不安だという話があった。自分の情報が誰からどうアクセスされたかが、記録としてとれ、かつそれを自分が確認できることは、必要条件であると考えている。それが破られた場合には、きちんとした指導機関があったほうがよいだろうということで、第三者機関を監視・指導・是正の権限を持ったものとして設置することを考えている。目的外に使った者に対する処置を法制度上明定し、犯した場合の罰則のレベルを相応のものとすることを検討している。
佐々木さんがおっしゃっていた家族単位ではなく個人でというところは、よく理解できる。私も共働きで、可処分所得では家内のほうが多く、家内が家計を支えている。今までのいろいろな制度は、世帯という概念で組み立てられているものが多い。税制上の恩典を及ぼす場合も何かの給付をする時も、旦那さんが働いていて、妻が専業主婦で、子どもの一人が大学生レベルで、もう一人が小学生レベルのモデル世帯を基準において、どのくらいの恩典や給付があるのかを想定してきた。現実には、モデル世帯の割合は3分の1以下である。現実に世帯がさまざまなバリエーションをもっている上では、個人を基軸に考えていかないと、給付と負担のアンバランスをさらに拡大することにもなりかねないと考えている。一方で、世帯という単位構成は、日本の文化の中では、しっかりと育まれていることもあり、その辺のバランスをどうとるのかが難しいと思う。
お年寄りの懸念に対しては、お年寄りの方々がIT関係のものを使っていただくことに相当な抵抗感があることは実感している。ご自身が使うというよりも、ご自身が持っていただければ、関係者がサポートして、一人一人の情報が集積されていて、それを間違いなく活用するということを、社会的に担保する必要があると考えている。たとえば、この医療情報さえ担ぎ込まれた病院で持っていていただければ、一命をとりとめたのにというお年寄りが、地元活動を通じて周りに何十人、何百人もいらっしゃる。こういう方々にメリットを伝えていきたい。また、次世代に向けて、次世代の負担を大きく削減しながら、公平な受給と負担を受けていただくことを発信することにより、ご理解いただくのだろうと思う。

4.番号制度導入を、どう具体的に実現していくのか

(遠藤)

会場からの質問に、「2002年にIT戦略本部が設置され、10年間のうちIT担当大臣が12名変わった。トップダウンが重要だが、どう考えるか」というものがあった。このように頻繁に変わっていては、推進力という点ではエンジンがないと同じになってしまう。今後、具体的に導入、実施に踏み切るには、どういうことが必要か伺いたい。

(平井)

IT担当大臣は内閣府特命大臣であり、IT担当があったりなかったりする。どんな政治オタクでも全部言える人はいないと思う。ちなみ今、誰がIT担当大臣かご存知ですか。【会場からの反応なし】

(遠藤)

海江田さん。

(平井)

そう、海江田さんである。こんな状況でITが推進できるのかということである。
共通番号を作る、プロジェクトとして取り組むだけの担当大臣が必要であり、組織もCIO、CTOも必要である。国民の理解を得て、財務省の理解も得て進めなくてはいけないと思う。
世の中には、いろいろな政策がある。私には、民主党は、おもちゃ箱をひっくり返して、片づけない子どものように見える。共通番号という政策が、国民主権の新しい政府の姿を示すということになることが第一条件である。不退転の覚悟を持った組織をつくり、それなりのトップを据える。そして、政党間の争いごとに巻き込まれないところで仕事を進めさせてあげることが必要である。私は、可能性があるし、そうしなければいけない時期に来ていると思う。
内需やサービスの充実を進めていくためには、新しいやり方が当然必要である。そういうところに導くためには、国民にとって必要であり、魅力的であり、国民がやってほしいという気持ちになるような政策をしなくてはいけない。管理者側の発想を捨て、国民本位の新しい政府はどうあるべきかというところまで、今回、大きく話をとりあげていただきたい。それは、政権交代があろうともずっと進められるような体制と予算を作っておくことである。日本のインフラ基盤をフル活用すれば、相当なものができると思う。シンガポールや韓国に負けないものをつくるポテンシャルはあると思う。産業界の皆様方にも、そこに新しいビジネスチャンスを広げていただける。国の予算の受け皿になるだけでなく、積極的に投資をしていただけるような環境もつくるべきである。そういうことをまとめてやると、世の中が少しは明るくなると思う。この話は、社会保障と税を紐づけることだけに収斂してしまうと、途中で必ず失速すると思う。国民本位の新しい政府をつくるというところに持って行っていただきたい。これは、私からのお願いとしたい。

(和田)

この点については、政党の間で見解が異なっているような状態ではとても進まないと思っている。目指すべき方向性は一致していると考えている。我々が政権を持たせていただいている以上は、今いただいたメッセージをしっかりと法案化しなければと考えている。来年には骨格を示し、国民の皆様のご意見をいただき、春から夏にかけて法案を作っていく。骨子を来年のはじめの段階で示し、来年の半ばには法案の概要を示せるようにしたいと考えている。
最終的には、私たちが国民の皆さまにお願いすることではあるが、国民の皆さまが使ってみたいとおっしゃるところは、しっかりと汲み上げる必要があると考えている。いかに国民の意見がいただけるか、そのための積極的な活動にかかっていく。
役所も政治家も、もっとCIO分野の先端者がいるだろうと思っている。政策転換をして、こうした人材を育成するシステムを役所の中に作っていければと思っている。そのためには、民間の皆さまに入ってきていただくことが、最短の経路だろうと思う。民間の方が入ってきていただければ即戦力になる。こういったことをシステムとして採用することも、併せて検討したい。

5.最後に一言

(佐藤)

番号制度については、過去にも具体的に検討されていたが、実際には実現していない。難しい問題も含んでいたと理解している。今回は、官民で盛り上げていくことが重要だと考えている。ここまでくると、社会保障・税への関わりだけでなく、個人的にはいろいろな活用や期待もあるが、確実に社会保障・税に関して成果を出すことが国民の理解を得られることになるのだろうと思う。併せて、自治体、行政の質、効率の向上につながることになると思う。初めの一歩が大事だと思うので、よろしくお願いしたい。

(佐々木)

正直に生活をしてきている人に得になるシステムだろうと思う。これからは、プレゼンテーションが重要だと思う。日本は、海外と競争する時に、私たちのほうが技術が上だから品質がいいから、資料を見ればわかるだろうという態度で臨んで、負けたことも多いのではないかと思う。この政策もしかり。こういうことを国民の多くに理解していただき、不安や心配を払拭していただかなくてはいけないことを考えると、これまで関わってこなかった専門家たちの知恵や力を借りて、プレゼンテーションをもっと重視していただきたい。中身はこれまでたくさん検討されてきたと思うので、簡単に整理して、分かりやすく伝えていくことが大事だと思う。もっと工夫して国民を巻き込むことをしていっていただきたい。

(井堀)

これまで39年間、地方行政における電子行政に携わった者として、番号制度には強い期待をしている。しかし、制度の内容が見えないことから不安やストレスがある。全国の地方公共団体の職員も同様だと思う。峰崎内閣官房参与から、地方公共団体等と実情を踏まえた連携をしていくという力強いお言葉があったが、パブコメや一部の人の意見だけで重要な番号制度を決定しないよう、現場の意見を聞き、実証を踏まえていただきたい。
番号制度は、幅広い行政分野で活用することが目指す方向性になっているが、何故、行政分野に特定するのか疑問である。年金や介護など官民連携で利用することが、本来の方向性ではないかと思うので、もっと議論を深めてほしい。

(平井)

政府として、共通番号という政策の優先順位を上げなくてはいけない。番号を入れることだけが自己目的化してはだめである。目標と目的を明確化して、強力な推進体制の下に進めていくことが必要である。住基ネットの構築費が約800億円であった。そこに収用されている情報は、約10ギガバイト、DVD 1枚に収まる程度の情報である。そのために年間190億円もかけている。きちんと使われなければ意味がない。費用対効果の検証も重要になってくる。菅首相が番号制度についてどの程度の政策の重要性を感じておられるのか、1回整理していただき、もっと格上げしていただかないとハードルは非常に高いと思う。私は、長年この問題に取り組んでいるため、ぜひ使っていただければと思う。推進する時には、私をご指名いただきたい(笑)。

(和田)

今のお話を伺って、一人、政府CIOゲットと思った(笑)。
政府からここに来たものとして、本日のお話を伺えたことをありがたいと思っている。今まで散々お金をかけてきたのに、行政の情報化は進んでいない。地方との連携でも、巨額にかけた情報システムが機能していないことは、次への課題となると考えている。住基ネットの収用情報が10ギガ程度という話があったが、今現在扱っている情報はそれほど大きくないものの、やっていこうとしていくことによっては大きくなりうる。しかし、今まで通りの発想でシステムを構築したのでは、巨額な費用がかかってしまう。地方自治体や企業のデータを使わせていただかなくてはいけない。そういった方々の信頼を得られるような作業の進め方をしなくてはいけないと考えている。一歩一歩進めながら、その度その度に国民の皆さま方のご意見を伺いながら進めていきたい。

(遠藤)

今日は、大変良い、今後の示唆を得られるご意見をいただいた。
我々一人一人が正しく理解するために、専門家グループが検討してきたことをより多くの方に正しくご理解いただき、その上で進める、偏らないようにすることが重要になる。そこを肝に銘じていきたい。
超党派で進めるという力強いご意見をいただいた。それで、よろしいですね。【和田氏、平井氏、首肯】
本日は、ありがとうございました。

パネルディスカッション

メッセージ
「私たちは、番号制度の導入を支持します。」

椋田 哲史 日本経団連常務理事

ネットは、4万3600を超えるアクセスをいただき、多くの方々に関心を持っていただけた。

最後に、皆様のお手元にお配りしている、「私たちは、番号制度の導入を支持します」という資料について、紹介申し上げる。

これは、私ども日本経団連が、関係団体や有識者などの皆さまに、番号制度の導入に関する支持表明やメッセージを呼び掛け、お願いした。本日現在、合計59の団体、有識者の方々から、番号制度導入の支持のご連絡を頂いている。

本来であれば、一つ一つのメッセージをご紹介申し上げるべきところであるが、大変多くの皆様から頂いているため、ここでは、共同のメッセージについて紹介させて頂く。

「少子高齢化をはじめ社会構造が大きく変化するなか、国民、住民一人一人が公正、確実、透明、効率的に行政サービスを受け、安心で豊かな生活を実現するための基盤構築が不可欠となっています。私たちは、豊かな国民生活の実現に向けた共通基盤として、番号制度の導入が不可欠と考え、その早期導入を強く支持します。」

閉会

以上

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