★★★☆☆(評者)池田信夫
学歴の耐えられない軽さ やばくないか、その大学、その会社、その常識
著者:海老原 嗣生
販売元:朝日新聞出版
発売日:2009-12-18
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大学の危機が叫ばれて久しい。本書も指摘するように私立大学の半分以上が定員割れで、教育の成り立たない大学が増えている。偏差値の高い大学でも、早稲田大学の政治経済学部の入学者のうち、一般入試は40%しかいない。大学の偏差値ランキングを落とさないために一般入試を絞り、推薦入学などで水増ししているためだ。結果的に偏差値は高いが学生の質は落ち、学歴のインフレが進行している。
企業の人事担当者もこうした実態を知っているので、大学の偏差値を信用しなくなった。特に偏差値の低い大学の扱いは専門学校以下で、大学を卒業してから(大学院ではなく)専門学校へ行く学生が増えている。講義の内容も専門学校化し、特定の資格を取るための学科が増えている。一部の難関校を除いて大学そのものがインフレになっており、今や専門学校より役に立たない一般教養を教える機関にすぎない。
これは本書も指摘するように、企業の求めるスキルが、特に文科系の場合、大学の専門知識と関係ないからだ。日本の企業は長期雇用で使い回せる「便利屋」を求めるので、へたに理屈をいう学生より体育会系の従順な学生を好む。しかし一定の知性は必要だから、大学の偏差値でフィルタリングしてから、面接で学生の忠誠心を見るわけだ。ところがその偏差値というフィルターが信用できなくなったため、企業も混乱している。このままでは、経済の根幹である人的資源の劣化が進むおそれが強い。
大学には専門知識を勉強して人的資本を蓄積する機能と、受験勉強に勝ち抜いたという潜在能力を示すシグナリングの機能があるが、日本では後者がほとんどすべてで、大学の4年間に何を学んだかは問われない。これは企業システムの古い構造に起因するので、企業を変えないで大学のインフレを止めることはできない。著者もいうように、正社員だけが理想の人生でフリーターや派遣はカワイソウという価値観が変わらないかぎり、大学も変わらないだろう。
本書はこうした日本の大学と企業の抱える問題を、多くのデータで具体的に語っている。ただ話がやや散漫で、前著ほどのインパクトはない。
コメント
大手企業も変化には気がついていると思う。ただ、採用の変化が表れてくるのにはあと10年はかかるかもしれない。2009年度のNECの新卒採用にはNECが求めるレベルに達する人がいなかったため、8-9割しか取れなかったと聞く。新卒でいきなりNPOやNGOに応募する人も増えていると聞くし、学生側がよくもわるくも10年前とは意識が違うと感じてます。
結局、大学も権威主義なら企業も権威主義なんですよ。
「人間力重視の教育」とか「人物重視で採用」なんて意味不明な事はやめて、とりあえずペーパーテスト(又は実技試験)で機械的に採用すれば良いと思います。そうすれば、それに合格する為の教育機関が出来るでしょう。もし採用してダメだったら、契約を打ち切れば良いだけ。
「労働力は商品ではない」なんて言ってるから、歪な権威主義や家父長主義が蔓延り、組織の為の組織が生まれてしまうのです。
学生の質が落ちる理由の一つに「ヤンキーの子供比率が高まっている」問題があると考えています。これは、「勉強の苦手だった人ほど早く結婚して子供を沢山産む」ことにより生じている人口比率の変化です。日本は、早急に、国策をもってこの事態に対処しないと、子供たちの学力低下が進み、将来、技術立国どころでなくなってしまうと思います。
ちゃんとした国家戦略があれば、それに合わせて日本全国の大学の学部の数や教える内容を最適化することも可能だと思うのですが、残念ながら、今のところ日本には国家戦略が無い。。。
とてもいい響きですね
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古い企業システムの生み出す大学のインフレ
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指摘するだけではなく、これから、どうしたいのか、と言う「意識次元」に帰着しますね
池田さんの記事に書き込んだ少々辛口のコメントから
●仮想教育では、実践で使えない人材を生産する。
Virtual education is not available in practice to produce talent.
私は高等専修学校卒業(高等課程卒業資格が与えられていなかった時代つまり中卒です)
ほんとうの村上光治
kouji murakami cello-murakami Muse livedoor
ではまた。
渡辺正裕さんがこの記事を引用していたけど、 pedigree collapse ならぬ degree collapse って世界的な現象なんでしょうか。
http://goo.gl/RxTrN
2008年以降の一連の騒ぎと不況に対して、誰か忘れたけどツイッターで「先進国というビジネスモデルの崩壊」と評してた人がいて、的確だと思う。