書評
『不意撃ち』(河出書房新社)
不意撃ち、事件に翻弄される人たち
小説の名手による新しい短編集。5編を収めるが、そのどの小説にも「不意撃ち」というタイトルはついていない。5つの小説を貫くテーマとして、不意に湧き起こる事件があり、それに翻弄される人間たちが描かれている。たとえば冒頭に置かれた小説「渡鹿野」。東京・池袋のデリヘル「ハニー・トラップ」を舞台にした、デリヘル嬢と彼女を運ぶ運転手の話かと思いきや、彼らが顧客の死体を発見したことから、つながりを持つようになり、互いの人生が交錯し始めるのだ。そこには過去に実際に起こった事件も重ね合わされる。
小説の巧さという点では、文句なく日本語文学の最高水準だろう。素晴らしいの一言。