[要旨]
株式会社識学の社長の安藤広大さんによれば、会社の組織が縦割りになることに否定的に考える人もいますが、縦割りになっていることによって、それぞれの役割が明確になり、集中して仕事ができるようになるため、効率的であるということです。一方、組織横断的なチームによって特定の課題に対処することがありますが、それは、仕事ができる人が仕事をやりやすくなる、すなわち仕事の属人化に会社が頼るという状態であり、そのようなことは避けるべきだということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、株式会社識学の社長の安藤広大さんのご著書、「とにかく仕組み化-人の上に立ち続けるための思考法」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、安藤さんによれば、権力とは権利を持つことが許された人がそれを正しく行使することで、その権利にはよい権利と悪い権利があり、よい権利とは権利の範囲が明文化されていることで、悪い権利とは明文化されていない曖昧な権利で、いわゆる既得権益がそれにあたるそうですが、既得権益は円滑な事業活動の妨げとなることから、経営者は既得権益を排除することに注力しなければならないということを説明しました。
これに続いて、安藤さんは、属人化に頼る組織は好ましくないということについて述べておられます。「そもそも部署に分かれていることを疑問視する人もいます。しかし、部署に分かれて自分の役割が明確になるから、仕事に集中できるのです。タテ割りが基本です。そこでよくない問題が起こっているなら、横断する仕組みで解決するしかありません。部署を超えて新プロジェクトを起こす場合も同じです。そこでの責任者を新しく立て、新たなピラミッド組織の形をつくります。構造は、同じです。
フラットな状態のほうがスピードが速くなりそうな錯覚がありますが、実際は違います。うまく動ける一部の人にとって進めやすくなるだけです。まさに『属人化』の状態です。本当に大事なのは、どんな人も活かすことです。そのために、組織としての仕組みを整え、動けるようにするのです。『いい人』だからやるわけではない。『積極性がある』からやるわけでもない。その人の本来の性格に組織が頼ってしまうのは、いい状態ではありません。組織は、つい、属人化を放置してしまいます。
率先して人がやらないような仕事をやってくれる人が、あなたの職場にもいると思います。その存在に甘えているのです。最終的に、そういう人は『自分だけ損をしている』と感じ、その組織を去るでしょう。そうなることは仕組みで回避しないといけないのです。誰に責任があり、誰が何をするのか。それを最初に仕組みとして決めます。すると、どんどん新しいことができるようになります。社内での新規事業や新プロジェクトは、そのようにして生み出されるベきなのです」(95ページ)
今回の安藤さんがご指摘しておられる組織のフラット化の弊害は、前回の、既得権益と逆の事例だと思います。すなわち、既得権益は、属人化によってラクをしたい人がつくるものですが、組織のフラット化は、属人化によって能力の高い人が損をしてしまうということです。現実の会社では、さまざまな課題に対処するために、部署を横断する組織をつくることがありますし、それは効果があると思います。また、私も、理想的な組織は、フラットな組織であると思います。では、組織の縦割をなくして、部や課はつくらず、役職もつくらず、社長以外はすべて肩書きのない従業員にすればよいのかというと、必ずしもそうとは限りません。
フラットな組織とは、従業員が成熟していなければ機能しません。単に「フラットな組織が望ましい」とは言っても、それは、「フラットな組織で機能するよう、従業員の習熟度を高めることが望ましい」という意味です。そして、フラットな組織を実現している会社は少なくありませんが、割合としては低く、そこに至っていない会社では、安藤さんがご指摘するように、縦割りで組織的な活動をすることのほうが高いパフォーマンスを実現できると、私も考えています。なお、私は、これまで何度もバランススコアカード(BSC)の導入をお薦めしていますが、これは責任の明確化が図れるからです。
BSCを導入した会社では、まず、重要目標達成指標(Key Goal Indicator、KGI)を設定します。KGIの具体的なものは経常利益や、自己資本利益率(Return On Equity、ROE)などが設定されます。そして、それを達成するための指標として階層的に重要業績評価指標(Key Performance Indicator、KGI)が設定されます。例えば、KGIが利益額だとすると、それを達成するためのKPIは売上額と利益率が設定され、さらに、売上額を達成するために、下位のKPIとして来店客数や顧客単価などが設定されます。
そして、そのKPIをそれぞれの担当部署に割り振っていきます。こうすることで各部署の目標や責任が明確になります。このようなKPIの設定は、ある面では縦割りですが、会社のそれぞれの部署や担当者が最終的な目標であるKGIを達成するために、体系的に活動することで、最大のパフォーマンスを得ることができるようになると考えることができます。もちろん、これは縦割りのひとつの例ですが、このような責任を明確にする仕組みをつくることは、経営者の重要な役割であると、私は考えています。
2024/12/30 No.2938