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週末の過ごし方

イスタンブルに輝く
失われゆくローカルに光を当てるスターレストラン
【センスの因数分解】

2025.01.22

イスタンブルに輝く<br>失われゆくローカルに光を当てるスターレストラン<br>【センスの因数分解】
新市街のオスマン帝国時代の銀行をリノベーションした建物の最上階にあり、窓からは美しい旧市街の建物が。

“智に働けば角が立つ”と漱石先生は言うけれど、智や知がなければこの世は空虚。いま知っておきたいアレコレをちょっと知的に因数分解。

レストランの世界地図があったとしたら、長らくその中心に据えられたのはフランス、そしてイタリアでした。

しかしスペインの僻地にありながら、食事を体験にまで高め世界中にインパクトを与えた『エル・ブジ』や、コペンハーゲンの経済を変え「ノマノミクス」という言葉を生んだデンマークの『ノーマ』などの出現により、レストラン世界地図は大きく様変わりしました。また2023年の「世界のベストレストラン50」で1位となったペルーの『セントラル』のように、社会的課題解決の一助となる仕組みを提示するなど、社会とつながりを深めたレストランが評価される動きが散見されます。

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大学ではツーリズムを学んだというマクスト・アシュカルシェフ。「造形学部も選択肢のひとつでした。料理もデザイナーとしての視点で見ている」のだという。

トルコ最大の都市・イスタンブルの新市街にあるミシュランスターレストラン『ネオロカル』もまた、社会的問題に料理で対峙しています。このレストランが焦点を当てるのは、失われつつあるアナトリア(トルコのアジアサイドにある半島)の伝統的家庭料理。ネオ=新しいローカルという名がその哲学を表すように、伝統料理が斬新な姿となってゲストに振る舞われます。

「われわれには、70近い文明と異なる民族や宗派、そして1万年以上続く食文化があります。それらが融合した、深遠なる大海のようなアナトリア文化というものを持ってるのに、ほかに目を向ける必要などはないと考えています」と話すのは、このレストランの生みの親のマクスト・アシュカルシェフ。地域の食卓に上がっていた料理は、彼によってガストロノミーのレベルにまで洗練させたモダンキュイジーヌへと生まれ変わるのです。

「フランス人でない私が、たとえ良いフランス料理を作っても物まねになります。どうせ何かをまねるのであれば、母のまねをしようと思いました。それはある意味私自身の文化であるのですから」

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前菜の一品であるマントゥ(トルコ版餃子)は、料理の前にタブレットにヘッドセットをしてメイキングムービーを見る。しかもそのムービーの始まりは、土壌から! 私たちのいただくものが、どうやってテーブルに運ばれるのかのストーリーをも届ける仕組みだ。
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アシュカルシェフを育ててきた家庭料理とは、いわばアナトリア文化という大海の一滴。それこそが料理人として極めるべきテーマであると信じ、前身のレストランからトルコの家庭料理を研究。さらによりコンセプトを明確化し、現在へと至るのです。

「アナトリアの伝統料理は数千年に及んで受け継がれてきましたが、文書として残っている資料はありません。母から娘へ慣習として受け継がれてきたからです。しかし私は、この伝統料理は世界に認められるべきものだと思っていますし、それを未来の料理人たちに伝えたいと考えています。アナトリアの家庭料理が世界的に優れた料理のひとつだと認められれば、彼らも勇気をもってこの伝統料理を未来へと継承するでしょう」

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シェフは伝統料理の調査のためにアナトリアのすべての地域を訪問。そして土地のベストの食材がどう食べられているのかをリサーチ。さらには他の事情と比較したうえで誰にも受け入れられるベストな料理へ仕上げていった。コースはフレンチスタイルで提供しキョフテという家庭料理も、ネオロカルの解釈だとモダンなアミューズになる。タコを使った料理や野菜なども地場の食材を使用。
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  • S_Istanbul-727_check(トル可)

社会的責務を強く意識するトップシェフは世界に増えています。失われつつある自国の伝統料理の担い手の解決法として、ネオロカルを発信するアシュカルシェフはそのひとりと言えます。また一方で、地場の伝統料理の見直しと再評価が求められるのは、トルコだけではありません。この問題は、世界が抱えています。ネオロカルというスターレストランの料理と哲学は、アシュカルシェフが伝えたい次世代のトルコ料理人よりももっと大きなところまで、翼を広げていくように思えてなりません。

NEOLOKAL
Arap Cami, Mahı, Bankalar Cd. No:11, 34420, 34421 Beyoğlu/İstanbul
https://www.neolokal.com/en/

「アエラスタイルマガジンVOL.57 AUTUMN/WINTER 2024」より転載

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