○宮本常一『私の日本地図(14)京都』(宮本常一著作集別集) 未来社 2010.2 著者が「何回おとずれたか思い出せぬほどである」という京都の思い出を語った本。原本は昭和50年(1975)の刊行だが、大正末年の「参観者の姿をほとんど見かけなかった」ひっそりした国立博物館の様子とか、柳田国男先生から「詩仙堂はいいよ」と勧められた話とか(私もあそこは好きだ)、戦前は清水寺の音羽の滝で水垢離をとる中年の女性が多かったとか、さまざまな古物語が採録されている。 昭和2年の秋(著者20歳の頃か)、丹波に住む友人の死に遭って、墓参に出かけた帰り、さびしさに堪えかねて嵯峨野で列車を下り、清涼寺(釈迦堂)を訪ねて、友人の供養を願い出ると、すぐに7、8人の僧が支度を整えて本堂で読経してくれた、という話は特に感慨深かった。本来、寺の役割ってこういうことだから、驚くことではないのだろうけど…信仰が生きていた時代の