天才談志に弟子入り志願をするような人間は、何も私に限らず、自分に対して大なり小なり自負を持っているものです。「自分はおもしろいんだ」「談志の弟子になりさえすれば大成できる」とね。 実際、その前年には志の輔師匠が異例の早さで真打ちになっていました。 志の輔師匠が広告代理店でバリバリ仕事をしていた社会人経験を経て、談志に入門したのが28歳のとき。当時、25歳だった私は志の輔師匠と同じく、3年間のサラリーマン経験がありましたから、同じ道を通れば、すんなり一人前になれると高をくくっていたんです。 「おれを快適にしろ」という談志のひとことは、そんな私の鼻をへし折るつもりで発した言葉だったのかもしれません。 師匠を快適にするとは、どういうことか? 頭をひねった私は、師匠の荷物を全部ひとりで持って、汗びっしょりになって働きました。ところが、これが大間違いでした。 師匠が弟子に重い荷物を持たせて威張ってい