いい人いないのと訊くと、彼女はそれまでとは異なる複雑な笑いかたをした。私たちは学生時代によく遊んでいた四人組で、久しぶりに集まってささやかな旅行に出ていた。 ホテルの部屋をふたつ取り、夜はその片方に集まった。ひとりが眠いと言って自分の部屋に戻り、もうひとりはベッドの上でうたた寝をしていた。子どもを産んで長いこと飲まないでいたらめっきり弱くなったのだそうだ。内臓ってしばらく使わないと初期状態に戻るのかな、と言っていた。 残ったふたりで残ったお酒を少しずつ飲んでいると、彼女が私に、ちかごろ親しい人はいないのと訊いた。私は通り一遍の報告をして、それから彼女自身に話を振ったのだった。 私、そういうのは、もういい。彼女はそう言い、私は驚く。彼女は社交的で、情感ゆたかで、率直な人格の持ち主だ。彼女が誰にも特別な好意を持たず、あるいは好意を伝えずにいるなんて考えられなかった。私は嘘とつぶやき、それから少
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