日本における「出産」のイメージは、古来どう変化してきたのか。国際日本文化研究センター教授の安井眞奈美さんが注目するのは、命が生まれる過程で喚起されてきた「異界」の存在だという。平安時代以来、亡くなった妊婦をモチーフにした妖怪の説話が伝承されてきた一方、現代でも、水子供養といった新しい儀礼が作られる。「病院で産むのが当たり前の現代、出産に関する多層的な生命観を描き出したい」と語る安井さんが見つめる先とは。 -出産と異界というのは、意外な取り合わせです。 「出産の背後に存在する死は、異界のイメージを強く喚起すると言えます。たとえば、平安時代後期に成立したとされる『今昔物語集』には、子を産もうとして亡くなった女の亡霊がうぶめとなって夜な夜な出てきて、赤子を抱くように迫る説話があります。江戸時代には、鳥山石燕の『画図百鬼夜行』(1776年)にもうぶめの絵が描かれ人気となります。また出産時に亡くなっ
