室内には、かなりきつい臭気が漂っている。 獣独特の生臭さだ。 だが、その匂いは、剥製師・阿部正三(あべまさみ)の30年にわたるキャリアを如実に物語っていた。 玄関を入った一室は、店先と言うよりは倉庫といった感じで、阿部の作品が陳列されている。イヌワシ、キジ、山鳥などの鳥類、狸や猫などのほ乳類、壁には数々の魚類――。 正面の、いちばん目立つところに飾った狼の後頭部をぽんぽんと叩いて阿部が笑った。 「この狼はカナダで捕れたものなんだ。売りものなんだけど、売れないねえ。もう20年もここに飾ってある」 言葉には、ところどころに東北弁が混じる。 福島県いわき市。小名浜漁港にほど近い海岸通りに阿部の工房はあった。きつい臭気は、家の2階に設置した工房から漂ってくるのだ。 「何でもやるよ。専門はほ乳類だけど、頼まれれば魚だって鳥だって。先には猿の剥製をつくったこともある。でも、もう一回あれをやれと言わ