神もなく主人もなく ダニエル・ゲラン編 河出書房新社 1973 Daniel Guerin Ni Dieu Ni Maitre 1970 [訳]江口幹 一九二一年二月八日の早朝、モスクワ郊外の寒村でクロポトキンが死んだ。翌日、特赦された数名のアナキストを先頭に、ドヴィシイ墓地にいたる五マイルの道に、チャイコフスキーの第一と第五が流れた。その葬列には黒旗が林立した。 葬列がトルストイ博物館にさしかかったときは、ショパンの葬送曲が流れ出した。修道院での出棺には二〇〇人の合唱団が永遠の追憶に心を致した。ついで、アアロン・バロンの燃えるような怒りに満ちた告別の辞が、時の空気を黒く切り裂いた。「神もなく主人もなく、クロポトキンはこう言った、さあ、命なんぞは君が持っていきたまえ!」。 ルイ・ルーヴェの随筆集には十五世紀ドイツの格言が扉に印刷されていた。それが「神もなく主人もなく」である。一八七〇年、オ