フロイト・セミナー中級篇 第5回 死の欲動と涅槃原則 重元寛人 いよいよ、死の欲動である。この概念は、フロイトの後期の理論で登場し、当時から賛否両論をまきおこした。 この概念が登場した、記念碑的な論文が『快感原則の彼岸』(1920)である。この論文、まことに重要な論文らしく、いろんな人が珍重して引用している。そのありがたみを十分理解できているかどうかは自信がないが、これがフロイトの著作の中でも際だって変わった論文であることはわかる。その特徴を列挙してみよう。 (1) 非常に難解な論文である。 (2) 単に人間の心理学ということを越えて、非常に広範な問題を取り扱っている。(欲動理論を単細胞生物も含むすべての生物にあてはめようとしたり、地球上に生命がどのように生じ進化してきたかといった問題をあつかったりしている) (3) 精神分析以外の多くの学問をも根拠に論をすすめている(ゾウリムシの増殖に関