映画『フレンチ・コネクション』(‘71)でわたしがいちばん好きな場面は、主人公の刑事が尾行に失敗する地下鉄のくだりだ。尾行される麻薬の密売人は、自分の後を刑事がつけていることに気がついている。刑事も、密売人が尾行に感づいており、自分を巻こうとしていることを知っている。しかし彼らは、尾行する/されるというお互いの立場を決して崩さず、なにも気がつかないふりを演じつづける。 誰の目から見てもあきらかな真実がある しかし、それを口にだすことは禁じられている 誰もが真実を知りながら、それに気がつかない演技をつづける わたしは、刑事と密売人という、いわば敵同士にあたる存在が、ひとつのルールにもとづいてお互いに協力しあいながら真剣に演技をしている、というふしぎな描写がとても気に入っていて、このおもしろさはどこからくるのだろうとおもう。こうした状況は、もちろん尾行だけではなくて、いろいろなことにあてはまる