欧米で感染者を急増させている新たな亜系統「JN.1」。この変異の影響を見て、理論疫学者の西浦博さんは「新型コロナの今後の見通しも大きく変わってきた」と言います。どういうことなのでしょうか?

8波を凌ぐ過去最大の流行を迎えている日本ですが、世界では新たな系統のウイルス「BA.2.86」の登場を注視しています。再び振り出しに戻ってしまうのでしょうか?西浦博さんに最新情報を聞きました。
今後の未来像は 予防接種という行為は、接種者自身はもちろんのこと、それ以外の方の感染機会を減らすことに繋がる。そのため、そのような間接的な防御が人口内で積み重なり、流行自体を防ぐ効果が得られたものを集団免疫効果と呼ぶ。そして、流行排除のための閾値について、従来株の場合、予防接種率が60%超程度ではないかと過去の記事で私も言及してきた。 実際に、イスラエルではロックダウン下で2回目接種が完了した者の割合が40%を超えたところで新規感染者数が減少傾向に転じたことから、国内外含めて予防接種に大きな期待が広がったのである。 残念ながら、上記の見通しは楽観的すぎた。それはどうしてなのか。加えて、現時点までの科学的な知見から今後の未来像をどのように見込んでいるのか。簡単ではあるが、本稿で皆さんと共有したい。 いずれの要素も集団免疫閾値に直接的に影響を与える。特に、前回の記事でお伝えした通り、(1)に関
ここまでの疫学的状況は? 8月2日(月)、首都圏の神奈川県、埼玉県、千葉県と大阪府を対象に緊急事態宣言が発令された。これまでの東京都と沖縄県に加えて、感染者数が過去最多を記録しながら増加を続けていることを受けての判断である。 緊急事態宣言の一方で、流行に対する危機感が薄れていることを強く感じるのは私だけだろうか。若者のみならず中年を含めて成人の感染者数が増加を続けている。医療が逼迫しているのに、オリンピックが開催されている影響か、21時の公共放送のニュースも15分間だけであった。 これまでの高齢者中心の感染と異なり、50歳代を中心とした入院が目立っている。高齢者は予防接種の直接的効果や医療従事者接種の間接的効果などによって感染者数が著減しており、他方で全体の感染者数が増えたことが影響して、相対的に重症化したり入院を要したりしやすい50歳代の入院者が増えたのである。次いで40歳代が多い。 現
ーー先生のツイートを見て、「今回ばかりは止められないかもしれない」という言葉にぞっとしました。日本だけでなく海外でも流行が拡大していることに危機感を強めていらっしゃいますね。 世界全体でインド由来の変異ウイルス、デルタ株が流行のスピードを加速化する形で広がっています。 英国はインドとの往来が多いので最初にデルタ株の置き換えが進みましたが、英国で増え始めたところでヨーロッパの運命はある程度見えていました。ヨーロッパではこれまでにない規模の流行になりそうであることがわかっています。 また、これは先進国だけの状況ではありません。アジア、アフリカの流行状況も悪くなっています。 日本に来たウガンダの選手が陽性になって話題になっていましたが、ウガンダの流行状況はそこまでの間とても悪かったのです。ウガンダだけではなく、ケニア、南アフリカなど、人口密度の高い都市があるところで流行が起きています。 アフリカ
従来株も増えたり減ったりしていますが、この色がついている部分は緊急事態宣言下では継続して1を割っています。宣言が明けるととたんに急増します。 ーーということは変異株の影響が増している今回、重点措置の緩めの対策でも効く可能性があるのですね。 いくぶん減る可能性はあります。 ただし、緊急事態宣言期間中では時間短縮という措置だけでなく、外出自粛要請や公共交通の減便の影響で皆さんの接触が減っていますし、市民の流行に対する認知度も高い。重点措置はそれらを伴っていませんね。 怖いのは季節的なイベントの要因や巨大なサイズの人の行動の影響です。年末年始の感染者の急増を事前に予測できなかったことに僕は責任を強く感じています。 あの時、全国的に急激に感染者が増えましたが、帰省によって全国的に一過性で増えていた。 政府や自治体、専門家は事前に「しずかな年末年始を」と訴えていたようですが、広い層に強いレベルでその
5月下旬に新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長が「パンデミックの状況で五輪をやるのは普通はない」と発言して以降、しばらくになります。 このセンテンスが広く知られる一方、私のような専門家目線では、カギとなる発言として「どのような状況で感染リスクが上がるのか、しっかり分析して意見するのが専門家の務めだ」という文が極めて重要であると考えています。 いまこそ、落ち着いてこの感染症のリスクと向き合うことが何よりも重要だと信じています。本稿では、今回のことを契機にあぶり出された日本の新型コロナ対策の根幹となる問題について、その本質に触れつつ整理したいと思います。個人的には、以下に述べる問題点の改善は、今後、日本が“科学技術研究の成果”を政策活用に結び付けられる国となるのか否か、そのカギを握るものとさえ考えています。 「政治」と「科学」の対立が煽られた経緯 最初に私の想いを述べますが、私は政府
尾身氏が「今の状況で(五輪を)やるというのは普通はない」と述べたのは、6月2日の衆院厚労委員会。以降、竹中氏をはじめ菅義偉首相の周辺から「五輪は尾身会長の所管ではない」といった声が相次いでいる。 確かに、尾身氏率いる分科会は、コロナ対策について科学的な知見から政府に助言を行う立場。五輪開催の可否などについて、政府から諮問を受けているわけではない。 五輪に危機感を抱く尾身会長 ©共同通信社 西浦氏はこう語る。 「五輪に伴う感染リスクは、国内の感染状況と無関係ではありません。五輪開催のリスクを評価することは、専門家としての責務です」 分科会やアドバイザリーボードの専門家たちは有志のメンバーで、これまでも五輪をテーマにした議論を非公式な形で重ねていたという。 「開催した場合に想定されるリスクの検討を行ってきました。海外から選手・関係者が来日することのリスク、人流増大に伴うリスク、医療逼迫のリスク
『ファクターX』、西浦博教授が報告 「考察すると見えてきた“4つ”の事実」 まだ根拠の不確かな楽観主義は危険 新型コロナ、アジアで流行が拡大 感染者数が増大した国に由来する変異株は英国由来のものや南アフリカ由来のものを含めて、瞬く間に世界中へと拡大し、従来株を置き換えました。自国由来の変異株の拡大が深刻なインドを中心に、流行初期は感染が欧米に比べて制御できていたアジアでも、現在は深刻な状況に一変しています。ついには、これまで地域内感染を食い止めてきた台湾やシンガポールでも感染の連鎖が報告され始めています。今回はその流行に焦点を当てていきます。 世界の流行状況に関するデータは世界保健機関の発表はもとより、ジョンズ・ホプキンス大学のGithubサイト(https://github.com/CSSEGISandData/COVID-19)で公開された情報がオープン化されており、また、複数ソースに
英国株への置き換わりが進む日本 2021年5月1日現在、流行が上昇傾向にあるほとんどの地で、感染性や重症化率が高いと言われるイギリス由来の「英国株」が「従来株」を置き換えて拡大しつつあります。 大阪・兵庫では、酸素投与をしたい患者さんがいるのに家で待機を余儀なくされていることも多く、相当に良くない状況です。大阪を支援している行政の友人は「これまでの流行が、まるで単なる練習試合だったのか」と話していました。誤解を恐れず言うと、それほどまでに思わせてしまう状況なのです。 そして、大阪と兵庫で連日亡くなる方が出ているのは、対策が遅れたことだけでなく、対応する現行の医療システムにも原因の一端があるかと思います。いまこそ、従来株によるこれまでの流行と、英国株に置き換わりつつあるこの「第4波」とでは何が変わったのかを科学的に整理して理解することが必要です。
昨年春の「第1波」の際、厚生労働省クラスター対策班の中心となり、「人との接触の8割削減」を呼びかけた西浦博さん。1年を超えた新型コロナウイルスとの闘いの中で、見えてきた日本社会の課題とは何か。「第4…
日本では特別措置法に基づく2度目の緊急事態宣言が年明けの1月8日に発出された。首都圏の1都3県ではそれが2度延長されたが、現在は感染者数の減少速度が少しずつ緩慢になり苦闘している状態である。また病床の占有率の減少も同様で、その中で英国株を中心に変異株感染者の増加が認められている。宣言下で感染者数が下がり切らない中、菅首相は期日となっている21日で宣言を解除することを表明した。 同じ“轍”は踏みたくない… 今、思い出されるのは去年の3月のことだ。月後半の3連休で人出がどっと増え、感染者数の増加につながっていった。私はその連休の直前だった19日、国の「専門家会議」の発表でのことを今も後悔している。当時は北海道の感染者数の動向が注視されており、会議では「北海道では一定程度、新規感染者の増加が抑えられていることを示している」とした。この時、世の中には緩和ムードが短期的に生じていた。 一方で、これか
「日本は緩和のスピードが早過ぎた」データ分析の専門家が考える今回の流行の理由第2波も終わらないまま、危機的な状況に近づきつつある今回の流行。何が原因だったのでしょうか? そして、二次感染を減らす4要素とは? 感染対策と経済との両立が叫ばれ続け、人の移動や飲食を促すGo To事業が行われてきたが、感染対策を考える立場からはこうした政策をどう見ているのか。 今回の流行に至った原因をまず分析していただき、二次感染を防ぐ要素についても語っていただいた。 ※西浦さんの著書の刊行に合わせ出版社が主催したグループ取材の前半は参加媒体の事前質問のうち共通する質問に答え、後半は各社1問ずつの個別質問に回答する形で行われた。追加取材をした上で、読みやすいように構成を変えている。 「日本は緩和のスピードが驚くほど早い」ーー医師向けの媒体「m3」でもGo Toトラベル事業が感染拡大に与えた影響について考察されてい
――現在、ワクチンの開発が進み、新型コロナとの戦い方を変える「ゲームチェンジャー」になる得るのか期待がかけられています。日本に導入された場合、数理モデル上、どれほどのインパクトがありそうでしょうか。効果が現れるのは、接種からどれぐらい経ってからですか? この「効果が現れる」というのは、おそらく人口レベルの効果のことだと思います。個人レベルだと1週、2週間で免疫ができるという話なので。 予防接種については、これから不確定要素がたくさんあって、どこまでうまくいくのかはわかりません。 今のところ、(承認のための治験の最終段階である)第3相試験のアメリカの研究成果を見ていると、一人当たりの効果に関するエフィカシー(有効性)と呼ばれる予防効果は高いと示されています。 コロナウイルスに関してこれまで、動物向けの毒性をなくした不活化ワクチンがありました。犬の赤ちゃんがうつ混合ワクチンの中に、コロナウイル
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