昭和生まれのマンガ好きの間で、『男坂』は知る人ぞ知る問題作だ。『リングにかけろ』と『風魔の小次郎』で押しも押されぬ「週刊少年ジャンプ」の看板作家となった車田正美が本作の連載を始めたのはバブル前夜の1984年のこと。本宮ひろ志に私淑して“漫画屋”になったことは当時から有名で、千葉県九十九里の中学生・菊川仁義がケンカで全国制覇を目指すという設定はまさしく車田版『男一匹ガキ大将』。本人いわく「こいつをかきたいために漫画屋になった」という入魂の力作だった。しかし、番長も硬派もとっくに死語となっていた時代背景に加え、車田正美ならではの非日常的バトルが描かれないこともあって人気は低迷。単行本3巻分、30週あまりで打ち切りとなってしまう。最終ページに無念の思いを込めてでかでかと書かれた「未完」の筆文字は伝説となり、編集部に「血の抗議文」を送りつけたファンまでいたらしい。 その直後、車田は最大のヒット作と