片足を引いて自宅に戻る。良くない兆候、と彼は思う。バランスが崩れている。彼はこの十年ばかり、月に五十キロメートル程度を走っていて、腫れるほど足を捻ったことは二度しかない。彼はなにごとにも慎重だし、無理をするたちでもない。子どものころは丈夫でなかったから、限界から少しのりしろを取る癖がついているのだと思う。だから学生の時分、もう少しハードなスポーツをしていたころにも、あんまり怪我はしなかった。 コンビニエンスストアで固定用のテープを探す。明日の出勤前に、もう少しきちんとしたものを買わなくてはいけないと思う。深夜の住宅街にも人はそれなりにいて、車止めに座ってテープを巻いているランナーをちらと見る。彼はうつむいて歩きだす。痛みは何度味わっても色あせないし、何分続けて味わってもずっと新鮮なままだ。どうして慣れないんだろうと彼は思う。ほかのたいていのことには慣れて鈍くなるのに。角を曲がると少し離れた