この七、八年、日曜日の昼飯は郊外のAに行くことが多かった。里山の麓のテーブル十席、カウンター二席の小体な店で五十代と思しきコックとマダムの二人でやっている。家庭フランス料理というのだろうか、ハンバーグ、羊ソテー、鶏こんがり焼き、ステーキ、ポトフ風豚煮込みを供している。お値段は手頃で飲み物とデザートが付いてステーキ以外なら二人で四千円以内に納まる。
最初の頃は魚料理、カレー、スパゲッティなどがあったのだが、だんだんメニューが減って五つになってしまった。私は羊のソテーが好きで飽きずに食べてきたが、女房の方が流石に飽きてきて、今日は他のものを食べてみたいと言うようになった。そのため月三回が二回に、二回が一回に減り、この一ヶ月はご無沙汰している。味は平均以上で、私は旨いと思っているのだが、十年近く通って、そう言えば何かが足りないと思うようになった。
通い始めたのは開店して一年ほど経った頃だったと思う。何時行っても空いており、私たちの他に客の居ないことも多かった。この値段でこの味だからそのうち繁盛するだろうと思っていたのだが、今でもお客さんは多少増えたようだが、繁盛とはいかない。コックは職人気質で、手を抜かないきちんとした料理を出してくれるのだが、そういえばどこか頑なのだ。いつだったか、魚料理はどうしたのかと聞いたことがあったが、魚はねえと言うだけで復活することはなかった。マダムは小綺麗にしているが、割と地味で正直な人で口数が少ない。自分は納得の値段で料理さえ旨ければ、他のことはあまり気にならないタイプだと思っていたのだが、年を取ったせいか、やっぱりレストランは料理だけではないなと思うようになった。
この頃は同じ系統の店でNというところに行くことが多くなった。ここは開店して三年目なのだが、繁盛していて予約しておかないと三十分くらい待たされてしまう。ここもメニューは五種類なのだが、魚料理がひとつあるのと日替わりというのがあって必ず目新しい料理が一品用意されている。十五席にサービスは一人なのだが、コックは三人いて甲斐甲斐しく働いている。手が空けばロビンウイリアムズに似た主人がサーブして愛想良く説明してくれる。味と値段はAと良い勝負だ。
Nには笑顔が溢れ雰囲気が明るい。窓際に恋人風二人連れ、隣に四人の家族連れ、そして辺りには調理の音と匂いが漂っている。要するに食事、特にランチは賑やかに楽しく食べられるのが良いと気付いたのだ。